儚き幻想で・・・

 

 

 

 風が流れた・・・

 そして、その風に揺られるようにすずらんの花びらが空へと舞っていく。

 その情景があまりにも現実離れしていて、見る者全ての心を奪っていくような気がする。

 辺りを見渡せば一面の白。その視界に飛び込んでくるのはすずらんの花達なのだ。

 だがその視界に写るものでさえ今は幻想としか思えない。

 そんな情景が今一人の女性の前に広がっている。

 女性は特に何もするわけでもなく、ただすずらんの花達を眺めているのだ。視線は何処にも定まってはいないが、漠然とその花のことを見ていることは確かであろう。

 ふと女性が微笑んだ。それもわずかな差違しか読み取れないような非常に細やかな微笑だ。多分今の彼女の表情を見た者なら一瞬で彼女のその魅力に取り付かれてしまうことであろう。

 それほどこの女性は魅力的なのだ。

 それも現実のものではなく、幻想のものとしてだ・・・。

「儚きこのすずらんと同じように・・・」

 ふと女性はそんな言葉を口にしている。

 これはいったい誰に向けた言葉なのであろうか? いや、もしかしたら自身に向けた言葉なのかもしれない。ただ、それを立証する者はこの場にはいない。

 あまりにも彼女は現実より逸脱しすぎているのだ。もしかしたらその存在そのものがこの世のものでないかもしれない。

「現実の全てが儚い幻想・・・」

 女性はふとすずらんの花の一つを手に取ってみた。その途端、真っ白であった花は淡い光を放ち、ふわりと風の流れに逆らって浮かび上がっていく。

 その花びらは空に登りつけると、そのまま今度は風の流れにその身を任せて何処という宛もなく飛んでいってしまった。

 女性はその一部始終を虚ろな目で追っている。果たして、彼女には生気というのはあるのあろうか?

 今見る限りではそれはまったく読みとれないと言っても過言ではないだろう。

「山も、木も、水も火も。そして私も所詮はこの世の幻想。そう、この私の目に写る物全てが幻想なの・・・」

 ふと女性は歩き出した。一面のすずらん畑を回るようにゆっくりとした歩調で道に沿う。

 

 また風が流れた・・・。

 

 今度の風は季節の到来を予告しているような気がする。それだけ生気に満ちた風なのだ。女性の生気のなさと相反するこの風がまた何か幻想的な情景を映し出しているようで、芸術家であれば誰もがこのような風景を一度は描いてみたいと嘆願することであろう。

 女性はふと歩く足を止めた。そしてその身いっぱいに風を受ける。

 結ばれていない長めの淡い青色をした髪が風にたなびき、白と青の彩色が空間というキャンバスの上に静かな一情景を映し出す。

 それがまた幻想的で見る者を魅了してしまいそうだ。

「私は幻想に生きる人・・・。そして、この世の全てが幻想なの・・・」

 

 風が流れた。

 

 今度はさっきまでのものと違い少し強めのものだ。風はすずらんの花びらたちを次々と奪い去っていく。

 あたりがすずらんの花びらで埋め尽くされた。

 視界に広がるのはすずらんの白だけである。

 何とも綺麗な風景であろうか。これがもしかしたら季節の到来を告げるのかもしれない。

 

 風が止んだ。

 

 そして風に舞っていた花びら達は静かに地面へと着地していく。

 だが一つだけ何かが欠けている。

 そうだ、あの女性がいないのだ。さっきまですずらんの中にいたはずの女性が、いつの間にか視界から完全に消えて無くなってしまっている。

 本当に儚い一時のように一瞬で消えて無くなってしまったのだ。

 もしかしたら、女性の言うとおりこの世は所詮は儚い幻想なのかもしれない。

 ただ、今この瞬間が何なのかまったくわからない。

 もしかしたら存在そのものが幻想なのだろうか?

 何もわからない・・・

 それでも自分達は生きていくのだから・・・

 

 


 あとがき

 ろう・ふぁみりあさん、SSS25000HITおめでとうございます!! ということで予告通りオリジナルの「儚き幻想で・・・」を送らさせていただきました〜!

 よく思うことがあるんです。今この瞬間を生きている自分達の存在そのものがもしかしたら幻想なんじゃないかって。実は生きているように見えるだけでその実態は何もない空虚なものであると・・・。

 でもそんなこと考えてみたって何にもなりませんから、結局のところ考えるのをやめるんですけど・・・(苦笑)。

 まぁ世の中はそんなこと考えてもどうしようもないんで、普段そんなこと考えませんけど(さらに苦笑)。

 でもふとそんな哲学的なこと? を考えてみるのもいいんじゃないかなぁなんて思って考えてみることがあります。そう言うときにこういうストーリーが思いついたりするんですけどね(笑)。

 

 実はこの小説、某ゲームのオープニングをもろにパクってたりします(爆弾発言)。まぁ有名なんで直ぐにわかると思います。でも突っ込まないで下さいね(こら)。

 

 ということで長々とあとがきを書いて行数増やそうという魂胆が見え見えのシン・マーシーでした。

 ろう・ふぁみりあさん、今後もいろいろとファイトです〜! でわでわでわ!

2001.4.29 シン・マーシー