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14. Canon a 4 per Augmentationem et Diminutionem
拡大と縮小による4声カノン


これぞ「種々のカノン」の中で最高の謎カノンです。
楽譜には新たな旋律のみが記されており、「拡大と縮小による」
「4声」というタイトル以外に、一切ヒントがありません。
なお、「拡大と縮小による」と言うタイトルは、
「フーガの技法」のContrapunctus7にもみられます。
そこから類推して、おそらくこのカノンの後続声部は
示された旋律の拡大形になるものと予想されます。

この新たな旋律は、その大部分が定旋律の1/4縮小形によって
作られています。楽譜に定旋律を青い音符で示しました。



困難を極めるカノンの解決ですが、まず第5〜第13の9曲のカノンに
定旋律の原形が伴っていたことから考えて、この曲にも定旋律が
付けられるものと思われます。第12カノンとの譜面上の類似から、
低声部に次のように定旋律が置かれるものと予想されます。



同じく第12カノンから類推して、後続声部の1つは次のように、
新たな旋律の反行・2倍拡大形であると予想されます。


後続声部の5つ目のCにつけたシャープも第12カノンに習っています。

これで、反行拡大カノンが完成しました。しかし、定旋律をあわせて
まだ3声部しかありません。タイトルに「4声」と表記がある以上、
もう1つの声部が導き出されるはずなのです。
これについて、実は何人もの研究者が解決を試みていますが、
満足の行く解決には達していません。
ここでは、第8カノンに示された先行声部と定旋律との
関係から類推して、曲を以下のように完成してみました。
もう1つの声部は、先ほど得られた反行拡大形のさらに反行拡大形、
つまり最初に示された旋律の4倍拡大形になっています。
さらに、定旋律を8倍の拡大形・反行形と考えることもできます。
そして、これら旋律相互の音の長さの関係から、
「拡大と縮小による」というタイトルの意味も理解されます。



しかし、これも並行8度など何箇所か難点が生じており、
完全な答えとはいえません。今後の更なる研究により、
この難解至極なカノンの謎が解明される事に期待します。

一連の作品のあとに、バッハは"&c."と記しています。
"&c."すなわち"Et cetera"、「などなど」というわけです。
これまで示された高度なカノン技法が例に過ぎないという
謙遜の意が込められているものと思われます。

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