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内生菌(エンドファイト)と農業の可能性
 NHKのクローズアップ現代が「微生物とつながる農業」と題し、2010年11月1日に内生菌について放送しました。番組は、微生物には、植物の体内に入り込む内生菌が存在し、そのなかに、植物の成長を早めたり、病気や害虫からの抵抗力を強めるものがある。微生物が植物の内部に入ることで、植物の中で眠っていた遺伝子が働きはじめる。この内生菌を肥料や農薬に代わる農業資材として活用するため、企業や研究者が、より効果的なものを求め探索を始めているという内容でした。
  土を耕さない不耕起栽培を実践している私にとって、この放送は大変刺激的な内容でした。というのは、内生菌が不耕起栽培にも関係しているのではないかと思えたからです。今まで、なぜ不耕起栽培をしているの?と尋ねられると、生物の多様性を用いて次のような説明をしていました。

  土の中には微生物を含め多くの生き物が生息している。土を耕さなければ、より多くの生き物が生息できる環境が整う。土の中の生物層は地上にも影響し、地上でも多くの生き物が生息できる環境が整うことになる。圃場内に蜂、蟷螂、蜘、天道虫などの昆虫類、蛙、などの両生類、鼠、土竜などの哺乳類、鳥類、蛇など、多くの生き物が生息することで一つの生態系ができあがる。そこでは、食物連鎖が機能し、油虫や青虫など、野菜に害を及ぼす特定の生物が大発生するのを防いでいる。病原菌についても同じような原理により、特定の菌だけが大発生することを防ぐ。よって、農薬や化学肥料を使わない有機農業では、土を耕さない方が作物を育てやすい、と。

  これまで、大気中の窒素を固定する根粒細菌や、土壌から吸収した窒素や燐、カリウム、鉄などを植物に供給している菌根菌(根粒細菌と菌根菌も内生菌の一種)の存在から、何らかの微生物が植物の生育に深く関わっていると思っていました。しかし、その仕組みをきちんと説明できるだけの知識はありませんでした。ところが、内生菌の働きを用いれば、不耕起農法だけではなく、肥料を全く与えない無施肥農法や、外部から何も持ち込まない自然農法、有機物を地表面に敷きつめる炭素循環農法などにおいても、野菜が病気にならず、少ない養分でも育つ理由を説明することができます。いずれの農法も土を草でおおう草生栽培と組み合わせている場合が多く、微生物の生息環境は良好であることから、内生菌が働いている可能性は充分にあります。
  今後の農業を変える可能性がある内生菌ですが、農業資材として圃場に投入した場合の安全性はどうでしょうか。特定の微生物を大量に投入すれば、生態系をかく乱することになります。また、内生菌の中には、ライ麦に寄生する麦角菌のように有害物資を作り出すものもあります。農業への活用は、資材投入型ではなく、自然界において、どのように内生菌が働いているのか、その仕組みを解明し、それを圃場において再現する農法として確立すべきです。
  興味深いのは、多くの微生物が土の中でふだんは眠った状態にあるのに、何かのきっかけによって突然増え始めるということです。現在、節足動物のヤスデが微生物を目覚めさせる働きを持っていることがわかっています。私は、昆虫類の糞の中に微生物を活性化させる鍵が潜んでいるのではないかと想像を膨らませています。 (2010.12 環境会議通信に投稿した文章に加筆)
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