僕は馬鹿だった・・・・




あいつらはいつも三人で行動している。いつも僕に因縁をつけてつるんでくる。
一人だったら何もできないくせに・・・・・・でも結局は僕自身にも立ち向かう程の勇気がなかった・・・・
そんなときいつも彼女は奴らを止めにかかる。奴らを追っ払って最後に僕にこう言う。
「男の子なら自分で立ち向かわなきゃだめだよ」

そう言っている時の彼女の目は、少なくとも僕には見下している様にしか見えなかった。
自分が強いことを棚に上げて・・・・・
奴らにからまれた後もいつも彼女は僕と一緒にいた。
そんな時に、彼女といることで安心する自分の心も嫌だった。
あの三人組も、彼女もそして自分自身も嫌いだった。




俺は馬鹿だった・・・・



いつも彼女は俺をかばった。
けど、かばって欲しくなかった
彼女も結局は弱い俺を見下すだけだったから・・・・・
あの目が嫌いだったから・・・


その日は助けにこなかった・・・・・
次の日も・・・・その次の日も・・・・
その方が気が楽だった・・・・

数日後の夕方、家に帰ると母が電話を切った所だった。
その顔は暗い。
そして母から聞いた。




彼女が死ぬらしい

一年と持たないらしい・・・・・
何とも思わなかった・・・その時は、馬鹿だったから


次の日もやっぱりこなかった。
三人組の一人が言った
「あんなやつ・・・・さっさと死ねばいいんだよ。いつも邪魔ばっかり・・お節介で・・・」

その言葉は俺自身が前に思っていたことだ・・・・
他の人の口から聞いて、心がズシンと落ち込んだ感じがした・・・・・

次の日もこない

「結局・・・・お前はあいつがいなきゃ何にもできないんだよ、お前には・・・あいつが必要なんだよ・・・」
最後の方はほとんど聞こえなかった。
今、彼女は苦しんでるんだろうか・・・・
自分の死を知ってるんだろうか・・・・
死を感じているのだろうか・・・
それなのに、俺やあの三人組の奴らも早く死ねばいいと・・・・

涙が頬を伝った。俺は人前で涙を流したことなんてなかった。三人組につるまれた時も、どんなときも・・・・
奴らもそれを知っている。だから驚いていた。
けど今度はこっちが驚いた。

あいつらも三人共、声もなく涙が頬を伝っていた。



あいつら三人は彼女と友達だった。だからいつも彼女が止めに入った時、すんなりと
身を引いた。俺をかばう彼女にいっさい手出しをしなかった。

涙が枯れるまで俺たちは泣き続けた
初めて四人が同じ気持ちになった時だった。


次の日、俺たちは彼女の入院していた病院に行った。今は彼女は家にいるらしい・・

家にいたいという彼女自身の希望だったらしい

その時気づいた。
彼女は本当に強い人間だと・・・
自分の死を受け止めることはつらいことであり、難しいことであると病院の先生は話してくれた。
彼女の病状も聞いた。
何とかできないのかと頼んだ
いろんな病院に行って、一人でも彼女の病気を治せるという人を探した。
でも、結果は何処も同じだった。

「もう、だめだよ、やめよう・・・」
三人組の一人が言った
俺は体が熱くなるのを感じた
「なんだよ、あきらめるのか?彼女は一人で・・・・・」


一人で?
一人で死を受け止めたんだ・・・



「頼むよ、彼女の所に行ってやってくれよ」



俺は走った。彼女の家まで・・・・
俺がしなきゃいけないことは、不治の病の治療法を探すことじゃない・・・・
ただ、涙が枯れるまで一人で泣くことじゃない・・・・・
今、自分がしなければならないことは一つしかなかった。彼女が自分にしてくれたように・・・・


彼女と一緒にいてあげること


彼女の部屋に入る。彼女はベットの上で穏やかに眠っていた
そっと目を開けて俺を見ると優しく微笑み、また目を閉じた

いつもの目だ。・・・いつも“僕”をかばってくれている時の・・・
一緒にいてくれた時の・・・
見下していると思っていた・・・
今やっと気がついた。それが彼女の優しさであったことを・・・

僕が・・・・・馬鹿だった


彼女の手を握る。いつも彼女が僕の手を握ってくれた。けど今は・・・
いつも、彼女が一緒にいてくれた。けど、今度は・・・・

僕が彼女のそばにいる。


彼女の頬に僕はそっとキスをした。


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