後書き代わりの前書き(笑)

 

 はいども、ろう・ふぁみりあです。

 今日は二月十四日。バレンタインデーということで、FFIF番外編です。

 ぶっちゃけ、去年書きたくて書けなかったリベンジなんですが、どういう話を書こうとしていたのか思い出せません。

 とゆーわけで、お茶を濁すようなショートショートですが、お暇な方はどうぞ最後までお付き合い下さいませ。

 

 ・・・・・・尚、今回の話は本編とはあまり関係ありません。

(2010/02/14)


 

 

○その1>セシル=ハーヴィの場合

 

「ベイガン様! どうぞ、お受け取り下さい!」

 セシルがベイガンを伴い、城の廊下を歩いていると、一人の女性がハート型の包みを渡してきた。
 女性は記憶にない顔だった。服装からすると、どこぞの貴族の使用人のように見える。

「私はイメルダ=ローデンランド様の使いで―――」
「解りました、どうかお嬢様に “ありがたくいただきます” と私が言っていたと、お伝えくだされ」
「あ・・・はい―――し、失礼致します」

 ぺこりと頭を下げ、使用人はさっさと走り去っていってしまった。
 それをベイガンが見送っていると―――セシルは、ベイガンが受け取った包みを見やり、

「随分とモテるじゃないか」
「私自身に好意を抱かれているわけではありませんよ」

 そっけなく返事が返ってくる。

 ベイガンは貴族出の騎士である。
 というより、近衛兵は基本的に貴族出身になっている。

 ベイガンの実家は、大きくもなく小さくもなく、いわゆる “普通” の貴族ではあるが、それに加えて近衛兵長という立場でもある。
 早い話、王の側近であり、貴族でもあり騎士でもある存在で、そこらの貴族や騎士よりも権力はある。

 半分魔物になってしまったという汚点はあるが、それにさえ目を瞑れば好物件といえなくもない。
 少々、行き遅れた貴族の娘がご機嫌取りに来ようというものだ。

「やれやれ。毎度の事とはいえ厄介ですな。ここで受け取らねば、後々の厄介の種になりかねませんし」
「さっさと結婚してしまえばいいんだよ」

 実はベイガンはまだ独身である。
 その理由は―――

「王が妃をとらぬのに、私が結婚するわけにはいかぬでしょう」

 先王オーディンは、失った恋人に操を立てて生涯独身を貫いた。
 ベイガンもそれに習い、今までは全くそういう話は避けてきた。

「・・・正直、その理屈は何度聞いても良く解らないんだけど―――」

 苦笑しつつ、セシルは言う。

「もうすぐ僕はローザと結ばれるわけだけどね。そうしたら君も今みたいな言い訳は出来なくなるよ?」
「う・・・」

 ぎくり、とベイガンは表情を強ばらせる。
 対照的に、セシルはとてつもなく嬉しそうに笑った。

「ふふふ・・・仲人は任せて貰おうか。バロン・・・いや、フォールス中から君に相応しい女性を見つけ出して―――」
「そ、そんなことよりも陛下! 陛下は毎年どれほどチョコレート貰うのですかな!? やはり赤い翼の長や、一国の王ともなれば―――」

 ベイガンが話題を変えた瞬間、セシルの笑みが変わった。
 嬉しそうな笑みから一転、暗い影のある虚ろな笑みへと変化する。

 それを見た瞬間、ベイガンは思った。しまった、地雷踏みましたかーーーー!?

「あー、チョコ・・・チョコ、ねえ・・・・・・どこかの近衛兵長様と違って、毎年一個しか貰えないよ? 僕は」

 虚ろに笑いながらセシルは言う。
 そんなセシルの全身から、ダークフォースが噴き出している―――ようにベイガンは感じられた。

「いやあの・・・いえ、しかしその一個というのはローザ様からでしょう!? いや流石はセシル様。バロン、いや世界一の美女からチョコレートを貰うとは―――」
「・・・・・・別にチョコを貰えないのは大して気にしてはないんだよ」

 重い。
 一音一音が酷く重いセシルの言葉に、ベイガンは思わず言葉を失う。

「辛いのはさ、そのローザからのチョコでね―――ベイガンだって聞いたことはあるだろう? 数々の “伝説” を・・・」

 確かにあった。
 というか、毎年バレンタインデーに起こる、ローザ=ファレルのチョコレート情報は、ファンクラブを通じてベイガンの耳に入ってきている。

 全身にチョコレートを塗って『私を食べて♪』なんて基本的なネタから始まって、ある年は百万個のチョコレートを送りつけ(当時使っていたセシルの部屋はチョコで埋まった)、またある年には1/1スケールのローザ=ファレルチョコなんてものを作りだし(しかもローザ本人の前で全部食べさせられた)、またある年にはチョコレートを口移しで無理矢理食べさせられた(寝起きを襲われ、どろりとしたチョコレートを無理矢理流し込まれ、窒息死しかけた)。

「一番きつかったのはアレかなー。カカオ100%で作ったチョコレートでね。ローザがわざわざ自分でトロイアまで行って原材料を選んで来たってヤツでさ」

 いや作者もよく知らんのですが、なんでもチョコレートの原材料のカカオってやたら苦いらしいですな。
 普通は砂糖とか加えて甘くするらしいんですが。

「死ぬほど苦かったなー・・・ローザが苦労して作ってくれたチョコだから、捨てるわけにも行かないしさ。・・・・・・食べ終わった後は、一週間ほど舌に苦みが残って、食べ物の味がわからなかったよ」

 遠い目をして語るセシルは、まるでそのチョコの味を思い出したかのように、苦み走っていた。

 と。

「あ、セシル! 見つけたっ!」

 噂をすればなんとやら。
 背後から、聞き慣れた彼女の声が聞こえた。

 うわあ、来たなあ。と、なんか色々と諦めた気分で振り返る―――と。

「・・・あの、ローザさん?」
「やだセシル、さん付けだなんて。急にどうしちゃったの?」

 それはこっちの台詞だ、と思いながら、セシルはローザの姿を確認する。
 服装自体はあまり普段と変わらない。強いて言うなら、動き回りやすいような格好だろうか。
 ただ、何故か手には弓を構え、背中には矢筒を背負い、十数本の矢を背負っている。

「なんで弓を背負って矢をつがえて僕を狙って居るんでしょうか?」
「バレンタインデーだからよ!」

 はい、意味が解りません。

「いや、ちょっと待って、意味が―――」

 解らない、と言おうとした時、セシルは気がついた。
 こちらに向けられた矢の先。鏃(やじり)がなにか黒っぽい。一瞬、黒曜石かなにかかと思ったが、あの色は―――

「チョコレート?」
「キャシーの発案よ!」
「うわすごくイヤな予感」
「今年のバレンタイン、どうしようかと悩んでいたらキャシーが『バレンタインデーと言えば、女性が恋心を殿方へ伝えるための儀式。そして古来より恋の成就と言えばキューピッドの役目です。つまり、チョコを塗った矢でセシル様も射抜けばイ・チ・コ・ロ☆ かと存じます』って」
「それ別の意味でイチコロだろ!」

 とりあえずツッコんで―――ふと、そう言えばさっきからベイガンが何も言わないのに気がついた。
 幾ら相手がローザとはいえ、矢を向けられれば近衛兵長として黙っているはずがない―――と思ったのだが。

 何故かベイガンはセシルを守るどころか、逆に離れようとしていた。

「ちょっ、ベイガン、どこに行く気だよ!?」
「いえ。ローザ様の想いを邪魔してはなんですし」
「いつもと対応が違うだろ!? 弓矢で狙われてるんだぞ!? 僕を守れよ!」
「まあ、先がチョコレートで、ローザ様の腕力では、陛下に致命傷を負わせることは難しいでしょうし」
「怪我はするかも知れないだろ!」
「だいじょーぶよ!」

 と、ベイガンではなくローザが答える。

「怪我したら私が白魔法で念入りに癒やすから!」
「それは追い打ちだッ!?」
「問答無用よ! セシル、覚悟ーーーーーーー!」
「それは殺ル気の掛け声だああああああああああああああッッッ!?」

 その日一日、セシルはローザの矢から逃げ回った。
 そしてまた一つ。バレンタインデーに、ローザ伝説が刻まれたという――――――

 

 


 

 

○その2>ロック=コールの場合

 

「まあほらあれだ。考えてみればバロンに来てから半年も経ってないわけだし義理チョコすら貰えないのも仕方ないってモンだよな」
「・・・誰に言い訳してるんだよ」

 バロンの街。
 誰にともなく滔々と喋るロックに、ロイドが投げやりにつっこむ。

「てゆか、チョコなんて貰ったってあまりいいモンじゃなぜ? ホワイトデーが面倒だしな」
「はははははは、昔モテモテ夫だった人の言うことは違いますなあ。自慢か?」
「いや自慢じゃ―――って、目が怖い目が怖い、悪かった。俺が悪かった!」
「はははははは、何を怯えているのかなロイド君。別に僕はどうもしていないよ。はははははは」

 朗らかに壊れたようにひとしきり笑ってから、ロックは不意に表情から感情という感情を無くし、ぽつりと呟く。

「なんつーかさあ。トレジャーハンターとか、密偵だとか、そんなショーバイやってるとさあ、あまり一カ所に留まらないし、チョコレートなんて貰う機会なんてなくてさあ・・・」
「・・・な、なあ? お前、今までにチョコレート貰ったこと―――いやゴメン悪かった、今のは無し! 今の無ーし!」

 ロックの表情から答えを悟り、ロイドはブンブンと首を横に振る。

「ちょっと待て、何か勘違いしているよーだが、俺だってチョコくらい貰ったことあるわあ!」
「あ、そうなのか? ・・・ちなみに子供の頃に、家族とか近所のオバちゃんとかに貰った以外でだよな?」
「・・・・・・」
「・・・悪かった。俺が悪かったから、だから泣くな? な?」
「な、泣いてなんかねえよッ!」

 涙を拭いて、顔を背ける。

(・・・まあ、実際はレイチェルから何度か貰ったことあるんだが―――これは言うの、なんか恥ずいしなー)

「なんか言ったか?」
「いやなんも。・・・それよりも本当にリサはチョコを用意して待ってるんだろうな?」

 ロックが尋ねると、ロイドは「ああ」と頷いて。

「だから金の車輪亭にロックと一緒に来てくれって―――ちなみにお前のは義理だが、俺のは本命だからな」
「ンなことは言われなくても解ってるよ」

 念を押すロイドに、ロックが苦笑した頃、件の金の車輪亭が見えてきた。
 窓から中の様子を覗いてみれば、満席のようだった。店の入り口の辺りでは、立って席が空くのを待っているものも居る。

「・・・おいおい、なんでこんなに混んでるんだ? 今、昼時じゃねえだろ」

 昼間はそれなりに混む “金の車輪亭” だが、それ以外の時間帯はむしろ空いている。
 今は昼食時を少し過ぎた頃。普段だったら店の中には客が一人居るか居ないかといったハズだが。

 あと、何故か客は男だけだった。女性は一人も居ない。

 一体、なんの騒ぎなんだ? と思いつつ、ロックとロイドは店の中に入る。
 席が空くのを待っている連中を押しのけ、店内で忙しく動き回って居るであろうリサの姿を捜す―――と。

「・・・貴方のために一生懸命つくりました。私の気持ち、受け取ってくださいっ!」

 頬を紅潮させ、ウェイトレスがテーブル席に座った男性客の一人に、丸い皿に乗ったハート型のチョコレートを渡しているのが見えた。
 その光景を見た瞬間、ロイドの動きが止まる。

「あ、あれ? あれってリサ・・・だよな?」

 ロイドの恋人であるはずのリサが、客の一人にチョコレートを渡すところだった。
 しかもチョコレートの大きさや、リサの言動からして、なんというか――― “本命” っぽい。

 チョコレートを渡された客―――男は、照れたように笑いながら「ありがとう」と嬉しそうにチョコを受け取った。

「リ・・・リサ・・・?」

 呆然とロイドが彼女の名を呟く。騒がしい店内では蚊の鳴くような声だったが、辛うじてリサには聞こえたようだった。
 こちらを振り返り、ロイド達の姿を見つける。

「あ、ロイド君。ロック君も来てくれたんだー♪」

 笑顔。
 今し方、恋人以外の男に本命チョコを渡したとは言えないリサの様子に、ロイドの中で何かが壊れるような音が響いた。

「リ・・・リサの浮気者おおおおおおおおおおおっ!」

 ぶわわっ、とギャグマンガみたいな涙を振りまきながら、踵を返すとそのまま店から飛び出して、逃げるような走り去る。

「お、おいロイド―――」
「あれ? ロイド君、どーしたの?」

 きょとんとするリサに、ロックは不機嫌そうに彼女を睨む。

「どしたの、じゃねえだろ。堂々と彼氏の前で浮気しといて!」
「浮気? ・・・・・・ああ、そういうこと」

 ロックの剣幕に、しかしリサはおかしそうにクスクスと笑う。
 そんなリサに、ロックはさらに何か言おうとした―――その時。

「リサ! サボってないで働いて! ・・・って、あれ、ロック?」
「へ・・・? セリス・・・?」

 何故か、セリスがそこにいた。
 しかも、リサと同じ、ウェイトレス姿だ。さらには先程、リサが客の一人に渡したのと同じ、皿に乗ったチョコレートを持っている。

「なんでセリスがこんな所に・・・?」
「リサに頼まれて。バレンタインデーのサービスのために手伝ってくれって頼まれて」
「サービス?」

 そう、とセリスは頷いて、彼女は持っていたチョコレートの乗った皿を両手で持ち直すと、それをロックへと差し出す。
 それから、真剣な表情でロックを見つめ、

「貴方のために一生懸命作りました。私の気持ちです・・・受け取って下さい」
「―――!」
「という感じで」

 表情を崩し、セリスは苦笑する。

「本命チョコを渡される気分を味わって貰うっていうサービスなんだけど、これが好評で―――・・・って、ロック? どうしたの?」
「いや、その・・・・・・」
「顔、赤くて・・・なんか汗が凄いけど、熱でもあるんじゃ―――」

 と、セリスが皿を片手に持ち替えて、空いた手をロックの額に手を伸ばし、熱を測ろうとする―――

「おわわわわっ!?」

 反射的にロックは逃げるように後ろに下がった。

「え、どうかしたの? ロッ―――」
「にょわあああああああああああああああああああああああぅ!」

 下がったロックに向かって、セリスが一歩踏み出すと、ロックは奇声を上げて店を飛び出した。そして、さっきのロイドと同じように逃げるように走り去っていく。

「ええ・・・と?」

 何がなんだか解らずに、呆然とするセリス。
 そんな二人のやりとりを見ていたリサは、くっくっく、と笑いを堪えて呟いた。

「ロッ君ったら、いっくじなしー♪」

 

 

 ちゃんちゃん♪

 


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