2001年に完全に修復され、今ではこの画像よりもはるかに美しくなっている、ウフツィ美術館の至宝「受胎告知」である。


 天から舞い下りたばかりの大天使ガブリエルが聖母マリアに向って告げる。

 
AVE GRATIA PLENA DOMINVS TECVM
  「恵まれた女よ、おめでとう。主があなたとともにおられます。」


 Fra Angelicoと同じく、Simone Martiniも不可視の価値を黄金で表現した。そして耳には聞こえない言葉を、漆喰で盛り上げ金箔を載せた文字で表現した。

 この絵は、ウフツィ美術館によって14世紀にSienaで描かれたときそのままの状態に復元された。
 金箔を大量に使い、その使用技術は世界最高峰である。
 残念なことに、日本の修復技術はすたれてしまって、このような修復はいまや不可能になっている。
 大天使ガブリエルの肩からなびいている上着の衣は、意図的なのかどうかは知らないが、修復されないままの状態で残されているように見える。


 西洋での修復作業とは、その作品が製作された時点の状態にもどすことである。日本のように「古色を重んじ」、修復作業に(偽造技術を使って)「古色をつける」ことではない。そして、修復作業とは大量の金箔を使用するものなのである。

Simone Martini

  (シモーネ・マルティーニ)

画像:

シモーネ・マルティーニ
「受胎告知」(部分)
ウフツィ美術館
『世界の美術館16』ウフィツィ美術館
摩寿意善郎編
講談社 1967