伝説の剣があるとしよう。

よくある、古くて意匠が凝ってある台座に突き刺された剣だ。

伝説の剣があるとしよう。

選ばれた勇者しか抜けない剣だ。心が清いとか、英雄の血をひくとかそんな奴じゃないと抜けないような。

伝説の剣があるとしよう。

アンタなら―――どうする?

 

 

俺の場合は無視した。いや、無視しようとした。

 

 

 

 

 

 

その日、俺はカイスの街からラーヴの街に―――っても、ここらの地理知ってる奴じゃねえとわからんな。

ま、いい。

とにかく、俺は街から街に軽い旅をしていたわけだ。

全行程、何事も無ければ二日ぐらいかな?

馬車だと一日かからないが、歩きだとそんなもんだ。何事もなければ。

そう、何事もなければの話だが。

例えば途中、伝説の剣とかが突き立ってたりしてなきゃな。

 

 

「ん?」

俺がそれに気付いたのはカイスの街から旅立って、ひとつ夜を越した昼下がり。

つまり、その夕方にはラーヴの街につけるという昼下がりだ。

何気なく街道をてくてくと歩いていると、途中に木の看板があった。

『←伝説の剣あります』

「なんだぁ・・・?」

俺は思わず呟いた。

看板―――といっても、古くぼろぼろになったもので、さらに古代語何ぞで書いてあるもんで

普通の奴には読めんだろう。

あん? 俺が何故読めるかって?

それは昔、魔法使いかぶれのうちのバーチャンが・・・いや、止めよう。昔の不幸は思い返すもんじゃない。

ともかく、古代語でそう書かれていた看板を俺は見つけたわけだ。

俺は看板が指し示す方角を見てみる。

街道から外れまくった方を指し示していて、道などなく、ぼうぼうに生い茂る草が行く手を阻んでいる。

そこで俺はどうしたか?

もちろん、そのままラーヴの街を目指した。道草食ってる暇はない。

そして俺は無事にラーヴの街について・・・

 

 

終わりだったらよかったんだが・・・・・

 

 

 

 

 

「あれ?」

看板を通り過ぎてしばらくして、俺はまたおなじ看板があるのに気付いた。

『←伝説の剣あります』

全く同じ文章。

なんだぁ? ガキのイタズラか?

そう思って、また通り過ぎる。

それからしばらくして―――

「・・・・・・・・・・」

『←伝説の剣あります』

俺はまた通り過ぎる。

『←伝説の剣あります』

スタスタ

『←伝説の剣あります』

スタスタスタ

『←伝説の剣あります』

スタスタスタスタ

『←伝説の剣あります』

スタスタスタスタスタ・・・・・

ふと、俺は気付く。

あれから数十回と看板を通り過ぎて、嫌気が差した頃だ。

空から照り付けている太陽の位置が変っていない事に気付いた。

「・・・・?」

俺はいぶかしげに看板を見る。

『←伝説の剣あります』

「なんだってんだ!?」

わけのわからない現象に、俺は看板を蹴り飛ばす。

木が腐っていたのか、看板はあっさり根本から折れて地面に転がった。

「ふん・・・」

俺は看板を通り過ぎると、ラーヴの街に急いだ。

 

 

スタスタ

スタスタスタ

スタスタスタスタ

スタスタスタスタスタ・・・・・・・

歩きつづけても歩きつづけても一向にラーヴにつかない。

それどころか、太陽も沈まない。

「どうなってるんだ! 一体!」

俺は立ち止まり、叫んだ。

旅なれた俺の体はまだ歩きつづける事が出来たが、精神力が限界だった。

「何で沈まねえんだよ、太陽!」

俺は太陽を睨み付けて怒鳴る。

誰かに聞かれたら恥ずかしいとかは考えなかった。

そもそも、さっきから誰ともすれ違わないのだ。

カイスとラーヴの間は盗賊なども出ず、いたって平和だ。

それゆえに俺見たく行き来する人間も多いし、旅馬車も一日に何台か通る。

それなのに、歩きつづけても誰ともすれ違わない。これはどういう事だ?

たしか、あの看板見てから変な現象が起こり始めたんだよな。

そう、考えた俺はなんとなく街道の脇に視線を落として―――

『←伝説の剣あります』

「・・・・・・・・・・」

さっき俺が蹴った看板がさっきと同じ状態でそこにあった。

「・・・まさか」

俺は思い付いて走り出す。ラーヴに向かって。

街道の脇に目をやりながら、全力で走る。

短い行程だ。元から軽装備で旅をしている俺の荷物は少ない。

だから、全力で走ってもそれほどきつくはない。ま、どうでもいいが。

しばらく・・・というかすぐ、20秒ほど走っただろうか。

『←伝説の剣あります』

「・・・・あったよ、おい」

俺はうんざりとその看板を見下ろした。

「これって・・・・俺にここにいけって事なのか?」

思わず一人ごちる。

どうせ戻っても同じだろう。根拠はないが、矢印以外のどの方角へいっても元に戻るような気がする。

「とりあえず・・・・いってみるか・・・・」

俺はため息をつくと、看板が立ってた時に矢印が示していた方角に向かって歩き出した。

 

 

草と格闘して数分。

唐突に俺は開けた場所に出た。

「ここは・・・・?」

俺は辺りを見回す。

一見すると、ただの広場だが、聖なる気で清められているのがわかる。

何で俺にわかるかって?

それは昔、神様かぶれのうちのジーチャンが・・・いや、止めよう。ツライ過去は忘れた方がいい。

開けた神聖な場所・・・・・・そしてその中央にその台座があった。

大きさは・・・そんなに大きくない。ビンボなうちの墓石ぐらいなもんだ。形も墓石みたいだな。

だが、色々と装丁がなされている。かなり金がかかっているようだ。石自体も上質のもののようだ。

・・・なんで、そんな事わかるかって?

それは―――昔っから旅してるせいだよ。旅してりゃあ、いろんな知識が身につく。

あん? 期待外れ? トーチャンかカーチャンとの不幸な過去かと思った?

あのなぁ、俺だってそんなに不幸な過去があるわけじゃねーぞ。

あと、あるのは・・・・・・・・・・・・止めよう、不幸な数を数えても余計不幸になるだけだ。

ともかく、そのご立派な台座の中心に―――その剣はあった。

 

 

「剣?」

俺は恐る恐る近づいてみる。

抜き身の―――立派な剣だ。

俺も腰に安物の剣を差してはいるが、それとは比べ物にならないほどの立派な剣。

刀身は日光に白く輝き、柄は金と銀の縞模様で、なにか見た事もないような動物をあしらっている・・・

これは・・・グリフォンか・・・?

そうだ、確か先日、西の国で暴れまわったとか言う、魔獣グリフォンだ!

すげ〜・・・売ったらいくらくらいになるんだろ・・・

とか、思いながら剣と台座を眺めていると・・・・俺は台座になにか文字が彫られているのに気付く。

 

 

『力もとめし者よ、この剣を取るがよい

汝が心清き者ならば大いなる力となろう

だが邪心の欠片がある者ならば破滅を与えん』

 

 

とか言うような文面が古代語で書かれていた。

それを見た俺は一度剣を見つめ―――

もちろんそのまま背を向けた。

『コラコラコラコラァッ』

声は唐突に響いて来た。しわがれた、うちのジーサン(今年115歳)みたいな声だ。

「な、なんだ?」

俺は声のした方を振り返る。だが、誰もいない。

あるのは台座と剣のみ。

台座の後ろに誰か隠れているのかとも思ったが、さっき見た限りではそんな気配はなかった。

「気の・・・・せいか?」

俺は再び剣に背を向け・・・・

『またんかコラぁっ!』

「!」

ちがうっ! 確かに聞こえたぞ!

「誰だっ!?」

『汝、古代の血筋をひくものよ・・・・』

声は剣の方から聞こえて来た。

剣が・・・喋っているのか?

厳かな声だが、さっきと同じしわがれた声だとハッキリわかって、俺は一歩後ずさった。

その俺の行動に気付いているのかいないのか、声は厳かに続ける。

『・・・・我を取るがよい。汝にはその資格が・・・って、どこにいこうとする!』

ちっ、気付かれたか。

草が生えている辺りまで後退して、声は気付いたようだった。

「逃げるに決まってるだろ。なんかヤバそーだし」

『そんな事ないぞ。じぇんじぇん、ヤバくないって!』

いきなりくだけた口調で言う声に危うく俺はコケそうになる。

「そういってるところかますますヤバイぞ!」

『・・・そんなことはない・・・・全然、ヤバくなんかないぞ・・・・』

厳かな・・・しかしどこか厳かでない声が響き渡って、俺は―――

「帰る」

『いやあああっ! まってぇぇっ! 久しぶりのお客様なのー』

なんかしわがれた声でぶりっ子する、その気持ち悪い声に俺は草の中に一歩踏み出し―――

カツン

俺の木の靴の先っぽがなにか硬いものに当たって、澄んだ音を立てる。

石か? と思って、足を上げて草に踏み入れようとするが――――

カツン

なにもないところに『当たって』木の靴は弾き返された。

「・・・・!?」

俺は剣を振り返る。

『仕方ないから、バリア張っちゃった♪ てへっ♪』

「『てへっ♪』じゃねええっ!」

『というわけで、私を抜いて♪ 抜いてくれなきゃエクリン困っちゃう』

・・・・このセリフをジーチャンのようなのしわがれた声で言われてるのだ。

普通の人間ならば、発狂して叫んでいるところだろう。

俺は何故大丈夫かって?

そりゃ、お前、いくつものの不幸な過去が俺を鍛えたのさ。うう・・・嬉しくねえ。

「なんだその『エクリン』ってのは?」

『・・・我の名前だ・・・エクスカリバー・・・通称エクリン・・・・』

いや、厳かにそんなこといわれても。

キャラクターのわからない声である。

「どうでもいいけどよ。抜いて♪ って、抜けるのか? 俺に」

いかにも伝説の剣って感じで、選ばれたものにしか抜けなさそうだが・・・・?

『大丈夫よ♪ 誰でも抜けるから』

「へえ・・・・」

『た・だ・し。心が純粋でないと、古代のあんな呪いやこんな呪いがセットでついてくるけどね♪』

「誰が抜くかっ!」
                                        リムーブ・カース
『あっ、ウソウソッ。今ならお客様感謝週間で、『呪痕解除』のおまけ付だから安心して♪』

なにが安心かよくわからんが・・・ともかくここは危険だ。いくら俺でも発狂しかねん!

「出せぇっ! 俺をこっからだせぇっ!」

『駄目よ♪ ホラ、観念して抜いちゃいなさいよ・・・・・いい気分になれるわよ』

ジジイの声でそゆこと言われても嫌悪感が増すだけだが・・・・俺は聞き返す。

「いい気分?」

『そ。気持ちよく、だれかれかまず切り捨てたくなるの♪ 爽快よぉぉ・・・うふふふ・・・』

「いやだああっ!」

『いやっていってもだーめ♪ 逃がさないわよ―――アラ?』

声が怪訝そうな声をする。その声に俺は嫌な予感を覚えた。

「なんだ? どーした!?」

『あら、ゴメン。どうも、封印してたグリフォンが出てきちゃったみたい』

「んだとぉぉぉぉっ!?」

俺が絶叫すると同時に、台座の後ろから一つの巨大な影が躍り出た。

「んなっ!」

巨体を大きな翼で中に浮かび上がらせて、鋭い眼光で俺を見る。

鷲の頭と翼を持つライオン―――グリフォン!

さっきもいったが、このまえ西の国で暴れまわったという魔獣だ。

何でも国の騎士が総動員して、多大な被害を負いながら何とか退治したらしいが・・・

はっきり言って俺みたいなただの旅人が一対一で勝てる相手じゃない!

「グォォォォォォォォォォッ!」

グリフォンは鋭い雄叫びを上げて、俺に飛び掛かってくる!

「くそっ!」

俺は腰の剣を抜き、自分の身を守る盾にするように構える―――――

 

きぃんっ!

 

「っぐわっ!」

衝撃、そして金属音が鳴り響き、俺は吹っ飛ばされた。

どんっと、バリアに背中が当たって、軽く肺にくる。

「げほっ! ち・・・・・んげぇっ!?」

みると、俺の剣が柄の上からぽっきりとなくなっていた。

いくら安もんだからって、そりゃねーだろ!?

「グエエエエエエッ!」

グリフォンの鳴き声が頭上から聞こえ、俺は空を仰ぎ見る。

グリフォンは自分の自由を確認するかのように、大空で旋回している。

「く、くそ・・・・」

『さて、どうするのかしら?』

「て、てめえ! なんとかしろ!」

まるで面白いものでも見物しているような声に、俺は怒鳴り返す。

『なんとかするなら自分でしなさい。ま、手助けくらいはできるけどね』

「手助け・・・? うわっ!?」

「グエッ!」

グリフォンの上空からの急襲に、俺は目の前にダイブした。

『そ。て・だ・す・け。私を抜きなさい。グリフォンなんて一撃よ♪』

「・・・・・・・・・・」

『あなたには選択権はないわ。私を抜きなさい』

しわがれた声で女言葉を喋る声の言葉に不信なものを感じ、俺は言い返す。

「なぁ・・・これもお前の罠なんじゃないのか?」

『あら・・・そういう事言うの? いーわよ、別に。ただ、後ろ・・・』

「ヘ―――? んげっ!」

後ろを振り返ると、グリフォンがその鋭いかぎつめをこちらへ振りかざすところだった。

「どわわわわわっ!」

俺は地面に両手をついたまま、犬の様に四本足で前へ走る。剣の方へ。

ちっ、わぁーったよ! やってやろうじゃねえか!

俺は台座に飛びつくと、剣の柄を両手で握り締め、一気にひきぬく。

スポン

なんともマヌケな音がして、剣はあっさりと抜けた。

そう、あっさりと。

あっさりと抜けすぎて、その勢いのまま、俺はバランスを崩して台座の上に倒れ込む。

「ギェェェェェェェェェェッ!」

グリフォンの咆哮!

うわ、やられる――――っ!?

『もういいわよ。ご苦労さん』

「クエ」

へ?

声の言葉に、グリフォンはマヌケな泣き声を上げる。

俺が顔を上げると、グリフォンからだんだんと色が抜けていくところだった。

色が抜け、だんだんと黒く―――いや、影の色に染まっていく。

やがて

『デ・ブルサ』

声が呪文のような呪文を唱えると、影となったグリフォンは吸い込まれるように剣の中へと入っていった。

「へ?」

俺は今だ理解できずに、剣とグリフォンのいた場所を交互に見る。
                            
マ ス タ ー
『ま、そういうわけだから。これからよろしくね、ご主人様♪』

結局・・・・・・・ハメられたって事か?

 

 

 

 

 

こうして俺は伝説の剣を手に入れたわけだ。

・・・・まぁ、それだけならいい剣をただで手に入れてラッキーなだけだったんだが―――

俺はこの時ほどただより高いものはないという事を思い知らされた事はなかった。

 

 

 

剣を手に入れた代償として俺は、

多大な時間と―――

 

「へ? 今日は琴尭律の13番目だよな?」

俺はやっと辿り着いたラーヴの街で、旅の宿屋の主人がいった言葉に耳を疑った。

<琴尭律の13番目>というのは、ここら辺で使われる暦の事だ。

「いんやぁ・・・今日は雪霜講の8番目だぞ」

「なにぃ!? 半年もたってるじゃねえか!」

「・・・変なお客さんだね。部屋は一人部屋でいいかい?」

「あ、ああ・・・・」

半ば呆然としながら、俺は返事を返した―――

 

 

 

そしてもう一つ・・・わけのわからない使命―――

 

『そういうわけだから。あなたには魔王を倒すための勇者になってもらうわ』

ラーヴの宿屋で疲れたから早めに寝ようとした時、鞘に収まっている剣が言った台詞。

「は?」

『私たち、<聖剣>を手に入れたものは魔王を倒す使命があるの』

「まてこら」

いきなり魔王だぁ? なにを唐突にこいつは・・・

「俺は嫌だぞ!」

『あらそう? ここでグリフォンを召喚してあげてもいいんだけど?』

「こ、この野郎!」

俺を脅迫するのか!?

『じゃ、頑張ってね。勇者様♪』

ジジイの声で言われる女のセリフに、悪魔のようなものを感じて俺はがっくりうなだれた。

 

 

 

こんな聖剣があるとしよう。っていうか、あるんだが。

あんたならどうする? 俺のように使命を脅迫されつつ勇者になるか――――

それとも自ら勇者になって使命を全うするか――――

もしもそんな酔狂な奴がいたら(いるとは思えんけど)俺に言ってくれ。

いつでもこいつを使命ごとくれてやる!

っていうか、誰か俺の身代わりになってくれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!

 

END


・・・・とりあえず。なんとなく書いた話。

適当に『伝説の剣がある』とか文章うって、そこから適当につなげてった話。

適当に書いたわりには意外と上手くできているような気もしますが・・・どうでしょか?

 

ちなみに最初は『例えばどう思う?』とかうって始めたけれど、文章が繋がらずに断念したと言う・・・


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