表現の自由を侵す真の元凶、この鮮やかな対比を問う

                      2008415日 弁護士 毛 利 正 道

 

すぐに生じた「波及効果」

 「グランドプリンスホテル新高輪」(経営主体は株プリンスホテル)が契約も裁判所の仮処分決定も無視して、日教組教研全国集会の会場使用を拒絶したため、昨年まで56回続いてきた同全体会が開催不能となり、右翼が「教研集会に昨年まで街宣活動をかけてきた目的を達した」と述べた。全国に62の中核的ホテルを有し従業員8600名、売上年間2000億円の大企業体であるプリンスホテルが、自身が公表している「コンプライアンス(法令遵守の姿勢)」にも違背し、企業の社会的責任を足蹴にした。私は、司法と人権の危機を抱いてネット署名を開始し、ホテル側と交渉もした。

 

 そこに、映画「靖国 YASUKUNI」の4月公開を決めていた5映画館すべてで上映中止になったとのニュースが流れた。「契約も裁判所の決定も守らない」との態度の「波及効果」が出るのではと心配していた矢先であり、一般紙社説も、「今後前例として重くのしかかるおそれがあると指摘した。靖国中止でおそれは現実になったといわざるをえない。」と断じた。この点でも、同ホテルの対応をこれ以上前例とはさせないとの見地から、ホテル側が自己の非を認めるまで手を緩めずに追求すべきだ。

 

なぜ右翼がのさばるのか

 問題はこれに止まらない。ホテル側が前年の大分教研集会の状況を調査したところ、街宣車が2ヶ月前から多数押しかけ集会当日は150800名が動き回り、周辺商店街休業・会場周囲2キロ道路封鎖の状態であった。右翼のこのような集会妨害のための街宣行動は、暴騒音防止条例・公安条例・道路交通法違反、脅迫罪・威力業務妨害罪などの犯罪行為をほぼ必然的に伴っている。それどころか、右翼の街宣車一台、電話一本であっても受ける側の恐怖心は並大抵でなく、脅迫罪・威力業務妨害罪が成立する場面が多い(上記上映予定館にも右翼が圧力をかけている)。にも拘わらず、警察はこれらを取り締まらない。

 

その最近の典型が、2000227日に横浜桜木町駅前で行われた日の丸・君が代の法制化と強制に反対する神奈川の会」主催のトーク集会であった。この集会を、右翼街宣車十数台100名以上が取り囲み、大音響をまき散らし隙あらば襲いかかろうとまでしたのに対し、警察はただ両者の間に立つだけでこの妨害を止めさせることなく、あろう事か主催者側に対し、「右翼を刺激するから」とマイクを切ろうとまでし、結局、集会は3分ほどで中止となり、デモもできなかった。警察が明白な威力業務妨害罪の事態を放置したのだ。

 

言論の自由弾圧6事件を見よ

 警察は、その一方で言論の自由を抑圧している。

1 20035月には、大分で告示前に後援会ニュースを配布しただけの現職市議を、警察が確認しながら警告せずに監視し続け、20名ほどの警察官を動員してローラー作戦のうえ逮捕して21日間拘禁。

2 20042月には、自由に立ち入れる立川自衛隊官舎の戸毎に「自衛隊の皆さんへ」とのチラシを配布しただけの3名を自衛隊情報保全隊と連携して逮捕し、75日間も拘禁。

3 同年3月には、休日に東京目黒自宅周辺の民家に政党機関紙号外を配布しただけの国家公務員を、ビデオカメラ6台、警察官のべ171名を動員して、29日間連日にわたり監視・尾行・盗撮した揚げ句逮捕。

4 同年12月には、板橋高校卒業式で開式の前に保護者にチラシを配布し「国歌斉唱の時できたら着席願います」と頼んだだけの元教員が、式の開会を2分遅らせたとして威力業務妨害罪で家宅捜索のうえ起訴。

5 同じく12月に、自由に立ち入れる葛飾区内マンションのドアポストに「区議団だより」を配布しただけの僧侶を12人で逮捕、10数人で家宅捜査までして、23日間拘禁。

6 20059月には、自由に立ち入れる世田谷の警察官宿舎1階集合ポストに休日に政党機関紙号外を配布しただけの国家公務員を逮捕。

 

白と黒ほどの違い  元凶=警察権力

 これら言論の自由弾圧6事件と、右翼への警察の対応は、あまりに異なり「見事」でさえある。自由であるべき言論活動を大捜査網を敷いて狙い撃ちし、他方で、誰がみてもひどいと思う右翼街宣車の妄動を放置して、表現・言論・集会の権利を奪っていく。この鮮やかなコントラストを大いに世に問うていきたい。「不偏不党且つ公平中立」と定める警察法に反する警察権力、そして(あるのであれば)その背後勢力を放置することはできない。

 警察・右翼による言論表現集会の自由に対する侵害事例の収集にご協力いただきたい。