B only タイプ
前項で記した憂鬱病者によって書かれ
たとされる「圧倒的恐怖」の記述(上巻
P242)の全文を再録する。
ジェイムズ自身の体験記であるとされ
る(『宗教的経験の諸相』下巻 解説P409
を参照せよ)この文章は、B体験の完璧
な描写であり、既体験者でなければ著述
できない恐怖感が表現されている。つま
り、ジェイムズはB onlyタイプなのであ
る。
次の1、2、3の順序となる。
1. P225 フランスの養育院の患者の手紙
2.
P230 保養所の患者の告白
3.
P242 フランス文で書かれた憂鬱病者の手記
これでは読者による「圧倒的恐怖」の十全の理解が
難しくなるので、筆者の目線でもって補うこととしよ
う。同書「病める魂」のなかから、前段階の報告とし
てふさわしい文章をさがしだし、あたかも同一人によ
って作成された一連の文章であるかのように取り扱う
こととしよう。
B体験の内容は、著者の申し述べる通り(上P245)、「絶対的なまったき絶望」の状態であって、「全宇宙は病者のまわりで凝固して圧倒的な恐怖の塊と化し、初めも終わりもなく彼をとり巻いてしまう」世界であり、「血を凍らせ心臓をしびれさせる、ぞっとするような、身に迫る悪の感覚」なのである。
ただジェイムズのこの報告書は不十分である。人間精神
は点描的に構成されるものではない。かならず、時間の経
過があって成り立つのである。記録というものは時系列的
な記録を作ってはじめて「記録」と称するにふさわしい記
録になるのである。つまり、ジェイムズの描写する「圧倒
的恐怖」は、その前の段階と後の段階の記録とがあるはず
なのだが、それが欠けている。意識的に書き落としたとい
うよりも、ジェイムズにはB体験の発生メカニズムが組み立
てられていなかったから、「圧倒的な恐怖」の前後の心理
状況を書きとめる必要を感じていなかったのが真の理由だ
ろう。