第29章「邪心戦争」
BQ.「決死」
main character:フライヤ=クレセント
location:月の民の館・制御室
戦いは一方的だった。
一方的にクラウドが攻め続けていた。クラウドの巨剣が次々とセフィロスへと襲いかかる。
ぶぉん、と空を唸らせ、砕かんとするその連撃を、セフィロスは手にした長大な刀で受け、あるいは回避し、さばき続ける。セフィロスは防戦一方で反撃はしない。
“出来ない” のではなく “して来ない” のだとクラウドは悟っていた。(こいつ・・・明らかに違う・・・)
以前、バブイルの塔で倒した偽物よりも知性を感じる―――そもそも、あの偽物は完全に消滅したはずだ。
だからと言って、本物であるという確証もない。「―――何を考えている?」
何度目かの空振りの後、クラウドは動きを止めた。呼応するようにセフィロスも動きを止め、クラウドをじっと見つめ返す。
「・・・ “俺” を殺したのはお前か・・・?」
“俺” というのはあの偽物の事だろうと察し、クラウドは頷く。
「だったらどうする・・・?」
「別に」自分の偽物が殺されたことには興味ないように、セフィロスは肩を竦める。
それから彼は言葉を言い足した。「ただ、俺の邪魔をするなら殺す。それだけだ」
その言葉には感情らしい感情を感じることは出来ない。
セフィロスにとってそれは “脅し” ではなくただの “事実” なのだろう。「・・・逆に言えば、邪魔をする気がなければ私達を見逃す、と?」
それまで固唾を呑んで戦闘を見守っていたフライヤが問いかける。
彼女は槍を構えているものの、戦意を見せないセフィロスの様子を見ていた。セフィロスはネズミ族の竜騎士へ視線を向けると、肯定するように無言で頷いた。
「その目的というのは?」
「語る必要はない」フライヤに護られるように、その背後にいたギルバートが続けて問いかけると、セフィロスはまたも感情を表わさずに告げた。
「貴様の目的などなんだっていい!」
言うなり、クラウドはセフィロスへ向かって巨剣を振りかざして突進して―――
「お前は俺が倒す! それだけだ!」
―――次の瞬間、クラウドの身体は無造作に斬り飛ばされていた。
******
「クラウドっ!」
クラウドが斬り飛ばされたのを見て、反射的にギルバートが前に出る。
竪琴を構え、呪曲を奏でようとする、が。「王子ッ!」
フライヤは自分の前に出たギルバートの襟首を掴み、強引に床へと引き倒した。仰向けになり、突然のことに天井を見上げたまま困惑するギルバートの視界を何かが横切る。
「邪魔をする気ならば殺すと言った」
意外とすぐ近くに聞こえたのはセフィロスの声だ。
それを耳にして、視界に見えたのがセフィロスの振るった凶刃だったと理解し、自然と身が震えた。もしもフライヤが引かなければ、クラウド同様にギルバートも斬り飛ばされていただろう。「くっ・・・」
ギルバートが倒れて震えているすぐ傍で、フライヤはセフィロスと対峙していた。
槍は構えているが、ただ手にしているだけの状態だ。少しでも槍を持つ手に力を込めれば、或いは殺気をセフィロスへと向ければ、フライヤのことを敵と見なして即座に斬り捨てるだろう。いや、セフィロスにしてみればこの場に居る者は敵ですらなく、ただの障害物程度にしか思っていないのだろう。
少なくともこの場の全員で襲いかかっても、軽く一蹴されてしまう―――それほどの実力差がある。
(落ち着け・・・別にこの男と戦う必要はないはずじゃ)
セフィロスの目的は解らないが、おそらくゼムスの仲間というわけではないだろう。
自分たちとは全く別の目的がこの月にあったというだけだ。「わ、わかった。邪魔などせんから―――」
その “目的” とやらが世界を滅ぼすような恐ろしいことでは無い事を祈りながら、戦意のないことを示すように槍を床に置こうとしたその時。
破晄撃
碧い魔晄の一撃がセフィロスへと直撃する。
それを見たフライヤは思わず叫ぶ。「ク、クラウドぉおぉぉぉっ!?」
その言葉に押されるようにして、セフィロスがフライヤの眼前から高速移動。今し方、一撃を放ったクラウドの元へと突進し、その刃を振るう。
対し、クラウドはそれを巨剣で受け止めた。その様子からは斬り飛ばされたダメージが殆ど見られない。おそらくは回復魔法で癒したのだろうが、そもそもセフィロスも本気では無く、最初からそれほどの深傷ではなかったのかも知れない。「何を考えておるクラウド! 今、この場で戦う意味などないじゃろうが!」
最早、この状況では戦闘回避は無理だろう。
槍を握り直しながら、それでもフライヤは文句を叫ばずには居られなかった。「俺はこいつを倒す為にここに居る! それ以外の意味なんて無い!」
セフィロスの刀を巨剣で受け止めながら、クラウドは怒鳴り返す。
対し、その相手は冷めた様子で淡々と告げた。「・・・興味ないな」
「貴様になくても俺にはあるっ!」刀を押しのけるようにして強引にセフィロスを突き飛ばし、クラウドは体勢を立て直す。
突き飛ばされたセフィロスは、まるで自ら跳んだかのように後方に着地し、クラウドと間合いを取った。「わ、私も・・・」
「だ・・・駄目だって!」杖を手に、クラウドの援護をしようと魔法の詠唱を始めようとしていたポロムをユフィが飛びついて口をふさぎ、杖を取り上げる。
戦闘の意志を見せれば、セフィロスは容赦なく排除しようとするだろう。逆に言えば、何もしなければ生き延びることが出来るかもしれない。ユフィの判断に感謝しつつ、フライヤは叫ぶ。
「ポロム! それから王子も動かずにいてくだされ!」
「でも君は戦うつもりなんだろう?」槍を構えるフライヤに、半身だけ起こしたギルバートが不安そうに言う。
その言葉には苦笑を返し、それからセフィロスと対峙するクラウドを見つめる。( “相棒” が退く気が無いようじゃからのう・・・)
向こうはこちらのことをどう思ってくれているかは知らないが、少なくともフライヤにとって、ダムシアンで出会って以来の “相棒” だ。
それを見殺しにするのは夢見が悪くなるし、なにより。( “彼” を見つけ出した時、胸を張って再会などできんからな!)
―――かくして。
クラウドとフライヤによる、決死の戦闘が始まった―――
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