閲覧室1 閲覧室2 図書室

Erste Unterrichtung zur Composition
作曲の初歩


自らを「スヴェーリンクの作曲法の解説者」と称したラインケンは、
事実、スヴェーリンクの作曲の規則を書き写し、
そこに新たな説明や譜例を書き加えました。
また作曲法に関する新たな著述も残しました。

ここではラインケンが残した「作曲の初歩」を始めとする
いくつかの著述の中から、フーガや2重対位法に関することを紹介します。


1.フーガの主題と応答

ラインケンによるフーガの説明の中には、
スヴェーリンクの作曲の規則にはなかった調性的応答が登場します。
(ただし、ツァルリーノもスヴェーリンクも調性的応答を使っていました。)


第1旋法による上の譜例は、フーガの技法と同じ
ニ短調の主和音に基づいて作られています。

また呈示部における真正応答は不適切とされています。
一方、呈示部以降の曲中では、真正応答が認められ、
さらに以下のような変形も可能であると説明されます。


オクターブ跳躍する変形は、フレスコバルディなどの作品にも見られます。


2.ストレットと反行形

ストレットすなわち主題を一部重複して模倣する手法について、
ラインケンは"Fuga Mixta"と称しています。



上の譜例の中で、左と中央の例は5度と同度の模倣です。
また右の例は5度の模倣で、模倣された主題が変形されています。

次の譜例は反行形(Fuga Inversa)です。
反行の模倣であり、かつストレットにもなっています。



なお、譜例はありませんが、これらの模倣については
インターバルやリズムに制限が無いことが述べられています。


3.二重対位法

スヴェーリンクの作曲の規則にはなかった、8度の2重対位法が登場します。



また、12度や10度の2重対位法も紹介されていますが、
ラインケンはこれらを"quinta"(5度)、"sexta"(6度)と呼んでいます。


譜例は12度(quinta)の二重対位法です。

転回対位法も紹介されていますが、譜例については後述します。
なおラインケンは、2つないしそれ以上の主題を
扱う際の手法として2重対位法を説明しています。


4.特殊な模倣

あまり目にすることの無い"mit zwischenstehenden"、
すなわち「間に休符を置いた」模倣が紹介されています。



同様の模倣は、シュタイクレーダー(Steigleder,U.)の
コラール変奏曲など、わずかな例しか知られていません。

また、フーガの技法のカノンにも見られる拡大・反行形の模倣が、
"Contrapunct per Augmentationem"として紹介されています。
転回対位法によって作られた、拡大・反行カノンの
譜例がありますので、最後に紹介したいと思います。



譜例の上2段は原形、中2段は8度の2重対位法による転回形、
下2段は転回対位法による転回形です。
なおラインケンは、2重対位法による転回形のことを、
"Verkehrung"(転回形)ないし"Evolutio"(発展形)と呼んでいます。

参考文献
"Theories of Fugue from the age of Josquin to the age of Bach"
Walker, P.M.(University of Rochester Press)

閲覧室1 閲覧室2 図書室