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鳥獣保護員の役割って何だろう?


鳥獣保護員の役割って何だろう? 
ALIVE2009年3、4月号掲載 
 長野県 小林桂子

 私は、4年前から、鳥獣保護員というものをやっている。長野に越して来て、自然の中で生きていることを実感し、また、厳しい自然の中で生き延びる野性動物のことも、身近に感じられるようになった。野生動物は、当然だが、自然の中で生きる。どんなに厳しくとも自然の中で生きる。でも、その自然がどんどん削られていることに心を痛めていた。そんな中、鳥獣を保護するという文字の「鳥獣保護員」になることができた。県の任用であるが、大方は、猟友会員が占めている。確かに猟友会の人達は、山のことも、地域のことも、野生鳥獣のことにも、豊富な知識を持っている。

  ただ、県が期待している「鳥獣保護員」の任務というものが、とても中途半端なもので、保護区の看板の管理とか、猟期の巡視が主である。文字通りの鳥獣保護的な任務はあまりない。

  また、鳥獣の駆除も個体数調整と言うことで保護管理の一部ということになっている。昨年度は、諏訪地域では約1,200頭、長野県全体では9,941頭のニホンジカが捕獲され、捕獲目標を軽く上回った。今年度は、さらに上回るだろう。

  県の農林業被害への対策が、有害鳥獣駆除、或いは山際に電気柵を設置することというような緊急対策のみに追われているように思える。

  農林業の鳥獣による被害というものは、昔からあったもので、関わる人はそれなりに苦労をしてきたという。現在は、コストの軽減や農業者の高齢化ということから、誰もが手間を惜しみ、安易な方法を選ぶ。だけど、それが本当の解決になるのだろうか?
  不要な農作物を田畑に放置しないとか、人間が中途半端に手を入れたため貧相になった山を再び動物も棲める山にするとか、どこまでも開発、開発で、残された自然を破壊し続けるよりも、集落の活性に力を入れて、誰もが人間らしく生きられるような政策に、すぐにでも「チェンジ」してほしいものだ。

 私の住む地域では、十年前に大規模な圃場整備を行った。田園地帯にある尾根と呼ばれる防風林を削って平らにし、畑に替え、小川さえもコンクリートで真っ直ぐに造り替えた。木陰も風除けもないだだっ広い田畑が出来上がった。残された尾根は、ノスリやオオタカの猛禽類やキツネ達の大事な棲み処になっている。

  昨年の夏、尾根のそばで2匹の子ギツネが戯れていたのを見かけ、それから車で通る度に、「今日はいるかな?」と横目で見るのが日課になった。1月の雪の後、暖かな南斜面は雪が融けて、見ると、2匹で日向ぼっこをしている。久しぶりに見るので、「よかったぁ、無事に生きていたんだ」と嬉しくなった。でも、そばを通る際、1匹の子ギツネのシッポの毛が抜けているのが見えた。カイセンだろうか?カイセンに罹ると、毛が抜けてしまい寒さで冬は越せない。それからは、何度も通るが、姿が見えない。ハンターにも狙われるし、交通事故も心配だ。

  以前、あるハンターは、「撃ったタヌキがカイセンに罹っていて、毛がなくてボロボロだったので、気持ちが悪くて、捨てて来た。」と言っていた。

 野生鳥獣の疾病対策など不可能だろう。だからこそ、せめて豊かな自然を残していかなくてはならないと思う。




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