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我家の不耕起栽培と農業
我が家の不耕起栽培と農業    
  ALIVE2009年7、8月号   
 長野県  小林桂子

 「畑をやっている」というと「草むしりが大変じゃないの?」と、よく言われる。「草は取らないで草刈りをする。耕すこともしない。」と言うと、普通の人は、頭がポカンとなる。斯く言う私も「大地を耕す」ということは、いいこと、当たり前だと思っていた。農業を始めて間もない頃、「不耕起栽培」というのを知った。土中には、無数の微生物とミミズを初めとした数知れない生き物が棲息している。つまり、生態系が成り立っていて豊かな土を作っているのだ。だが、一般に農業をやる上では、そんなことは構っていられないし、作物によっては、土壌燻蒸といって土中のものを薬剤で死滅させてから、作付けをしている。一般の畑では、生き物は生きられないし、草も大敵だ。

 我が家の畑では、草も普通に生えているというか、一面が草だらけだ。春から晩秋にかけて数十種類の草が、次から次へと生えてくる。作付けをする時は、まず草を刈り、定植する部分だけ穴を掘って植える。或いは10cmほどの幅に表面を削り取り、筋をつけて種を蒔く。肥料となるヤギ糞堆肥は、周りに置くだけだ。あとは、作物に日光がよく当たるように、定期的に周りの草を刈る。刈った草は、ヤギのごちそうになる。草の根は地中深くまで伸びて、枯れた後、結局は、養分を地中に残すことになり、豊かな土作りを手伝ってくれる。だから、10年以上も耕さない我が家の畑は、土がふかふかになっている。

 また、「無農薬だったら、虫食いでしょ?」ともよく聞かれる。アオムシやいろいろな虫たちがたくさんいる。だけど、アオムシは作物だけを食べるわけではなく、草も食べるので、野菜の集中攻撃はされない。それに、アオムシ、アブラムシなどの害虫を食べるカマキリ、クモ、テントウムシ、カエル、ハチ類もいるので害虫の大発生というのもない。うまく生態系ができているのだ。

 一方、難点はというと、体力と手間が要ること、そして収穫量が少ないことだ。種類によっては慣行農法の半分も採れないので、これだけで生計を立てるのはかなり厳しい。でも、味は濃く、優しい。最高においしいものができる。

 不耕起栽培の農産物は、殆ど出回っていないが、有機農産物はというと、国産もたまには見かけるが、多くが輸入で占められている。果たして、「体にいいものを食べる」それだけでいいのだろうか?夫と私は「環境負荷の少ないもの」それを第一に考えている。遠い外国で安全に作られても、飛行機や船でかなりのエネルギーを費やして運ばれてくる。それも冷凍や冷蔵で・・。環境負荷はかなり高くなる。むしろ、日本の農業者や農地を守る意味で、近くで採れた物を優先的に購入するべきではないだろうか。

 国産は高いという話しもよく聞くが、生産者にとっては安すぎると思う。農業の労働賃金は、他の分野に比べるとかなり安い。いくら不景気でも農業者が増えない理由がそこにある。政府の方針が悪い。現農水相はある番組で、「農業はビジネスだ、科学だ、野菜工場だ」と、力説していたが、私は、頭がポカンとなった。日本の農地当りの収量は、海外に比べて相当高いはずだ。いくら農家が努力しても報われない現状。大臣ともあろう方が、自給率の高い欧米では、農業者に補助金を相当出していることを知らないはずはない。これまで、日本は農業補助という名目で、道路や川の工事ばかりしてきた。農業者を育てることをまるでやっていない。

 「農業をやりたい」と、訪ねて来る若者に対して、「大変だからよく考えた方がいい」としかアドバイスが出来ない日本の現状は、悲しすぎる。


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