四月―――

 桜が舞い、新しい生活が始まる季節。

(うっわあ、大変! 遅刻しちゃう)

 町で一番長い通り。

 もう3年くらい前は、小さな商店が窮屈そうに建ち並び、活気もあった。

 しかし、今はすぐ近くの駅前に大きなデパートができたせいか、商店の殆どは取り壊され、空き地になったり駐車場になったりしている。

 当然、通行人の数も少ない―――1キロ先にある学校の予鈴が鳴り響いて聞こえるような時間帯では尚更だ。

 だから少女は誰かにぶつかることを考えず、全力疾走で駆け抜ける。口に食バンをくわえつつ。

(うわあ、予鈴が鳴り終わっちゃった! 絶対に間に合わないよう―――はわっ!?」

 心の中で焦っていると、パンが口から落ちそうになり、慌ててくわえ直す。

 本気で急いでいるのなら、パンをその辺に捨てればいいのだが、実際の所少女は本気で急いではいなかった。

 家を出た時からスタープラチナを使おうが間に合わないということは分かり切っていた。

 そもそもたった数秒時間を止めてなにが嬉しいのか。せめて一分でも止められれば話は別なのだろうが。

 どうせ間に合わない。それなら1分遅刻しようが、10分遅刻しようが大した差はない。

 だからこそ、彼女はわざわざ食パンをくわえて走るのだ。そうして走ればステキな出会いが起るというジンクスを信じて。

(やっぱ、一生に一度の高校生活だもん。できるなら青春とかロマンスとかドラマティックとかグラフィティとかおっくせんまん)

 後半、なにか混在していたような気がするが、ともかく。

 柊 遥香(ひいらぎ はるか) 15歳、今日からピッカピカの高校一年生である。

(だけど、食パンくわえて走るって誰が始めたんだろ。すごく走りづらくて苦しいんだけど・・・

 ああ、でも、この苦しさの果てに出会いが待っているって言うのなら・・・・・・つまりこれが錬金術でいう等価交換!)

 などと考えながら、彼女は通りを駆け抜け、通りの曲がり角まで辿り着く。

(この角を曲がればすぐ学校―――)

 その時、学校の方から始業のチャイムが鳴り響く。

 どうでもいいことだが、予鈴に対して始業開始はなんと呼べばいいのだろーか? 本鈴? でも ”ほんれい” とか打っても一発変換してくれないしなあ。

(うっひゃあ、もう始まった! 急げ、急がなければ、今が急ぐ時ー!)

 作者がどうでもいいことに頭を悩ませていると、本鈴(仮称)を聞いた柊がさらに加速して角を曲がろうとする。

 遅刻なら1分も10分も変わらないと思っていても、土壇場ではやはり少しでも罪を軽くしたいらしい。

 なら食パン捨てろよと作者も思うが、もはやそんなことを思いつかない程に彼女は切羽詰まっていた。

 柊の頭の中には、『食パンをくわえること』と『学校に急ぐこと』の二つしか存在しない。

 何故、食パンをくわえなければならないのか? 何故、学校に急がなければならないのか? そう言った理由も吹っ飛んでいた。

(必殺! デビルバットなんとかー!)

 鋭いカットで柊はコーナーを曲がる。なんか練習すれば出来るとか単行本には書いてあったから、猛練習したら出来るようになったらしい。

 勢いよくコーナーを曲がれば、その先に学校の姿が見える―――はずだった。

「・・・え?」

 思わず疑問を声に出す。

 口からパンがこぼれ落ちた。

 学校は見えなかった。

 代わりに、視界一杯に広がる、紺色の何か。

 それから衝撃。

 

 

 

 柊 遥香 15歳。

 ピッカピカの高校一年生。

 高校生初日の朝、彼女は、衝撃的な出会いを果たす―――――――――

 

 

 


 

こーなーりんぐ・えんかうんと

 


 

 

 

 四月―――

 桜が舞い、新しい生活が始まる季節。

(・・・まー、遅刻だろうなあ)

 本町で一番長い通り。

 もう4年くらい前は、小さな商店が窮屈そうに建ち並び、活気もあった。

 しかし、今はすぐ近くの駅前に大きなデパートができたせいか、商店の殆どは取り壊され、空き地になったり駐車場になったりしている。

 当然、通行人の数も少ない―――500メートル先にある学校の予鈴が鳴り響いて聞こえるような時間帯では尚更だ。

 だから少年はたった一人で、朝飯のトーストにかぶりつきながら、のんびりと歩く。

(全力で走ればギリギリ間に合うか? まあ、でも疲れるしなー)

 心の中でぼんやり思っていると、トーストの上に乗っけていた目玉焼きが落ちそうになり、慌ててトーストに乗せ直す。

 某ジブリ作品を見た時から大好物となった朝の定番メニューだ。

 ちなみに当然、彼が背負っている通学用のナップサックの中にはナイフとランプが詰め込まれている。

 残念なことに、両親は熱い想いも眼差しも残してはくれていないが。というよりまだ生きてる。

 今朝、彼を叩き起こしたのは母親だった。欲を言えばあと10分は寝ていたかったのだが。

 起きたまま部屋の中でぼーっとしていると、父親に「早く学校に行け!」とブン殴られた。

 ちなみに外から見えないようにボディブロー。家庭内暴力のやり方をよく解っている。

 そんなわけで、ゆっくりと朝食を取るヒマもなく、大好物の目玉焼き乗せトーストを持たされて、家を叩き出された。

 家を出た時、少し走れば普通に間に合う時間だった。だが、面倒くさかったので走らなかった。

 そもそも遅刻するからと言って焦るのが間違っている。若者よ、狭い日本そんなに急いで何処へ行くというのか?(答:学校)

(やっぱ、一生に一度の高校生活だし。できるなら、のんびり過ごしたいよなあ)

 どうせ社会に出れば嫌が応にも忙しくなるのだ。

 東雲 裕太(しののめ ゆうた) 15歳、今日からピッカピカの高校一年生である。随分枯れた思考をしているが、15歳でピッカピカである。

「ごっくん。・・・ふう、ごちそうさまでした」

 トーストを食い終わる頃には通りの曲がり角についていた。

(この角を曲がればすぐ学校―――)

 その時、学校の方から本鈴(仮称)が鳴り響く。

 だが、東雲はきにせずにペースを変えず、ゆっくりと学校へと向かう。

 東雲の頭の中には、『今日、どうやってのんびり過ごすか』の一つしか存在しない。

 だから、遅刻だからといって急いで焦って全力疾走などという考えは、思いつきもしなかった。

 東雲は角を曲がる。曲がれば、その先に学校の姿が見える―――はずだった。

「・・・むう」

 思わず残念そうに声を漏らす。

 曲がり角の先に学校は――――――ちゃんとあった。

「くそう、道間違ってたり、移動してくれれば、学校がありませんでした、とか言っていっそのこと休むこともできたのに」

 ぼやいてみるが、ちゃんと学校はそこにあった。

 溜息一つついて、東雲は学校に向かう。すると。

「必殺! デビルライトなんとか―――ッ!」

 背中の方からそんな叫び声が聞こえて。

 振り返るヒマもなく―――

 衝撃。

「おわっ!?」

「きゃあっ!?」

 背中に何かがぶつかって、東雲は軽くよろめいた。

 ふりかえる、と東雲と同じ学校の制服を着た少女が尻餅をついて転んだところだった。

「痛たたた・・・」

「お、大丈夫か?」

 東雲が少女に声をかけると、少女は東雲を見上げて―――ふと。

「あっ・・・・・・」

 なにかがっかりしたような、残念そうな声を上げた。

「?」

「う・・・うん・・・そっちこそ、大丈夫ですか?」

「うん、まあ、ちょっと驚いただけだ」

「ごめんなさい! デビルバットハリケーンはできるようになったんだけど、4秒2の世界に入ると足がもつれちゃって・・・!」

「そうか、大変だな」

 意味が良く解らなかったが、とりあえずそう言って手を差し伸べる。

 少女は素直に「ありがとう」と言って手を取ると、立ち上がった。

「はあ・・・もう学校始まっちゃったなあ―――君も急がないと」

「今更急いだって遅刻は遅刻だろう。1分の遅刻も10分の遅刻も変わらん」

「まあ、それもそうか―――あ」

 少女は何かに気がついて視線を落とすと、残念そうな声を漏らした。

 東雲も少女の視線を追う、と、路上に食べかけの食パンが落ちていた。

「あーあ、もったいない。これじゃあもう食べられないなあ」

「なんだ、あんたのか。つか食パン食いながら走ってくる女って、いつの時代の少女漫画だよ」

「ああああ、馬鹿にしたな。馬鹿にしたでしょ! これでもちゃんと衝撃的な出会いを果たせたんだから!」

 言われて、東雲は渋い顔をする。

 食パン。それから衝撃的な出会い―――考えなくても解る。

「まさか俺か?」

「なにその嫌そうな顔」

「嫌に決まってるだろう。なにが悲しくてそんなラブコメみたいな展開に巻き込まれないといけないんだ?」

「むう。ロマンスが欲しくないのかね、少年」

「ロマンスよりも平穏の方が好みだ」

「つまんないヤツー」

「よく言われる。有り難いことに」

 面白いやつと言われて、ちょっかいかけられるよりは何千倍も良い。

「でもまあ、安心しなさい。アンタの事じゃないから」

「安心した。じゃあ、また」

 そう言って東雲は学校の方へ向かおうとする。

 なにか嫌な予感がした。この女に関わっていると、平穏をブチ壊しにされそうな予感。

 だが、何か引っ張られ、東雲はそれ以上進むことは出来なかった。

 振り向けば、少女がもの凄い力で東雲の学生服の裾をつまんでいる。

「あれは、1年前の高校入学の日の事だったわ・・・」

「遠い目をして語らんでも良いから、離せ。つかアンタ二年生かよ」

「ああ、そう言えば自己紹介をしていなかったわね。あたしは柊 遥香。16歳だよ」

「・・・東雲 裕太。今日から高校生―――いいから離せ」

 相手が名乗った以上、こちらも名乗り返さないわけにはいかない。

 東雲は物臭でのんびりやだったが、そう言うところは律儀だった。ちなみに今まで横断歩道を信号無視して渡ったこともない。

 必死で逃げようとする東雲に対して、柊はしっかり東雲の制服を掴んで離さない。もの凄い力だった。

「あの日も今日みたいに遅刻ギリギリで、走っていたの」

「ギリギリ、っていうか遅刻確定だけどな」

 東雲は逃げることを諦めて、相づちを打つ。

 なにか逃げられそうもないし、せっかくのんびり気分で登校を満喫していたのに、ここで必死になるのも馬鹿らしい。

「そして、当時はハリケーンを使うことが出来なかった私は、ゴーストでこの角を曲がったの。そしたら!」

「素敵な出会いが待っていたと」

 ハリケーンだとかゴーストだとか、某週刊誌やアメフト漫画を読んでいない東雲は解らなかったのでスルー。

 東雲が言うと、柊は嬉しそうに顔を輝かせて頷いた。

「もうね、全身が吹っ飛ぶような衝撃! あの衝撃は、多分二度と味わうことは無いでしょうね」

「そりゃ良かった。で、そいつとはどうしたんだ?」

「それっきり。ずっと探してるんだけど、まだ見つからないんだあ・・・・・・」

 寂しそうに肩を竦める柊。

 そんな様子を見て、東雲は気がついた。

(さっき、俺とぶつかってがっかりしたような様子を見せたのは、もしかしたらって期待したからか・・・?)

「・・・どんなヤツなんだ?」

「え?」

「いや、どういうヤツか知ってれば、もし俺がどこかで見かけたら、アンタに教えてやれるだろう?」

「え・・・探して、くれるの?」

「ンなわけあるか。ただ、見かけたらってだけの話だ」

 はっきり言ってしまうと同情だった。

 あと、がっかりさせてしまった罪滅ぼし・・・・・・というのは妙な話かも知れないが。

 それでも柊にとってはとても嬉しかったようで、目の端に涙までにじませて「ありがとう」と呟いた。

「いいから、俺の気が変わらないうちに早く教えろよ。同じ学校なのか?」

 照れ隠しに、ぶっきらぼうに言う。

「うんと、学校は違うよ、多分。ええとね、まずこーんなに身体がおっきくて」

 そう言って両腕一杯広げて見せる、柊。

「それで、がっしりとしててとっても硬いの」

 反射的に東雲の頭に浮かんだのはプロレスラーだった。

 ここら辺に住んでいるプロレスラーなんか住んでいたかなと、首を傾げる。

「で、とっても強くて速くて」

 さっきの説明からして軽量級と言うことは無いだろう。

 ということは重量級で、かつ身軽なプロレスラー・・・

「そして紺色の」

「紺?」

 色を言われて東雲は面食らう。

 紺色の肌、と言うことはないだろう。ということは紺色の服を着ていたと言うことか。

(いやでも服の色言われてもなー。服なんて気分で変わるし、だいたい1年前だったら尚更だ)

「ダンプカー」

「待て」

「え? なに? なにかおかしいこと言った?」

「おかしいってことに気がつかなければ重傷だ。病院行ってこい!」

「なによー。別におかしい事なんてなにもないじゃない」

「なんでダンプカーなんだ!?」

「うんと。角曲がったら、走ってたダンプカーが道を外れて突っ込んできたの。で、正面衝突」

 ぶつかった時のことを表してるのか、柊は握り拳を二つ作って、胸の前で軽くぶつける。

「なんか飲酒運転か居眠り運転じゃないかって警察の人が。まだダンプカーの運転手捕まってないからホントの所解らないけど」

「そりゃ吹っ飛ぶわ! しかも二度と味わうことないわな! つか、なんで生きてるんだ!?」

「あたし頑丈だし」

「そんな二文字で片づけられるか!」

「あ、そういえば目を覚ました時、お医者さんが奇跡だーって騒いでた」

 柊は自分を指さして、ニヤリと笑い、

「奇跡を呼ぶ女」

「誇るな」

「じゃあ、地獄帰りの柊 遥香」

「わかった。もうなんでもいい。じゃあな」

 そう言って立ち去ろうとする東雲の制服を、柊はしっかりと掴む。

「なんだよ? これ以上なにかあるのか?」

「なんでそう忙しなく行こうとするのよ。探すの手伝ってくれるって言ったじゃない!」

「言ってねえ!」

「慰謝料だってまだもらってないんだよ!?」

「慰謝料目当てかよ! ロマンスはどこに言った!?」

「今のあたしには、慰謝料がロマンスなの!」

「なんだそりゃあああああああっ!」

 東雲の絶叫にあわせるように。

 学校の方から、一時間目開始のチャイムが鳴り響いて来た―――

 

 

******

 

 

「裕太ー! 朝よー! 起きなさいー!」

「むぅ・・・・・・」

 母親の声が聞こえて、東雲は目を覚ます。

 ―――昨日は散々だった。

 昨日の朝のことを思い出して、東雲は寝起きで不機嫌そうな顔を、さらに渋くする。

 結局、学校には行かなかった。妙な先輩との遭遇で、行く気はゼロ以下になっていた。

 柊はちゃんと学校に行ったようだが。

「・・・むー・・・」

 眠すぎてだるい身体にムチ打って、東雲はベッドから降りた。

 正直、もっと眠っていたいがそうもいかない。

 昨日の一件で、のんびりと登校することに懲りた。これからはちゃんと遅刻しないように学校に行こうとそう決めたのだ。

 そして、教室に着いたら寝ればいい。

 そうすれば、妙な女に振り回されることもない。平穏な学生生活が送ることが出来るだろう。

 決意を胸に秘め、東雲は洗面所に向かい、眠い頭を少しでもはっきりさせるべく顔を洗う。

 ピンポーン♪

 顔を洗い終わった頃、玄関のチャイムが鳴った。

「裕太ー! ちょっと出てー!」

「むー・・・」

 台所の方から母親に言われ、朝っぱらから誰だよ? と思ったが、仕方なく玄関に出る。

 ピンポーン♪ と二度目のチャイムが響いた。

「はい?」

 チャイムに対して返事をするようにして、東雲は玄関のドアを開けて――――――すぐに閉めた。

 そのまま、鍵を閉めようとするが、それよりも早く、もの凄い力で玄関のドアが強引に開かれる。

「のわあっ」

 掴んでいたドアノブに引っ張られるようにして、東雲の身体がつんのめる。

 なんとかバランスを取って顔を上げると、この世界でもっとも見たくない女の微笑みがあった。

「おはよう、東雲クン!」

 元気よく朗らかに柊が朝の挨拶をする。

「な、なんでアンタがここに・・・?」

「一緒にダンプを探してくれるって言ったじゃない」

「だから言ってねえっての。俺を巻き込むなあああっ!」

「裕太ー。なにを朝から騒いでるの―――あら? 裕太のお客さん?」

 東雲母は、柊の姿を見て声のトーンを少し落とす。

「まあまあ、もしかして裕太のガールフレンド? やるじゃない、こいつう」

「おふくろ、気色悪い。つかガールフレンドって言葉古くさくないか?」

「じゃあ、愛人?」

「なんでそーなる!?」

「東雲クンのクラスメイトで、柊 遥香って言います。東雲クンとはとっても仲良くしてもらっています」

 ぺこりと頭を下げる柊。

「って、俺とアンタがいつ仲良くした! ・・・・・・おい、待て」

「なに?」

「クラスメイト?」

「うん。あたしもびっくりしたよー、まさか同じクラスだったとはね。すごい偶然もあるもんだ」

「ちょっと待て! アンタ先輩だろ! 二年生だろ!? どうして同じクラスなんだよ!?」

「柊だから学年が下がったの」

「は?」

「まあ、それは冗談で。ほら、あたしってダンプと正面衝突したじゃない。だから一年間入院してたのよね。だから進級できなかったの」

 だ・か・ら、と柊はにっこりと笑って、手を差し出す。

「これからよろしくね、東雲クン」

「・・・・・・」

 握手を求めてくる柊の笑顔。

 その笑顔を眺めながら、東雲はハッキリと―――哀しくなるくらいハッキリと、その音を耳にしていた。

 平穏な学生生活―――それが崩れる崩壊の音を。

「気分悪くなってきた。今日は休―――」

 くるり、と家の中に戻ろうとした東雲の襟首を、何かががっしりと掴む。力強く。

 何かと確認するまでもない。

 次の瞬間、東雲はもの凄い勢いで玄関から引っ張り出されていた。

「さあ! 行くわよ! ダンプカー探して三千里!」

「止めろ! 離せ! 俺の平穏を返せ!」

「その前に慰謝料を払ってもらわないと!」

「俺が払うもんじゃないし、むしろテメエが俺に払え!」

 叫び返しながら、ふと周囲の状況に気づく。

 登校、通勤の時間帯だ。

 割と通行人は多く、そのほとんど全員が東雲達の方を見てクスクスと笑っている。

「って・・・そういや俺、パジャマのままじゃねえか! あとメシも食ってねえ!」

「大丈夫! パジャマ姿の東雲クンもステキよ♪」

「そんな言葉で誤魔化されるかあっ!」

「あと、朝食ならあたしのがあるよ。いる?」

 問われて振り返る。

 見れば、柊の口には、いつの間にか食パンがくわえられていた。

「食いかけなんているか!」

「じゃあ、朝食はナシでオッケーてことでオーケイ? それじゃ、今日も元気に行ってみよー!」

「離せ! ・・・いや、離してください。お願いだから家に帰して。せめて着替えさせて・・・」

 通行人の注目を集める、平穏とは遙かに掛け離れた朝の一時。

 柊は東雲を掴んでない空いている方の手を天高く突き上げて、気合いを示し、

 東雲は最早諦めきったように、首根っこ掴まれたまま、がっくりと肩を落とした―――

 

 

 ちゃんちゃん♪

 

 

「―――ちゃんちゃん、ってこれで終わりかよ!?」

 

 

 ちゃんちゃん♪

 

 


あとがき

 ふとした所で「食パンくわえて走る女の子」ネタを見て思いついた話。

 そんだけ。

 いちお、続きはなんとなく考えていますが・・・・・・まあ、いつも通り書かないんだろうなあ。

 


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