BWV552 閲覧室1 閲覧室2 図書室

”O God, our help in ages past”(1708)
W.Croft(1677-1727)


この賛美歌はイギリスの作曲家クロフトの作品ですが、
バッハのフーガ変ホ長調(BWV552)の主題の出所とされているため、
参考としてここに掲載しました。私の手持ちの讃美歌集
「賛美歌」(日本基督教団出版局 1961)にも掲載されている曲です。



上の楽譜に青い音符で示した賛美歌の冒頭部分が、
BWV552の主題によく似ています。この賛美歌が作られたのが1708年、
クラヴィア練習曲集第3部の発行が1739年ですので、
年代的には整合性があり、何らかの理由でバッハが
この賛美歌の冒頭をフーガの主題とした可能性は否定できません。

しかし、BWV552のページにも記載したとおり、BWV552の主題と
ほぼ同じ主題がブクステフーデ(D.Buxtehude,1637-1707)の作品にも
用いられています。1707年に亡くなったブクステフーデが、
クロフトの1708年作の賛美歌から主題をとったとは考えられません。


ブクステフーデのプレルーディウム ホ長調(BuxWV141)よりフーガの冒頭。
BWV552は変ホ長調ですので、半音違いとなっています。調性的応答の様式も似ています。

もっといえば、十字をかたどったとされる主題冒頭の4つの音、
すなわち移動ドでいうと「ソ−ミ−ラ−ソ」の音形は、
ヘンデル(G.F.Handel,1685-1759)をはじめ、
他の何人もの作曲家がフーガの主題として用いています。

以上のことから考えると、バッハはクロフトの賛美歌よりも
むしろバッハに大きな影響を与えたブクステフーデのフーガから
主題を借用したか、あるいはゴルトベルク変奏曲の主題のように、
古来からしばしば用いられた主題として「ソ−ミ−ラ−ソ」を
取り上げたと考えるのが、より自然ではないかと思われるのです。

もしバッハがクロフトの讃美歌を用いたという明確な資料を
ご存知の方がいましたら、是非こちらまでご連絡ください。

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