飯田線秘境駅レポート 番外編  

天竜川林道走破録

 05年6月下旬に対岸を走る県道1号線から小和田駅を眺めることができた。その約一週間後の7月初旬に今度は天竜川林道から小和田駅への入り口を探索してみようと、林道へ出向くことになった。物好きといえばそれまでだが、やはり小和田へのアクセスがいかに困難であるかを調査することは、秘境駅・小和田を愛する者としては欠かせない。ただし、私ももう若くはないので、アクセス路から困難を極めるとまで言われる駅へのアプローチは自重しておくことにした。
 
落石の間を縫って・・・ まずは、林道の入り口である伊那小沢駅近くの分岐点へと向かう。ここから中井侍集落までは、前回のドライブでも訪れているため、幾分かは気が楽だ。中井侍集落に着き、改めて険しい山間部の暮らしぶりに触れながら、いよいよ先へと進む。

 実はここからが天竜川林道の本当の始まりといえる厳しい道のりとなる。このあと、人が住んでいるであろう場所は、小和田駅最寄りの塩沢集落を加えてほんの数カ所くらいしかない。しかも、塩沢集落を過ぎると、生活の気配がまったくしなくなる。俗世間とは隔絶されたような山のなかをただひたすら走ることになるのだ。民家がないうえに、携帯電話も通じないような場所なので、いくら道路を走るといってもそれなりの緊張感を強いられることは言うまでもない。

 長野県在住で、山道やカーブには慣れている私でも、さすがにこの林道はハードなコースとなった。まず、落石が非常に多い。車のタイヤなど簡単にパンクさせるどころか、車そのものに致命的なダメージを与えかねないような岩が、道中ゴロゴロところがっている。梅雨の合間ということもあり、余計に落石が多かったのかもしれない。もちろん、不用意に岩を踏んでパンクでもしたら一大事なので、スピードを落とした慎重な運転を心掛けた。
かなり高いところを走る林道 落石を避けるための徐行運転は、同時に見通しの悪いカーブの連続での対向車対応にも結び付いた。カーブミラーの設置などほとんどなく、片側は切り立った崖、片側は鬱蒼とした林という見通しの悪さには難儀した。1車線ながら道は思ったよりも狭くなく、舗装もしっかりとしているのでその点は安心して運転できた。

 県境に近付くにつれ、だんだんとカーブを切って登りこう配続く。明らかに高度をかせいでいることが分かる。やがて河内川をまたぐ橋が現れると、そこから先は静岡県へと入っていく。橋の近くには数台の車が止まっており、おそらく河内川での渓流釣り客と思われる。ただ、人の姿を見かけることはなく、私も素通りしていく。その直後、連続する落石地帯が待っており、静岡県入りの荒々しい洗礼を受けた。
県境にかかる橋の写真

 その先、少し視界が開ける場所にさしかかってので車を止めてようすを見る。天竜川ははるか下方に見える。そして鬱蒼とした林は、実はかなりの急傾斜の場所だった。うっかり足元を踏み外すと、どこまでも転がり落ちてしまうような感じがして、足がすくむ思いがした。こうした状況から、飯田線はもちろん、対岸の県道と比べてもはるかに高いところを林道が走っていることが分かる。
山すそにへばり付くような塩沢集落 そして、ようやく人の気配を感じると、そこが塩沢集落だった。よくこんなところに人が住んでいるなあ、という感想がまず飛び出すような場所である。その塩沢集落の長野県寄りに小和田駅へのアクセス路がある。ただし、これも事前にいろいろなサイトで調べていたからすぐに見つけられたものの、そうでなければまず発見することは難しい。見れば、簡易舗装はしているものの人が歩くのがやっとという、つづら折りの山道がかなり下まで続いている。むろん、この場所から小和田駅を拝むことはまったくできない。小和田駅へのアクセス路

 確か、小和田駅前の看板では「塩沢集落まで1時間」とあった。実際に歩いた人のレポートなど読んでも、かなりハードな山歩きであるようで、仮に時間が許したとしてもとてもチャレンジしてみようという気にはなれない。こんな調子なので、塩沢集落の住民も小和田駅を利用しようなどとは思わないのであろう。

 塩沢集落を抜けると、さらに山中へと分け入っていく感じになる。ここから先にはもう集落らしいものはない。ごく時々、廃屋を見かける程度で、あとは完全なる山の中である。途中で材木の切り出しをしている作業現場を通りかかり、人の姿を見れてホッとしたくらいである。逆に路上でサルの群れを見かけるなど、野生動物との遭遇は可能性が高い。夜間は言うまでもなく、早朝や夕方など動物の行動が盛んな時間帯はやはり避けるべきであろう。クマ、イノシシ、シカといった大型哺乳類との遭遇は、思わぬ事故につながりかねないからだ。
 30分は走ったであろうか、少し道が開けたと思ったところが西山林道との分岐点であった。この西山林道というのは、飯田線大嵐駅の脇を上っていく林道だそうで、全線舗装済みとのこと。大嵐駅は、橋を渡った対岸の愛知県富山村への玄関口になっている駅で、駅の所在地は静岡県水窪という珍しい立地条件にある。以前は大嵐から天竜川沿いに佐久間まで通じる道があったが、ご多分にもれず土砂崩れの連続で今は廃道同然になっているという。こんな案内看板も

大津峠 さて、もう一度山道を上っていくと、大津峠という尾根にさしかかる。ここには林道唯一の休憩スペースがあり、公衆電話も設置されている。テレホンカードは使えないが、携帯電話ですら連絡困難な場所なので、万が一の時には重宝する。ただし、ほとんど使用する人はいないであろう。

 大津峠からトンネルを抜けると、今度は急な下り坂にさしかかり、これまで見えていた天竜川側とは明らかに風景が違ってくる。水窪川沿いにある水窪市街地へと一気に下っていくのであるが、途中には巨大ながけ崩れを補修した場所もあり、林道の険しい自然条件を垣間見ることもできる。急な下りを過ぎると少しゆるやかな下りとなり、少なくとも落石の心配のない快適な林間コースになる。そして、眼下に市街地が見えてくると、林道のゴールもすぐそこに迫る。

 こうして、休み休みながら約1時間かけて天竜川林道を走破することができた。とにかく「疲れた」というのが最初の感想であり、次に出てきた言葉が「そういえば一台も対向車がなかったな・・・」ということ。いかにこの林道が人のいないところを通っているかを物語る瞬間でもあった。
(この項おわり)

※アクセスご注意 天竜川林道は、よけ違い場所などそれなりに整備されてはいるが、なんといっても通行する車両が極端に少ない道路である。落石は非常に多く、場合によっては通行止めもしくは通行不能ということも起こり得る。 集落間の距離が長いため、未熟なドライバーや山道に慣れていない人は、単独での通行は避けるべきである。とくに、小和田駅へのアプローチを目的とする人は、周到な準備と事前調査、当日の天候等踏まえた上、自己責任においてチャレンジして ほしい。