「・・・では、今日の予定について説明する。」

「了解です。」

 

二人の者が話をしていた。

この、人間には届かないような高いところで。

見たところ・・・男と女。

 

一人は、超長い金髪(大体腰ぐらいまで)、超長身(190は確実に超えている)、超美形の青年。

 

そしてもう一人は、長い金髪こそ同じだが、身長はそれよりも小さめで(大体170cm)

顔は・・・まだ幼さが残る美形の少女。といったところだろうか。

 

青年が、少女について、何かを説明しているようにも見受けられる。

 

「柳町2人、楓町3人、向井町1人・・・」

「・・・計6人ですね?」

「そういうことだ。やれるな?」

「いつもと違って人数が少ないようにも思えますが・・・」

 

少女は、青年に疑問を投げかける。

 

「・・・そんな一日に多くこっちに連れてもらっては向こうも大変だろう。出来るなら、こちらには連れてきたくないしな。」

「あ・・・すいません。」

「気にするな。それよりも今日の任務をしっかりやってこい。」

 

青年は、優しい笑顔で言った。

そのおかげか、少し曇った少女の表情にも、わずかな微笑が戻った。

 

「では・・・行って参ります。」

 

そういうと、少女は軽く眼を閉じた。

何かに集中するように。深く。強く。

 

「・・・はぁっ!」

 

バサァッーーー!

 

白い、翼。

 

真っ白で、何一つ穢れの無いような美しい翼。

 

それが―――少女の背中から生えた。

 

 

 

少女は、今いた高い所から飛び降りた。

いわばそれは―――天国。

 

彼女は―――


Justice Angel

〜正義の天使〜


彼女は、空を飛んでいた。

その、白く美しい翼を使って。

 

「・・・まずは柳町ね・・・」

 

白いローブに身を包み、美しい銀髪をなびかせながら。その長身で。彼女は空を飛ぶ。

まるで、天使のように。

 

 

 

否。

彼女は天使だった。

 

 

 

彼女が空を飛ぶ。

しかし、地上の―――いや、下界の人間には見つからない。

 

地上に降り立つ。

だが、人々は地上に降りてきた一人の少女に気づかない。

 

再び、空を舞い上る。

それでも、人間は彼女に振り向きもしない。

 

 

 

なぜなら、彼女は天使だから。

天使は、人間の眼には見えないから。

 

美しく、可憐で、繊細なその姿は

ただ地を這う人間にはその姿を見ることが出来なかった

 

 

 

 

 

 

 

柳町―――

私は、そこにある、一軒の家に立ち寄った。

 

もちろん、彼女の存在には誰一人気づかない。

なぜなら彼女は天使だから。

人間に、気づかれてはいけない存在だから。

 

そこでは、葬式が行われていた。

一人の老人が亡くなったらしい。

彼女は、気づかれないのをいい事に家の中へと入っていった。

 

 

 

「ううっ、お祖父ちゃん・・・」

 

中では、身内の人々が、亡くなったその人の前で涙を流していた。

辛く、悲しいから。人の死は。

 

彼女は、老父の死体が入れられている棺桶に近づいた。

ゆっくりと。ただゆっくりと。

 

彼女は、いやそうな顔をした。

亡くなった人間の死体を目の前にして。

 

「・・・この時が、一番嫌いだな・・・」

 

彼女は、そういいながらも手を前に差し出した。

すると、そこに浮遊する炎のような物体が現れた。

人間が俗に言う―――「人魂」

 

「・・・大丈夫です。これからあなたを天界にお送りいたします。

痛みはありません・・・これからあなたは別の人間をして蘇生し、新たなる人生を歩むのです・・・」

 

彼女は言った。

優しい笑顔で。

 

人魂も、その意思を受け取ったのだろう。

彼女の手の上から動かなくなった。

 

「では・・・こちらのほうに入っていてください。」

 

彼女は、ひとつの布の袋を腰から取り出した。

人魂は、彼女に従うままに袋の中に入り、彼女は袋の紐をギュッと締めた。

 

「ふう・・・」

 

一息つき、天を仰ぐ。

もちろん家の中なので天井しか見えないが。

 

すぐに、窓のほうから空へと舞い上がる。

次の任務を実行するために。

 

バァサァッーーー!

 

翼を広げる。

空を飛ぶために。

スピードを上げる。

任務を早く終わらせるために。

何かに気づく。

何の因果かはわからないけど。

 

下界で起こった、交通事故。

トラックが、乗用車をはねたようだ。

 

「・・・これは、まず助からないわね。」

 

彼女は、急いで現場へと急行する。

そのスピードに気づくものもいないが、別にそれはそれで好都合だし。

 

乗用車の近くに浮かぶ『人魂』

それは、先ほどの老人の人魂と違い、トラックの周りを暴れまわっていた。

彼女はそれに近づき、そっと手を差し伸べた。

 

「死んだことを認めて・・・あなたはここで亡くなりました・・・」

 

だが、その人魂をそれを聞かずにトラックのまわりを暴れまわっている。

乗用車に乗っていた人物なのだろう―――トラックによっぽど憎しみを抱いているようだ。

だが、彼女は天使だ。

それにもひるまず、人魂への説得を続けた。

 

「怖がらないでください・・・死を。

死は万人が恐れます・・・ですが、それを認め、天国へと逝きましょう・・・

大丈夫。あなたはこのまま死ぬのではありません・・・」

 

彼女は、多少説得により落ち着いた人魂へと、話を続けた。

 

 

 

「これから、新たなる人生を歩んでください―――それが、人間にできる私たちの全てです―――」

 

そこまで言ったところで、ようやく人魂は落ち着いたようだった。

彼女は、腰から先ほど老人の人魂を入れたのとは別の空の袋を開けた。

 

「それでは、ここに入ってください・・・少しの辛抱ですから・・・」

 

人魂は、一瞬躊躇したものの、すっと袋に入った。

そして、彼女は袋の紐を締め、再び空へと舞い上がった。

どうやら、トラックの運転手のほうは無事のようだ。

まぁ、こっちはただ乗用車はねただけだし。

 

 

 

 

 

 

 

全ての任務を終え、彼女は、空を飛んでいた。

すでに日は沈みかけ、夕方となっていた。

 

ゆっくりと、ゆっくりと―――

彼女は天界へと戻っていく。

 

彼女の一日は、これで終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の仕事は、魂を成仏させること。

 

天使として、彼女のすべきことはまさにそれだった。

 

死した魂を下界から天界へと運び―――

 

そして、神の力によって、人は再び生まれ変わり下界へと生命を吹き込まれる。

 

その仲介役を務めるのが、彼女ほか『天使』の仕事だ。

 

 

 

彼女は、その天使の一人だ。

 

天使は、死した魂のために働く。

 

それが、天使の仕事だから。

 

 

 

だが、彼女は少し考えが違っていた。

 

人の魂を蘇生し、新たなる人生を歩ませること。

 

それが、彼女にとっての『正義』だったから。

 

彼女は、人の命を多く助けたいから。

 

 

 

出来ることなら、彼女は人を死なせたくなかった。

 

しかし、それが出来ないからこそ天使として魂を連れ帰り蘇生される。

 

それが、彼女にとっての『正義』だから。

 

そして、彼女は天使だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・おかしい。」

 

彼女は、再び下界に仕事に来ていた。

ただ、疑問に思っていることがあり少し真剣な表情をしていた。

 

「魂が、予定より少ない―――?」

 

 

 

彼女は、上司である長身の天使にいつも『救う魂』の数を伝えられる。

だが、今日は伝えられた数よりも少ないというのだ。

 

しかし、予定は未定であり確定ではない。

『救う魂』の数は絶対数ではないのだ。

 

なので、いつも予定よりも一つや二つの魂が狂うことはよくある。

だが―――

 

「今日の予定は12人なのに・・・半分も集まらないなんて・・・」

 

異変。

それに気づいた彼女。

 

彼女の腰には、幾つものあの布の袋がつけられているが、

いつもより圧倒的に数が少ないことが感じられた。

 

「・・・?」

 

彼女は、白い翼を羽ばたかせ、空を飛びながら考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

バシュウッーーー!

「!?」

 

彼女の目の前を、何か黒い物が横切る。

彼女はそれに驚き、空中で翼を動かしつつ動きを止めた。

 

「何―――?」

「ここだよ、ここー♪」

「!?」

 

後ろから声が聞こえる。

彼女は瞬時に振り返る。

だが―――誰もいない。

 

「何なの!?」

「こーこだってば♪」

「くっ!」

 

また―――後ろから声が聞こえる。

まるで、彼女をからかっているかのように。

 

彼女は怒りを抑えながら再び身体を後ろに向ける。

しかし、人影一つ見えない。

 

「・・・誰なの!?」

 

彼女は、怒りをあらわにしてその『存在』に問う。

しかし、返事は返ってこない。

 

「一体、何のために―――!」

 

そういった時だった。

 

ーーームニュ。

 

「・・・へ?」

 

変な感触。

胸の辺りから感じられた。

 

「あ、結構大きいんだねぇ〜♪見た感じそうは見えなかったんだけど・・・着やせするタイプなの?」

「!!!」

 

見ると、後ろから伸びている手が彼女の胸をわしづかみにしているわけで―――

 

「いや〜気持ちいいな〜♪この絶妙な柔らかさと大きさがなんとも・・・♪」

「ちょ、ちょ、ちょぉ〜〜!!??」

 

それに気づいた彼女は羞恥心と怒りで顔を真っ赤にした。

しかもそれのせいでうまく声が出ない。

そのことを知ってか知らずかその人物―――と思われるものは彼女の胸を触り続けた。

 

ムニ、むにむにーーー

 

「やっ、あっ・・・」

「そんないやらしい声出さないでよ♪こっちまで変な気分になってくるじゃんか♪」

 

とかいいつつも彼(だろうか)の声は非常に明るく、楽しそうだ。

たぶんサディストかと。

 

「あ・・・ほんと至福・・・こうなったら是非下の方まで・・・」

ガスッ!

「ぶっ!?」

 

彼(なのかわからないが)が下の方に手を伸ばしたとき、

彼女の肘鉄が彼(かもしれない)の顔面に直撃した。

彼女は、彼(ほぼ確定)の手を振り払うと顔をいまだ真っ赤にしたまま怒ったような(怒ってるんだけど)口調で叫んだ。

 

「な、何なのよアンタ!」

「いつつつつ・・・。」

 

だが、その彼(もう完璧に)はやられた顔面を押さえたまま空中でうずくまっている。

ようやく、その場に立ち上がり(といっても空中だけど)彼女の顔をじっと見据えた。

 

「いやごめんごめん♪あまりに君が可愛かったからさ〜♪」

「なっ・・・!」

 

その言葉に、再び顔を赤くする彼女。

だが、彼(確定済み)はにっこりと微笑んだ顔で彼女をじっと見つめていた。

 

「あれ?もしかしてこういう言葉慣れてないの?か〜わい〜なぁ〜♪」

「う、五月蝿い!」

 

彼女は顔を赤らめたままこちらを見る彼に答える。

 

『彼』は、真っ黒で長い髪の毛。

黒いローブに黒い翼。赤い瞳と、何から何まで彼女とは異なった容貌の存在。

身長は大体彼女より少し高いぐらい・・・スリムな体系をしている。

 

 

 

そして、何より一番彼女と違うところは、常に微笑みを備えた顔。

 

「いや〜ホントごめんよ♪まさかこんなところで天使を見るとは夢にも思わなかったし♪」

「・・・あなた、何者なの?」

 

彼女は、ようやく平静を取り戻したようで、彼にそう問いかけた。

 

彼は、笑顔だった。

だが、その笑顔は普通喜びなどのときに見せるような微笑ではなかった。

 

 

 

残忍。

 

 

 

残虐。

 

 

 

冷酷。

 

 

 

憎悪。

 

 

 

彼の紅く輝く瞳からは、そんな感情が溢れているかのようだった。

 

(・・・何なの、この人・・・)

 

彼女も、その感情を感じ取っていた。

外見上はどれだけ平静にしようとしても、内心はその動揺を隠せない。

 

「僕の正体?そうだね・・・」

 

彼はそういって、少し目をつぶった。

相変わらず口元には笑みが残っているが。

 

「魂を狩り、成仏させる闇の番人・・・死神さ。」

「!!」

 

彼女は、その言葉に目を見開いた。

彼女の前に浮いている彼は・・・とてもそのようには見えなかったからだ。

 

死神とは、彼の言うように魂を成仏させる者。

この点では、なんら天使とは変わりがない。

しかし、彼らは天使とは違って持ち合わせているものがある。

それは―――『多少強引な方法による成仏』

 

天使は、『魂に安らぎと安堵』を与え、自らが死んだことを認めさせてから成仏させる。

しかし、死神は対照的に『魂に一撃の安楽』を与え、例えその魂が死を認めていなくとも成仏させる力を持つ。

 

そのため、死神とは残酷でなければならない。

残虐性を持たなければ、魂に無駄な同情をし、成仏をさせることなど不可能だからだ。

 

だが、彼の外見からはその残酷さは見えなかった。

あえて言うならその全身黒尽くめのところだけだろう―――

 

そう考えていると、彼は突然笑い出した。

 

「あはは、ねぇ、驚いた!?まぁ突然そんな事言われたら普通驚くよねぇ〜♪」

「は、はぁ・・・」

 

子供のように、無邪気に笑う彼。

先ほどの殺気がまるで嘘のようだ。

とても―――死神と呼ばれているものとは思えなかった。

 

彼女は、笑い続けている彼に問いた。

 

「ねぇ・・・」

「ん?何かな♪」

「あなたは・・・一体何が目的で私のところに来たの?」

 

大きな笑い声が止まる。

そして、彼はじっと彼女を見据えた。

 

その、少年のように無邪気な笑顔をそのままにして。

 

「目的か・・・」

 

彼は、そういうと天を仰いだ。

 

 

 

「言っちゃって・・・いいのかな?」

 

「・・・別に、かまわないわ。」

 

「そう・・・」

 

「・・・」

 

「なら・・・言っちゃおっかな?」

 

 

 

彼は視点を降ろすと、再び彼女を見た。

だが―――

 

(・・・!?)

 

彼の目は変わっていた。

 

残忍で

 

残酷で

 

冷酷で

 

暴虐な―――

 

(やっぱり・・・嘘じゃなかった・・・!)

 

 

 

先ほども感じた、この冷たさ。

 

心の奥底までが

 

消え失せ

 

凍りつき

 

無くなり

 

朽ち果てるかのような。

 

闇―――

 

 

 

彼は、不敵な笑みを浮かべた

先ほどの少年のような微笑とは違う―――残酷な笑顔

 

 

 

「ボクが求めているものは・・・」

 

彼女は、息を呑んだ。

 

「・・・キミの腰につけられている、その魂だよ。」

「!!」

 

 

 

ブォンッーーー

 

瞬間。

 

彼から放たれた一太刀の刃。

 

「クッ・・・!?」

 

彼女の頬を霞める。

 

血が滲む。

 

痛みは無い。

 

だが―――

 

恐怖を感じる。

 

先ほどまで

 

温かみさえ

 

感じさせた

 

彼から

 

「避けちゃったか・・・キミ、可愛いから痛みなんか与えるつもりは無かったのに・・・」

「・・・!」

 

彼の右手には、大きな鎌が握られていた。

それこそが、まさに今彼の振り下ろしてきたもの。

 

「残念だな・・・」

 

彼の顔には、僅かな笑みすらなくなっていた。

残忍な紅い瞳は、彼の残虐性をいっそう高めていた。

 

「今度は避けないでね・・・!」

「なっ!?」

 

右手に握り締めた鎌を、彼は彼女の直前で振り払う。

 

ブォンッ!

「ぐぅっ!」

 

どうにか回避する。

だが、完全ではなかったようで、ローブの腕の部分が裂かれ、腕が僅かに露出し、血が滲み出している。

 

彼女は、彼を睨みつけた。

 

「・・・あなたは、一体何が目的でこの魂を狙うの!?」

「目的・・・?」

 

彼は問いに答えようとする。

そのとき、再び彼はその残忍な笑顔を見せた。

 

「そんなの決まってるだろ・・・?」

「え・・・?」

 

 

 

 

 

 

「食べるんだよ・・・このボクがね。」

「え・・・!?」

 

衝撃の一言だった。

 

魂を喰らう者。

まさか現在にそんな者がいるとは、夢にも思っていなかったからだ。

 

「そんな・・・!?」

「あれ?キミは食べたこと無いの?人間の魂・・・」

 

残酷な笑顔で彼は問いかける。

闇の深くへ引きずり落とされそうなその紅い瞳は、彼女を惑わしていた。

 

「美味いんだよ?・・・人間の魂は・・・

その人間の性格や人生、心の奥深くに存在するその人間の本性から何から何まで・・・最高の味だ。」

「・・・!!」

「特に殺人とか犯したやつとかは格別でね・・・心の闇が特別に美味い。

まるでさ・・・自分にとっての闇が少しずつ補給されていくみたいでね・・・ホントに美味いんだよ・・・

他にも、自殺者とか虐待されたヤツとか・・・心の闇が奥深いやつほど美味さが増していくんだよ・・・」

 

 

 

死神。

 

先ほどの彼とは違う、残虐な。

 

彼女は、震えていた。

 

 

 

そして、彼は彼女が震えているのに気づいた。

 

「・・・どうしたの?怖くなっちゃったのかな?」

「貴方は・・・!」

「へ?」

 

驚いたような目で、彼女を見る彼。

そして・・・怒りを露にした瞳で彼を見つめる彼女。

 

「貴方は・・・人の命を何だと思っているの!?

人は魂となり天に還る!そして天界から再び人間としての生を与えられ、下界に降りて行く!

そうやって、人間は今まで生きてきた!だから・・・!」

「だから、どうだっていうんだい。」

「え・・・!?」

 

信じられない言葉が彼から発せられたのに、彼女は一瞬呆けた。

 

彼の目は、残酷だ。

今の彼の瞳に、何が映っているのだろうか。

 

「人間は今までそうやって生きてきた?・・・逆に腹が立つね。」

ヴン!

「あ・・・!」

 

彼は、姿を消した。

いや―――彼女の眼に捉えられないほどのスピードで、この周囲にいた。

 

「何故人間はこの世に生きているんだ?

何故人間などという生き物がこの世に生まれてしまったんだ?

何故人間がこの世を我が物のように扱っている?

何故人間は―――」

 

 

 

彼は、姿を現した。

 

彼女の、真後ろに。

 

「あ―――!!」

 

恐怖。

 

 

 

 

 

 

 

「―――人間を、殺すんだい?」

 

ザシュッーーー

「かっ―――!?」

 

彼の鎌が、彼女の背中を切り裂く。

人間と同じように、赤い鮮血が彼女を覆う。

 

 

 

「人間は―――生きていてはいけない。

地球にとって。いや、ボクらにとっても人間なんていうのは不必要な存在なんだ。」

 

彼は、淡々としゃべりだした。

血まみれになった彼女を見て。

 

「人間は―――自らが生かされている存在だということに気づかず、世界を我が物と思って行動している。

同じ種族である人間を平気で殺し、殺した人物はのうのうと世界に生きている。」

 

その、彼の思い全てを。

 

「更に酷いのが戦争だ。自らの命を大事にしようとしないで何が平和だ?

そして、戦争で勝った者は勝者として、そして英雄として崇められる―――おかしいと思わないかい?

彼らは人を、自分の兄弟を殺して英雄になったんだ。普段は人を殺すなとか教育するくせに、何を言ってるんだろうね?」

 

軽く、嘲笑した。

それが、彼の本心だった。

人間に対する、彼の本当の本心―――

 

 

 

「本当に愚かな生き物だよ―――キミもそう思わないのかい?」

 

 

 

彼は、今ほど切り裂いた彼女に長々と問う。

紅き背中は次々とその鮮血を放射し、その身体は痛みによって躍動している。

 

「・・・まぁ、もう済んだことだね。」

 

彼は、彼女に近づくと腰へと手を伸ばした。

 

「それじゃ、これは戴いて―――。」

ガシッ!

「!?」

 

伸ばした彼の腕を、彼女は掴む。

必死に。それを彼に奪われないように。

 

 

 

「・・・貴方の言ってることも確かに正論だわ・・・」

 

彼女は、そう言った。

息を切らし、今にも倒れそうな状態で。

 

「だったら・・・」

「でも、それでも人間は生きようと必死なの。

確かに、戦争とか殺人とか愚かで情けない生物かもしれない。地球を汚しているのはあの人達なのかもしれない!

でも!あの人たちは必死で今を生きている!そしてこれからまた新たなる人生を歩もうとしている!」

 

彼女は、涙を眼にいっぱい浮かべながら叫んだ。

 

「私の正義、それは―――!」

 

ガッ!

 

彼の手を振り払う―――

そして、手に自らの武器を誕生させる!

 

「この地球とそこに生きる全ての者を―――見守ること!」

「何っ・・・!?」

 

バシュウゥ!

「クッ!」

 

ズシャッ!

 

彼女の武器。弓矢。

放たれた一本の矢は、彼の右翼を貫通する。

両翼でバランスを保つ彼、死神は、片翼を打ち抜かれて上手く飛べなくなっていた。

 

彼女は、そんな彼を見ていった。

 

 

 

「引き返して。私は貴方と戦いたくは無い。」

「・・・キミを殺そうとして、キミの生き方を否定したヤツをかい?

今だったらボクも自由に動けないし・・・とっととその弓でボクを貫くのがいいと思うんだけどね・・・」

 

彼は、右の翼を貫かれ、バランスが取れないまま浮遊した状態で彼女に問う。

だが、彼女は答える。

 

 

 

「私は・・・知ってるわ。」

「・・・何を?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・貴方は、そんなに悪い人じゃない。」

「・・・はは、嬉しい事言ってくれるね♪」

 

 

 

彼は、笑った。

残酷ではなく、優しく。

 

「どーせ、このままじゃ同士討ちってのがオチだし・・・まだまだ死神として生きるのは楽しいし・・・いーよ、条約締結ってことで♪」

「・・・ありがとう。」

 

彼女も、彼に対して笑顔を見せた。

 

「あ。」

 

と、彼は突然声を出した。

それに、彼女はビクっと驚いた。

 

「な、何?」

「・・・ようやく、笑ってくれた。」

「え?」

「・・・あはは!可愛い!可愛すぎるよ!いや〜本当に殺さなくてよかったぁ〜♪」

「え、いや、その、えっと・・・」

 

『可愛い』という一言に、彼女は顔を赤らめた。

そこに気づいた観察力の(無駄に)鋭い彼は、彼女に言った。

 

「自信持ったら?本当に可愛いよ君は。僕が保証してあげる♪」

「・・・ありがとう。」

 

彼女は、顔を赤らめた状態で、彼に感謝の意を述べた。

 

「さて、魂が食べられなかったのは残念だけど、帰ろうかな?どうせこのままここにいてもする事無いし・・・あ、そうだ。」

「な、何?」

「背中、見せて。」

「え?」

 

彼は、思い立ったかのように彼女に申し出た。

 

「ほら、さっき僕キミの背中斬っちゃったでしょ?」

「あ・・・そういえば・・・」

 

そういわれると、つい―――

 

「・・・って、ちょっとちょっと!!??」

 

・・・意識が飛びそうになってしまう彼女。

だが、彼の必死の呼びかけにどうにか意識を取り戻す。

 

「・・・あ、ごめんごめん。」

「ごめんごめんじゃないでしょ・・・ほら、背中見せて。」

「あ・・・」

 

そういうと、彼は無理矢理彼女の背中を自分の正面に向ける。

なれない彼女は、少し顔を赤らめた。なんと無垢な。

 

彼は、そういってから彼女の背中をじっと見つめた。

 

「・・・ど、どうなの?」

 

彼女は、何も言わない彼に問いかけると―――

 

 

 

「・・・可愛い。」

めきっ。

「ぶっ!」

「・・・変な冗談はよして。」

「じょ、冗談のつもりは無かったんだけど・・・厳しい・・・」

 

・・・得意の彼女の肘鉄が、彼の顔面にクリーンヒットする。

というか本当は君は体術系じゃないのかね。

 

それはそうとして、顔面を左手で押さえながら右手で彼は彼女の背中にそっと触れた。

痛みで、彼女は顔を歪める。

 

「痛ッ!」

「ごめん・・・でもちょっとだけ我慢してね?」

 

彼はそういうと、目を軽くつぶった。

そして、全神経を彼女の背中に当てた右手だけに集中させた―――

 

スゥッ――――――

 

彼の手が。

彼女の背中が青白い光に包まれた。

 

「・・・え?」

 

不思議な感覚とともに、彼女は背中から痛みという感覚がなくなったのに気づいた。

ふと、背中を見ると彼女の背中には傷一つついていない状態に戻っていた。

 

「え!?何で・・・」

「まぁまぁ気にしない気にしない。これで今日の分の借りは返したってことで・・・いい?」

 

彼は笑顔で彼女に問いかける。

 

「うん、ありがとう・・・」

「ははっ、さっきまで殺そうとしてた相手にそういわれるとなんか微妙な気分だね〜。」

「・・・でも・・・」

「・・・何?」

 

彼女は、何かを言おうとして、口を開いた

 

 

 

「・・・今は殺す気なんて無いんでしょ?」

「・・・あははっ!あったら君とこうして話してるわけ無いでしょ〜?ホントに面白いな君は〜♪」

「ふふっ、そうね・・・なんで、こんな事言ったんだろうね・・・?」

 

彼は、軽く笑って見せた。

彼女も、彼とともに微笑んでいた。

 

「さあ、わからないけど・・・最後に、君の可愛い笑顔見れて僕は満足だよ♪・・・それじゃ〜ね♪」

ヒュッーーー

「あ・・・」

 

信じられないスピードで彼は飛んだ。

まるで、片翼が自由に動かないとは思えないほどの早さだ。

 

「・・・凄いな、彼。」

 

尊敬するほどだった。

あの思想だけは理解できないが―――それでも。

 

 

 

と、彼は遠くのある地点でぴたりと止まった。

そして、彼女のほうを見ていた。

 

「・・・どうしたんだろ?」

 

遠くからなのでよく分からないが、確実に彼は彼女のほうを見ていた。

そして、僅かながら口が動いているのも確認できた。

 

「ねぇ!何言ってるのか聞こえないんだけどー!」

 

そういった途端、彼は飛び去って言った。

本当にすばやく、高速で。

 

「・・・結局、なんだったんだろ?」

 

彼女はそれを見て、首をひねるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・今日は8人ですか。」

「ああ、やれるな?」

 

長身の天使が、彼女に問う。

彼女は、無言のまま頷く。

 

「よし、行ってこい。」

「はい・・・!」

 

彼女は、白い翼を広げた。

 

人間を、救うために。

 

彼に叫んだ、自らの『正義』を貫くために。

 

 

 

 

 

そう、彼女の正義を―――

 

 

 

...to be continued


あとがけ(謎)

えーどうも、どうやら人類破滅願望を持ってるっぽい遼魔です(核爆)。

以前ラグナロクさんところに投稿した『夜空』もそんな感じだったし。人間嫌いなのかな?

というかこんなの送るか自分。

 

というわけで、『Justice Anjel』。いかがだったでしょうか?

はっきり言って読み返してみると非常に駄文ですねこれは(滝汗)。

えーとまぁ。天使ちゃんと死神くん(あえてそう呼ばせてもらう)の物語です(んなことわかってるって?そりゃそうですな)

 

それで―――

 

シュッーーー

!? とおっ!

 

「ちぇー、避けちゃったかー」

「せっかくだから当たれば良かったものを・・・」

 

何を言っている名無し二人組。

 

「グハぁっ!!」

「クッ・・・!?」

 

はっはっは・・・どうやら図星のようだな。

 

「というか・・・この作者がキャラに名前をつけないなんて珍しい。」

「今までいたキャラはほとんどついた状態なんでしょ?何で私たちだけ・・・」

 

だって、彼と彼女で済ませられるし。キャラ少ないから。

名前出てきたのホントにいないんだよねこの作品。

 

「適当にもほどがあるよ・・・」

「確かに・・・」

 

というかね。本音を言いますと―――

 

「?」

 

名前が思いつかない。お前らだけ。

 

「斬るよ?」

「射るよ?」

 

あ、勘弁して?そればっかりは本当にっておいやめろ馬鹿コラ死ぬ死ぬ絶対死ぬ!

 

「大丈夫だよ〜♪今までこういう座談会で死んだこと無かったでしょ〜?」

「だから貴方を射るわ。私の正義のために!」

 

ちょい待て!俺は悪か!?

 

「どう考えてもそうじゃん?」

「では・・・行きます!」

 

でぇ、やめろやめろー!!!に゛ゃあ゛ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

「あ、死んだ?」

「それなら嬉しいんだけど・・・とりあえず放置しておこう。」

「そうね・・・」

 

 

 

・・・ふう、行ったか・・・

危ない野郎どもだ。危うく死ぬところだった。

 

というわけで、ここまで見ていただいて本当にありがとうございます。

こんな速攻ネタでやたら遅く制作した作品を見ていただいて・・・感無量です、学園戦記ムリョウです(おい)(しかも見たことないし)。

 

で、これで終わってないんですよこの作品・・・

実を言いますと、死神くんサイドの全く同じ時間軸のストーリーがあるんです。製作に取り掛かってませんけど。

死神くんの一人称視点でやろうかなーと。結構時間かかりそうですが。

 

ところで、結構色んな(くだらない)所にこだわってるんですよねこの作品。

死神くんがキレる前とキレた時だと一人称が「僕」から「ボク」になってたりとか。

それでも描写がまだまだだったりする。シーンのほとんどは皆さんに想像して頂いて(殺)

 

というか、後半結構適当です(水爆)。

早く作りたかったから・・・予定ではもっと戦闘シーンを入れる予定だったんですけどね。

天使ちゃんに弓矢出させるまで剣で戦わせたり。

結局天使ちゃんと死神くんが一撃ずつで終わりです。残念。非常に残念。

 

というわけで、見ていただいて本当にありがとうございます(二度目)。

これからもどうにかして頑張りますので、よろしくお願いいたします。

 

最後に(まだあんのか)。

天使ちゃんと死神くんの名前、随時募集中です(核爆)。


補足設定

 

天使

文字通り天からの使い。
全ての天使は一部の例外を除いてかなりの秩序が保たれている『天界』に暮らしています。
階級は主に下級天使、上級天使に分けられます。
下級天使の仕事は、下界(人間世界)からの魂を天界に持ち帰ること、通称『回収』の任務(この話では天使ちゃんのこと)。
そして上級天使の仕事は、その日の死亡予定者、未収用魂についての情報収集および下級天使への命令です。
たまに下級天使とともに仕事(回収)にも行きます。

さらに、上級天使の中には『六天(りくてん)』と呼ばれるものが存在します。
天使の中でも飛びぬけた実力を持ち、神の次に強い権限が与えられているとか・・・(ちなみに天使ちゃんの上司はここ)。
『六天』の仕事は、神の護衛に始まり多くの重要任務を与えられることが多いです。

・・・でも、何で『上司』は直で天使ちゃんに命令してたんだろうね?
あんた位高いでしょ・・・

 

死神

文字通り死を司る神。
基本的に最低限の秩序だけを持った『死界』に暮らしています
階級はという概念が無く、年功序列の古い思想を持った者たち。
ただし、ごく一部では実力主義を取っているところもあります。
基本的に死神は部隊に所属しており、大体時間ごとに自分たちで決めて上界(人間界)を見回ります
そのため、実力順に『兵隊クラス』『隊長クラス』『魔人クラス』『閻魔』というのが実質的な階級として存在します。
作中にもあったとおり、天使と違い無理矢理にでも魂を成仏させられる力を持ちます。

死神くんは若いので権限などはほとんどありませんが、実力が非常に高いので問題行動を起こしても上の者も処分を下すことが出来ません(反撃を恐れるため)。
そのため、最近は実力でどの部隊の隊長も決めるという意見が上がってます。

ちなみに天使や死神はあくまで『精神体』としてこの世に存在しています。
そのため、一応不老不死ではありますが・・・
人間と同じように出来ているため(というか、神は天使や死神をもとにして人間を作った。だからあくまで天使や死神のコピーが人間)、
血は流れるし、傷もつく。その中で両種族が『死ぬ』のは『精神的身体を維持できる精神』がなくなったときです。
なんか無茶苦茶ですね?そうでしょうね。自分でもなに言ってるかわかりませんから(おい)。
このあたりの設定は、多少推敲中でございます。申し訳ない・・・

ところで死神くんも兵隊クラスなので上司はいますが、命令はほとんど聞きません(自由奔放な死神だし、上司相手でも普通に勝てるから)。

 

魂喰(ソウルイーター)

魂を喰らいながら生きていくもの。
今作では死神くんがこれに当たります(ただし、彼は別に魂を喰らわずとも生きられますが、人間が憎いのでその行動をとっています)。
基本的に、死神にも天使にもなれない落ちぶれたものはこうなります。
ですが、ごく一部の天使や死神にもこういった傾向のものがいて(代表:死神くん)、両界ともてこずっているようです。
喰らわれてしまった魂は二度と転生することはありません。

 

天界にて、『統治』と『再生』と『生命』を司る者です。
基本的に、下級天使(または死神)が回収した魂はこの方の手に行き、再びこの世に転生されます。
全ての物を平等に愛している・・・といわれていますが、真相は定かではありません(おい)。
多分、嫌いなものの一つや二つ・・・(やめろ)

 

神体装備(アームドウェポン)

天使や死神が持っている武器。
今作品では天使ちゃんの弓矢や死神くんの大鎌に当てはまります。
自分の好きなときに、いつでもどこでも念じれば取り出すことの出来る装備品です。
もともと天使と死神は精神体なので、精神さえ念じればいくらでも具現化することが出来ます・・・が。
基本的に下級天使(死神:兵隊ランク)は、さほど実力が無いため主武器は一つぐらいしか具現化できません。

ただし、上級天使や『六天』、神ぐらいのランクになれば
一度に10個以上もの武器をも作り出すことが可能です。
なお、死神くんも同等の実力者のため、多くの装備品を同時に作り出すことが唯一可能な死神(兵隊クラス)です。
(しかし、彼自身それほどの実力があるのを使おうとしない(あるいは知らない)ため今回負けました)

 

神術(エナジー)

一部の実力者のみが使える特殊能力
今回の死神くんの治癒能力がこれに当たります。
一部の上級天使、『六天』、神、実力を持った死神はこの能力を使うことが出来ます。
自然界に常に存在する『大気』や『大地』、そして『自らの精神』を使うことによって発動が可能です。
ちなみに素質は誰にでもありますが、その能力を開花させるには長年の努力が必要不可欠です。
(『六天』も百数年にわたる努力の末手に入れることが出来た能力ですが、死神くんは天性の素質で使えます。天才だから。)
ちなみに結構精神を消費するので、神術使用後は使用者の身体に大きな負担がかかります(自らの精神を使う神術は特に)

この能力は大体以下の種類に分かれます。

攻撃系神術…敵の肉体(精神)に直接ダメージを与える神術。死神系が得意とする。
治癒系神術…自分、または相手の傷ついた肉体を回復させる神術。天使系が得意とする。
補助系神術…自分の能力を一時的に高める神術。ただし、副作用があるものが多い。
移動系神術…要はワープとかできる神術。結構汎用度は高い。
究極系神術…神のみ使えるといわれている神術。その正体は誰も分からない。