那須湯本温泉「鹿の湯」

                         2003/06/27

 かけ湯、湯滝、六つの温度差のある浴槽、そ
してすべてが木造りであるところが人の気持ち
を和ませる。熱いのを歯を食いしばって我慢し
ているお年寄りもおれば、木製の洗い場に座り
込んでじっと自分の一物を眺めつづけている奇
妙な青年もいる。まずたいていは湯に疲れて、
洗い場にへたりこんでいる中老年層のひとたち
だ。硫黄泉のかもし出す幻惑の世界に酔わされ
ているのかもしれない。まさに夢か現か、幻と
現実の世界のあいだを行ったりきたりしている
雰囲気がある。

 ついでだが、殺生石近辺の賽の河原に
おかれている多数の石の地蔵、千体地蔵、
もファンタスティックだ。赤い帽子をか
ぶって合掌し祈り続ける地蔵様なのだが、
奇妙に大きなサイズの掌に注目しよう。

 昔の湯治湯の雰囲気を完璧に残してい
る素晴しい温泉。

 こういう温泉にはいってその良さを味わってみると、
最近地方行政機関によって無数に建設されている健康
ランドの類の味気なさがつくづく情けなくなる。それ
らは我々に夢を与えてはくれない。

 この湯川の川底から湧き出す硫黄泉は、身体も心も
リラックスさせてくれる。

 では皆様、ご機嫌よう。

 近くにある那須湯本温泉雲海閣の湯
も素晴らしい。建物はみすぼらしく、
浴室まで長い階段を下りなければなら
ないが、降りついた先にある浴槽の硫
黄泉はほれぼれするような完璧さだ。

 熱いのと温いのと二槽式。薄めてい
ないから、匂いが素晴らしい。

 川の右手に入口があり、左が浴場。あ
いにく那須温泉は雲につつまれていた。