豪快!漁師と海釣り

タパチューラに住んでいる日系人の医者(ドクトール)の方で、海釣りが好きな人がいた。その人に誘われて、一度一緒に釣りに行ったことがある。
そのドクトールは、釣り好きが高じて自分の船まで持っていた。休日の度に漁に出ては魚を釣って来る。最初は奥さんも文句を言っていたらしいが、その魚が市場で意外と高く売れるので、最近ではむしろ行けと言うようになったそうだ。

朝4時。まだ暗いうちにドクトールの車で出発した。海までは30〜40分だ。
港には行かず、向かった先は漁師達が住む川沿いの村だった。
その川に、漁師達の船が何艘も舫ってある。
その中の一艘で、二人の漁師が漁の準備をしていた。
車が近づくと、二人は手を止めてこちらに向かって手を振た。
それがドクトールの船だった。
船は長さが6メートルくらい、屋根等はなく外付けのエンジンが一つ付いているだけのボロ船だ。クルーザーをイメージしていたので、拍子抜けしたが、こっちの方が楽しそうだ。
二人はこの村の漁師で、ドクトールの船を管理しているらしい。その日も一緒に漁に行ってくれた。

おもしろかったのは二人の会話だ。とにかく言葉が汚いのだ。
いわゆる隠語で、英語で言うと「ファック」というやつだ。
それが単語の間にしょっちゅう出て来る。
ドクトールも人が変わったように、隠語を連発していた。
日本語にするとこんな感じ。
「おい元気か、クソ野郎」
「元気だぞ、バカ野郎」
「今日はどんなアホ魚を釣るんだ、マヌケ野郎」
「今日はアホさわらが釣れるぞ、クソ野郎」
日本でそんな話し方をする人はいないが、どうもそんな風に聞こえた。

タパチューラに来て数々の隠語を覚えたが、ここで役に立つとは思わなかった。そういう汚い言葉は、友達が嬉しがって教えてくれるのだ。その代わり彼らは、変な日本語を沢山覚えたはずだ。
外国人の僕が隠語を使うわけではないが、知っていると誤解せずにすむ場合が多い。
今回はまさにそれで、漁師とドクトールの会話は、聞いていて実におもしろかった。

肝心の漁の方は、釣り糸を手に持って疑似餌で釣るシンプルな釣りだ。大物を狙っているようで、ちょっちゅう餌を変えては、船を走らせたり止まったりを繰り返していた。
メキシコはカジキマグロが有名で、観光地に行くとそういうツアーがたくさんあるが、太平洋側のここら辺でもたまに釣れるようだ。きっとそういう大物を狙っているのだろう。
だけどそんな大きいのが釣れたら、この船に乗るのだろうか。そんな心配をしながら、その間に何匹もさわらが釣れた。
釣り糸を手に持っているので、引きがダイレクトに伝わってくる。竿で釣るよりおもしろいかもしれない。
針に魚がかかると、日本では普通「来た」という。直訳のスペイン語で「ビエネ」(来るの3人称単数)と言っていたら、みんなにげらげら笑われてしまった。
「ビエネ」と言うのは、女性が気持ち良いときに使う言葉なのだ。ちなみに日本語では「いく」。
笑われても魚がかかるとつい「ビエネ、ビエネ」と言ってしまう。その度に笑われながら、次々とさわらが釣れた。
結局さわらばかり、50〜60センチのが20匹以上釣れた。大漁だろう。

3時間ほどで漁を終え港へ戻った。
岸に上がり、漁師の家で朝食をご馳走になった。今釣ってきたばかりのさわらが入った、海鮮スープ「ソパ デ マリスコス」だ。「ソパ」はスープ、「マリスコス」は海産物という意味で、様々な魚介類の入ったトマト味のスープだ。海の側の町では名物料理で、専門店が何件もあった。メキシコ各地で食べることが出来たが、このとき食べたソパデマリスコスはベスト3に入るくらい、本当に美味しかった。

余談だが、ドクトールは左手の中指がなかった。弟さんの話では、釣り糸で切断してしまったらしい。
確かにあの釣り方で、カジキなどの大物がガツンと来たら、指など切れてしまうだろう。ドクトールは手袋をしていたが、釣り糸を指に巻きつけないようにしていた。
指をなくして、それでも毎週釣りに来るドクトールの釣り好きは本物だ。言葉使いといい、本物の漁師に負けていない。
それにしても漁師の言葉は汚かったな。あの汚い会話が2、3日頭から離れなかった。

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