生産コストに影響する諸問題

 箔の生産は、箔打職人の手で支えられています。平均的な職人
の給料は、一週六日、一日
8乃至10時間の労働を夫婦ふたりで働い
て、月間
50万円程度のものです。これが2,000万枚のペースとなる
と、月間収入はわずか
25万円におちてしまいます。

 これでは若いひとは暮らすことが出来ません。

 だから若い職人は次から次へとやめてしまいました。
 現在の金沢市の箔職人の平均年齢は70歳だと言われています。
 金沢市の金箔産業は職人の払底によって腑抜けの状態になっているのです。このままでは、将来はありません。

 昔は、好景気の時に相場の暴騰があって、職人もうるおいまし
た。開放経済の時代にそのような昔話はもはや通用しないのです。


 なにかうまい手を考えなければなりません。箔職人の給料を中
期的に、安定的でかつ魅力のある水準にしなければなりません。

 この図では損益分岐点は4,000万枚/年と設定してあります。年間
の販売枚数が
4,000万枚を越えれば、利益(Profit)が生じ、逆に4,000
万枚を下回ると、逆ザヤで損失が生じます。

 図の2,000万枚のところを見てください。変動費を括弧でくくっ
てありますが、この部分は金の価格ですから、ロンドンの
LME価格
通りに支払わなければなりません。この金価格の部分が売上高から
差し引かれるのですから、固定費がその分だけ減少することになり
ます。この図では、固定費が半分になっています。

 縦軸は金額であり、売上金額と生産コスト総額をあらわしていま
す。

 左下隅から斜め上に伸びている直線は、その傾きが商品単価であ
ります。

 図の下方に台のように伸びている直線は(F.C.と書いてあります
が)固定費を示しています。職人の賃金は商品が売れても売れなく
ても経費としてかかり、売上額に依存しないので、固定費です。

 その台の上から左上方に延びる直線は変動費(V.C.と書いてあり
ます)と固定費を合わせた生産コストを意味します。変動費とは売
上枚数に比例してかかる費用のことで、例えば材料の金のコストだ
とか、紙代だとか、を現わしているのです。金額の大きさからして、
金箔の場合、変動費は「金の価格」であるとお考えいただいて間違
いはありません。

 マクロ経済学を少し勉強されたかたな
ら、一番はじめに学習する損益分岐点の
グラフです。

 金沢市の金箔業界を一軒の会社に見立
てた場合の損益分岐点図、であるとご了
解ください。