波と遊ぶ
油絵の諸道具を捨て絵筆を折って三十年近く経ってしまった。想い出を辿っても何時頃の作品か判然としない。齢はとりたくないものだ。多分春まだ浅い頃、亡妻の妹家族を誘って静岡方向に日帰り旅行をした折のものと思はれる。九能山東照宮に詣り名物の石垣苺を食べ田子浦附近の海岸で遊んだ。太平洋の高波が押し寄せては崩れ砂浜を洗って引くのが山国育ちの子供達には大変な楽しみであった様だ。絵を御覧になった方は家内と長男長女の姿と御推察下さるがモデルは長女と甥と姪である。久し振りに絵を物置から引き出して眺めると崩れ落ちる波の音と子供達の歓声が甦って来た。嫁いだ娘が近く家を新築するとの事でお祝いにこの絵を贈ろうと打診した所、良い返事は返って来なかった。どうやら名のある画家の作品が欲しいと云う事らしい。医師会美術展のお陰で久し振りに陽の目を見たこの絵は再び物置に戻される運命にある。




