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農業プラスα

農業プラスα  
  ALIVE2009年7、8月号  
 長野県  小林桂子

 前号で、我が家の不耕起栽培のことを紹介したが、それだけではとても生活していけないので、実は、切花栽培をやっている。以前「半農半X」という言葉が流行ったが、我が家は「半農半花」とでもいうのだろうか。

 実は、こちらに越してきて、いきなり有機農業を始めたのではなく、夫の両親がやっていたクレマチスの切花栽培を手伝う形から始まった。機械化、大型化、省力化が叫ばれる中、全て手仕事、ツル性のクレマチスが1本の支柱にうまく絡むように育てるのは、気の短い人には出来そうにない。クレマチスは宿根性なので、毎年4月になると一斉に芽を出す。私の仕事は、まず、落ち葉を畑一面敷きつめる作業から始まる。そこにヨシの支柱を立てて、1本ずつ誘引していく。ツボミがついたら、1mの長さに揃え、ヨシに絡まったまま出荷する。秋には落ち葉集め、冬には河川敷での葦刈り作業がある。どれも大変な作業だが、自然に近い状態なので、私はいろいろなことを体験できる。

 毎年5月頃、ヒバリが畑のどこかに巣を作る。天空でピーチクパーチクと騒がしいくせに、コソコソーと地上を走るものだから、巣の発見は難しい。今年は、夫が草を刈っていたら、巣があり、片側が開けたため、抱卵を放棄してしまい、2日後には、何者かに卵は食べられてしまった。昨年は、3個のうち無事孵ったのは1羽のみ、その前は、4羽孵った。つまり、我が家の畑でヒバリも育てていると言えなくもない。周りのキャベツやセロリの畑では、こうは行かない。

 畑一面にヨシを立てているので、いろいろな鳥が来る。以前、ヨシの先にカエルなどの干物が刺さっているのを何度も見た。初めは、とても不思議だったが、後で「モズのはやにえ」というのを知り、納得したものだ。そのモズがスズメを銜えてきた時もあった。カマキリの子供が生まれてポロポロ落ちていく場面やテントウムシの産卵シーン、青いアマガエル、クモの活躍などなど、手作業の仕事だからこそ自然の一部を垣間見ることができる。

 有機農業をやっている友人たちの間では、「田んぼの生き物」のことで話が盛り上がる。「農と自然の研究所」代表の宇根豊氏は、田んぼでは、米だけでなく、いろいろな生物も生産していることを以前から指摘している。例えば、ご飯茶碗3杯分の米が収穫できる田んぼで赤トンボが1匹生まれているそうだ。強いてはご飯3杯食べることで、赤トンボ1匹が育つということになる。これは、逆を反せば、日本人が全員パン食になったら、赤トンボは日本からいなくなってしまうということだ。この話を聞いてから、私は、いつもより積極的にご飯を食べるようにしている。

 「鳥獣被害」のことに話は変わるが、この夏、初めて我が家の畑にも、タヌキかハクビシンによるトウモロコシの被害が出た。今年は予約注文を受けていたので、慌ててネットを用意して、夕闇の中、夫と囲い作業をした。それにしても数万円分のトウモロコシを囲うのに、ネットとポールで1万円近くかかるのだから、考えてしまう。自治体や県、国は、作物を野生動物から防除する対策費として全額とは言わないが、9割位は補助すべきではないだろうか。「害獣駆除」ばかりを掲げずに、農家の自己防衛に重点を置くべきだ。農家は手間がかかり、お金にならない農業にお金がかかることに不満を持つ。だが、手間がかかることは、宿命的に思っているが、お金に関してはどうにもならず、矛先が野生動物への恨みになる。その対策として、お役所は安易な駆除一辺倒になる。私の住む諏訪地方では、昨年度、目標の2倍にあたる2,222頭のシカが捕獲された。なのに、シカによる農林業被害は過去最悪だという。このままでは、農林業の被害がなくなる頃には、野生動物が絶滅してしまう種もあるだろう。


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