俺はただうつぶせに奴を見るだけだった。

奴はただ、俺を見下ろすだけだった。

ただ、その時間は過ぎるだけだった。

 

 

 

 

何故こうなったのだろう?

俺はただ奴とじゃれ合い、共に励ましあって暮らしてきたと思っていた。

奴も俺と一緒にその人生を一緒に暮らしているだと思っていた。

でも、奴は"庭"で走り回っていた俺を、窓を通して見下ろしていただけだった。

 

奴は笑った。…俺を

バカみたいに走り回ってる俺を…

俺はこんなに真剣なのに…俺はこんなに想っているのに…

 

 

奴は窓から"薬品"を放り投げて俺にかけた。

"薬品"は麻薬のように俺を快楽へと運んだ…

甘い…甘いひとときを俺は過ごした。

が、やはり麻薬と一緒でそれはだんだん俺を蝕んでいった。

奴はそんな俺に気に求めず次々と多種の"薬品"をばら撒いていった。

良薬、毒薬、劇薬、なんでもかんでもお構いなしに俺にぶっ掛ける。

憎い…殺したい衝動に駆られるほど憎い笑みをしながら…

奴は"薬品"による俺の反応をレポートに書き足していった。

奴は生体実験をしたいが故、俺をこの"庭"に放したに過ぎなかったのだ。

 

憎い、憎い、憎い、憎い、憎い…ニク…イ…ッ!!

 

 

 

「…お前は…最低な奴だ…」

 

 

気がついたときには…薬に溺れてすでに虫の息だった。

 

 

 

 

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20 -RAIDO-

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がやがやと五月蝿い町の中。

俺は旅の途中の買出しへと露店へ向かった。

有名な商業都市なだけに人の込み合いが激しい。

そんな人ごみを掻き分け、ようやく開けた場所に出たとき…俺は出会ってしまった。

 

「おじさん。この薬草10枚頂ける?」

 

薬草を買っている女を…

見た目は俺と同年代ぐらいの…女だった。

黒いローブを着ているところから魔道士だということがわかる。

……かなりの美人だった。

それゆえか?俺は自分でも気付かぬ間に女に話し掛けていた。

 

「え?私は町外れの魔医者よ」

 

魔医者とはその名の如く「治癒魔法」で病気を癒す職業のことだ。

普通、魔医者は魔力を高める薬草以外は使わないのだが、この女魔医者が持っているのは一般的に知られている良薬の原料となる薬草だった。

どうしてこんな物を買うのか…?

 

「私は、魔法の力だけじゃなくて…ちゃんとした薬も応用して使って…より効果的な治療法を編み出してるのよ。」

 

女魔医者の言葉に興味をもってか、それともその容姿にか、俺は彼女の住む病院へと行く事にした。

泊まる場所が無い。

そう口実を述べると女魔医者はあっさりと許可してくれた。

 

町外れといってもそれほど遠くはない…そのため思っていたより早く着いた。

そこは女の家にしては珍しく散らかっていて、本や服、意味不明な装置などが無造作に置かれていた。

女魔医者は俺の視線で思っていたことが解ったのか、

 

「散らかっててごめんなさいね、すぐ片付けるから…適当に座ってて」

 

といって散らばっている本や服などを拾い集め始めた。

俺はその姿を横目で見ながらそっと机の横にあった椅子に座った。

女魔医者の部屋の多くは本棚で占領されており、その本棚の多くにはなにかのファイルが収納されていた。

ファイルの背表紙には何か文字のようなものがかかれてあるが、ここからでは読み取れなかった。

ふと机の上を見てみると、薬草や精製した薬の包み、カルテなどが散らばっていた。

その中に目を引く一枚のルーズリーフがあった。殴り書きでいろいろかかれている。

俺はその文章を読もうとし、紙を掴むと慌てた様子で女魔医者がそれをぶんどった。

 

「勝手に人の机あさらないでよ!!」

 

いや、あさるほどの事はしていないが…

と心の中で呟き、一言「ごめん」と俺は言うと

女魔医者は我に返ったように

 

「いきなり大声出してすまなかったね…」

 

といってその一枚のルーズリーフを机の中に隠し、鍵をかけた。

そんなに大変な事でもかいてあったのか…?

そう思ったが・・・まぁ勝手に見た自分が悪いと自害し、無理に考えないようにした。

俺にだって見られたくないものはあるし、それを誰かに追及されるのは否だ。

ましてや今日あったばかりの…いわば初対面の相手だ。

俺は自分で勝手に納得をすると、女魔医者の方に視線を戻し…片付けが終わるのを待った。

 

 

多分そんなに時間はかからなかったはず。

女魔医者は片付けが終わったのか…台所に入り、夕食を作り始めた。

俺はいまだ机の横の椅子に座ったままだ。

だんだん台所からいい香りがしてきた。

そんな時、ふと女魔医者が口を開いた。

 

「あなた、もし私がここに泊めれないと言ったら如何してたの?」

 

もっともな質問だ。

まぁ、いつも通り野宿してただろうな…

俺の答えに女魔医者がクスクスと笑う。

何がおかしい?

 

「何がって…いや、呼び止めたのが私じゃなくって他の人だったらどんな反応だっただろうってちょっと想像しちゃって…」

 

他の人?

俺にはその意味が解らない…

女魔医者は料理が出来たらしく、それをテーブルに運ぶと俺を呼んだ。

俺は素直に呼びかけに応じ、テーブルの椅子に腰掛けた。

コーンスープとパンだ。

俺は腹が減っていたので無言でバクバクとそれらを食べた。

…美味い。

 

「ありがと♪でもさ…もしこれに毒物とかはいってたら…如何する?」

 

そんな事考えても無かった。

俺は思ったことをそのまま口にすると、女魔医者は満足そうに笑みを浮かべた。

 

「たくさん食べてね」

 

 

おまえさぁ、よく迷いなしに見知らぬ男を家に泊めるなぁ。

布団の中で発した俺の言葉に女魔医者は大笑いした。

何がおかしいっ!

 

「アハハハッ!その台詞さっきも聞いたわよ?」

 

いいから答えろ!

 

「家に泊めてもらってる分際でその言い方は無いんじゃない?クスッ、まぁいざとなったら魔法ぶちかまして逃げるし…でもあんたみたいなの、私嫌いじゃないしね。」

 

ど、どういう意味だよ。

 

「そう言う意味。」

 

なななななっ!?

女魔医者の爆弾発言とも言えるその台詞に思わず跳ね起きた。

そう言う意味っていったら…やっぱああいう意味だよな…

とか思いつつもう一度視線を戻すと…

 

「…って言ったら如何する?」

 

女魔医者はまた笑った。

からかわれている………

俺は少し拗ねたように荒っぽく布団に入った。

言い忘れていたが…俺は床に布団を敷いて寝ている。

無論、女魔医者は自分用のベッドでだ。

 

「もぅっ!怒らないでよ〜!」

 

女魔医者はまだ半分笑った口調でそういった。

その言葉が逆に俺を怒らせ、俺は口を利いてやらなかった。

 

「もう…じゃぁさ、逆の立場!もし私が…ヤバイ人だったら如何してた?ほら、今日買った薬草とか…アレで麻薬精製したりさ…」

 

俺はもう一度跳ね起きた。

ヤバイ人?それってどういう…

 

「ハハッ!なんでもないわ〜。気にしないで!じゃ、お休みv」

 

女魔医者は一人で事を進め、俺が何も言わないうちに火をけし、寝た。

俺も別にそのことに対して別に気にもしてなかったから何も言わずに寝る事にした。

明日は如何しようか…

俺はまだ旅を終わるつもりは無いが…もう少しここに居る事にした。

女魔医者も別にかまわないと言ってくれたし…別に無理に先を急ぐ事も無いだろう…

 

 

そう思って暮らし始めて…気がつけば1ヶ月が経っていた。

 

「そう…もう一ヶ月も経つんだ。」

 

俺と女魔医者はこの一ヶ月でかなり親密になった。

彼女は俺を受け入れたし、俺も彼女を受け止めた。

俺はもう旅を止めてここに一生住んでいようかと思った。

旅をしていた理由なんて無い。あったってとうの昔に忘れた。

そんな意味のない旅をしているぐらいなら、この女魔医者と共に一生を過ごそうと思い始めてきた。

多分…彼女もそれを望んでくれるだろう。

 

「えぇいいわ。一緒に暮らしましょう…永遠に…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「って言ったら如何する?」

 

女魔医者は言った。

 

「イヤよ。何でアンタなんかと一緒にいなきゃいけないの?」

 

俺は耳を疑った。

 

「名に自惚れてんのよ。早く出てってよッ!邪魔なのよ!!」

 

そんな、…頼む…うそだといってくれよ…

 

「…………。」

 

俺は初めて旅の中で安らぎを手に入れた。

もう放したくなかった…だけど

それは一瞬にして離れていってしまった。

 

「フフ…アハハハハハッ!」

 

え?

 

「へぇ、ここをこういうとこんな反応だったのね」

 

女魔医者はそんな事を言うとどこからかルーズリーフを取り出すと、おもむろに何かを書き始めた。

 

「見てよこのファイルに閉じてあるリーフの量。すごいでしょう…皆あなたの事を書いてるのよ?」

 

そのファイルには百枚はあるだろう…そのぐらいの数の髪が挟まっていた。

それは…一体何のために…

 

「何のため?そんなの決まってるじゃない。私の趣味よ。」

 

…しゅ、み?

俺の目はすでにうつろで、どこを見ているのかは誰にもわからなかった。

 

「えぇ、私ねぇ人の心理について今研究中なのよ。じきにカウンセリング見たいな心理医学みたいなのがしてみたいのよね〜」

 

俺は…それの実験台にされたと言うのか…??

その時俺は確かに「憎しみ」を心に感じた。

そして…まだ心の隅に「嘘だといってくれ」と言う希望も残っていた。

 

「そうよ。一ヶ月…長かったけど楽しかったわ。アンタの反応。今までで一番面白かったわ。今までの奴ら、皆冷めてたんだモノ…たまにはこういう可愛い子がいいわね〜」

 

俺は無意識に腰にさしてる剣に手を伸ばした。

そして女魔医者に…ッ!!

 

「甘いわねッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

俺は地に伏せている。

視界が赤く見えて…自分の上には女魔医者が見下ろしているのが見える。

俺はそんな"奴"を憎しみのこもった睨みを返した。

そんな俺のにらみにも…"奴"は笑っていた。

 

「イイ顔…どう?"愛しい人"に殺される感想って…」

 

誰が…愛しい人だ!!

そう叫ぼうとして口から出たのは声ではなく赤いモノ。

オレにはもう…声すらも奪われた。

 

「だから言ったでしょ?」

 

奴はにやりと笑って俺と目線を合わせるように座りこむ。

俺はもう一度睨み返そうと思ったが、顔の向きを変える力も残っておらず、ただ悔しいぐらい晴れた蒼い空をうつろな瞳で見るだけだった。

 

 

 

 

「フフ…もし私が…ヤバイ人だったら如何してた?ってね」

 

「…お前は…最低な奴だ…」

 

 

 

 

 

 

 

俺がもし、もっと早くこのことに気付いて居れば…こんな事にはならなかった。

もっとも、俺がお前を殺す…どちらかが死ぬのには変わりないがな…

 

 

 

 

 

 

 

「さて、次のターゲットは如何しましょうか…」

 

女魔医者は机の上にファイルを並べていた。かなりの数がある。

それはきっと女魔医者の「犠牲者」達の"カルテ"だろう…

女魔医者は新たに作ったファイルの背表紙に何かを書くと、他のファイルたちと共に本棚に入れた。

 

新たに加えられたファイルの背表紙…

そこには"20 -RAIDO-"と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

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あとがき。

 

なんだかかけちゃった物凄い小説。こんな暗いの初めて書いたです;;

夜中にぱっとおもいついて書いた「20 -RAIDO-」。どうでしたでしょう?

特にテーマと言うのは無いんですが…言うなれば「野心」ですか?

微妙にファンタジー。でも内容的には現代社会な感じもしないでもないです…

タイトル…某ドラマパクッたな!なんてのはなしですよ(ヲイ)

ノリさえあればこんな小説もかけるんだーと、証明して…終わりとします〜(笑)

ちなみにタイトルの意味はルーンの「ライゾ」のことです。旅・コミニケーション、そのたもろもろな意味があります〜



ろう・ふぁみりあの勝手な戯言〜


・・・ふぅ。
いやー、なんていうか・・・スゴイですわこの話。

なんていうか、ストーリーが「面白かった」です。
怖いとか暗いとかあの女滅殺すべしッとか言う前に、とりあえず「面白かった」です。
読み終わって、おもわず「ふぅ」とため息漏らしてしまうほどでしたッ。

うーん。なに言や良いんだろ。
なんか、ばーっと読んで、だーっと展開して、最後にがーっとオチが来て。
どんでん返しが如何とか頭に浮かぶけど、それよりもなによりも、とにかく「面白かった」です。

なんかこれ以上、言うと蛇足になるような気がするんで―――いやでも本当に、読み終わって「ふぅ・・・」とかため息ついてしまうくらい面白かったですよー!

(2001/07/13)