河童づくし歌仙「肝盗り」の巻

矢崎硯水(独吟作品)

千匹の河童を隠すおぼろかな

獺祭りとて並べたる魚

水掻きに峡の流れも温みきて

右から左抜けさうな腕

雨の月そなた合羽を羽織るらん

風に傷みし冬瓜の面ラ

ウ  肝盗りの咄微に入りそぞろ寒

秘薬ポスター薬局の壁

チャック医師遺伝子いぢる昼下がり

遠野生まれのIQはさて?

あるときは狐狸の姿になりすまし

へっちゃらなこと「屁のかっぱ」てふ

駒引きの淵の今宵の月涼し

付け文めいた詫び状を添へ

おかっぱの娘と出来ちゃった婚となり

水匂やかな親水の郷

川猿は山をしのびて花の舞

日永一日甲羅干しする

ナオ 馬鹿貝に手を挟まるる河太郎

♪やめられないは「カッパえびせん」

旅はるか来て聞きおよぶ渡来説

関門峡に海御前は棲み

日本書紀蛟(みづち)といふは嚆矢にて

川流れしてほんに危うき

レディースが尻撫でられる夏厠

レース下着にヒョースベの胤

柳刃の金気ぞくっと殺気あり

いつもの癖で嘴(くち)を尖らせ

芋銭の絵かけて迎へる盆の月

ちちろも鳴けよ「黄桜」の酔ひ

ナウ ダントツの押しの一手の宮相撲

小骨も継ぎて骨つぎの技

き印にあらずバッジはKAPPA印

仏飯きらひ尻子玉好き

彼は誰の置いてけ堀の花筏

硯にそそぐ皿の春水

・起首1995年2月22日

・満尾2002年8月15日(最終校合)

・河童連句会(妖怪連句bP3号)

注釈

・千匹・・・潦=にわたずみには微小な河童が多数泳ぐという。

・獺祭り・・・河童のしわざとも。

・右から左・・・腕が自在に移行する。

・冬瓜・・・瓜類は大好物。

・肝盗り・・・人や馬の肝を抜く特技。

・秘薬・・・軟膏薬の秘伝の調合。

・チャック医師・・・芥川龍之介『河童』の登場人物。

・遠野・・柳田国男『遠野物語』。岩手県遠野の河童は赤顔。

    詫び状・・・悪行を悔いて詫び証文を残す。

・親水・・・「水は命河童は心」は河童共和国のキャッチフレーズ。

・川猿・・・河童の別名、山に帰って山猿とも。

・かっぱえびせん・・・カルビー製菓。

・渡来説・・・中国から大遠泳して上陸の説。

・海御前・・・うみごぜという女河童。

・蛟・・・みづち。河童の始祖といわれる。

・尻撫で・・・特技にして生き甲斐。

・ヒョースベ・・・河童の別名。

・金気・・・嫌いなものの代表。

・芋銭・・・姓は小川。牛久沼の日本画家で河童絵の大家。

1938年没年

・黄桜・・・小島功の艶やかな女河童で有名な黄桜酒造。

・宮相撲・・・相撲が大好き。

・骨つぎ・・・接骨と生傷に効く家伝薬。

・尻子玉・・・人の贓物脱出を止る栓。高村光太郎が詩にも。

・置いてけ堀・・・江戸は錦糸町の「置行堀」。

・皿・・・頭部の水を容れる容器で、エネルギーを貯蔵する。

以上

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くわいくわい歌仙「大天狗」の巻     矢崎硯水捌

大天狗ひそむ翠微やほととぎす       矢崎硯水

木下闇には山姥の家           瀬尾千草

串刺しの百の目玉を焼きあげて       本屋良子

ブラッドワイン酌み交はしつつ      山本秀夫

古琵琶の月夜のシャドウボクシング     沖津秀美

威し銃にて仮死の化け猫           硯水

ウ  迷宮につづく入口崩れ簗            千草

乙姫さまの毛脛ちらりと           良子

破邪鏡でAVを観る閻魔の庁          秀夫

麻薬・恫喝ヒモは牛鬼            秀美

水パイプ喫ふてにやりとアルカポネ       硯水

ずんべら坊の帽子あみだに          千草

標的は丑三つ時の冴ゆる月           良子

異界消防火の粉消しとめ           秀夫

祈祷師は髑髏の数珠をもみしだき        秀美

開かずの門も窓も開くなり          硯水

箒星ひと振り花を咲かせたる          千草

貝の中より生るるフェアリー         良子

ナオ 糸遊の通信網がつながりて           秀夫

不倫隠しに焦る羅刹女            秀美

親に似ぬ豆腐小僧もお年頃           硯水

獏の毛皮を敷きて微睡む           千草

待ち望む銀河鉄道いよよ発ち          良子

細蟹姫のファンが押しよせ          秀夫

元興寺の盆踊り歌チョー美声          秀美

いやみがゐれば鉦叩ゐる           硯水

妖術をすぐ解く呪文唱へてよ          千草

貧乏神のやをら顔だす            良子

かつら屋に通ふかみきり夏の月         秀夫

縁台将棋さとり負かさん           秀美

ナウ 自爆とてこんにゃく島はぶるぶると       硯水

ウオール街の傷む金の木           千草

崩れたるダリの時計のねぢを巻き        良子

春の掃除はこじゃれ家鳴り          秀夫

逆髪は関の花守花狂ひ             秀美

よなぐもりする槌の子の里          千草

・起首2002年6月29日

・満尾2002年7月31日

・河童連句会(妖怪連句bQ7)

がごじ〜歌仙「人魂」の巻         矢崎硯水捌

人魂の蜘蛛の囲抜けて行きしかな       矢崎 硯水

うけらを焼きて払う物の怪         東浦 佳子

オケルイペ屁こき大会催して         吉本 芳香

銀杏たちまち黄葉急げる          永見 徳代

片割れの月を猫又仰ぐらん          矢崎 妙子

凄まじきまで響く家鳴り             硯水

ウ  殴り込むガルガンチュアは酔っ払い         佳子

ゼウスの神はお手を差し伸べ           芳香

天界のバージンロード七色に            徳代

裳裾のかげに侏儒がこそこそ           妙子

皿舐めてぺろり太郎は健啖よ            硯水

鬼火とびだす二挺拳銃              佳子

月晧と片輪車のラッセル車             芳香

客の山童マントひきずり             徳代

いそがしは忙しそうに往き来して          妙子

「どこでも窓」の城を建てたる          硯水

壁掛けの異形図巻と花絵巻             佳子

さえずり石の語り麗らか             芳香

ナオ 春眠の見越入道やっと覚め             徳代

プリン掬えば曲がるスプーン           妙子

驢馬に化けピクシーばかし「さあ乗りな」      硯水

毒消し盃を作る一角               佳子

羅をはんなりと着るお岩様             芳香

風死す閨に夜叉となりはて            徳代

あちこちに血染めの護符の貼られたる        妙子

都大路を往けばぞくぞく             硯水

新顔の飛代路理・真平・有夜宇屋志         佳子

妖怪連句すごい連衆               芳香

元興寺で般若湯酌む望の月             徳代

貧乏蔓憑き物となり               妙子

ナウ 旅せよと背中を突くけらつつき           硯水

餞別という贋札の束               佳子

機密費は打出の小槌ぬらりひょん          芳香

船頭多く先ずは談合               徳代

高笑いしながら天子花の下             妙子

遊び呆けて伸びる糸遊              硯水

・2001年5月20日起首

・2001年10月5日満尾

    ・河童連句会(妖怪連句bP8)

スワンスワン「笑い般若」の巻        矢崎硯水捌

    壱面

(一)  西瓜割れば笑い般若が舌をだす        矢崎 硯水

(二)    秋の庵に揺らぐ蝋燭           高山 紀子

(三)  妖怪は月見の句座に集まりて         吉本 芳香

(四)    三つ目小僧が小首傾げる         北野真知子

(五)  何となく誰かいるよな気配せん           紀子

(六)    おでん屋の吊るお化け提灯           硯水

    弐面

(一)  すっぽんの生き血を混ぜて酌むワイン       真知子

(二)    ピチピチ魔女を側に侍らせ           芳香

(三)  海賊のふんどし膨れ帆掛け船            硯水

(四)    八咫の烏にたのむ案内             紀子

(五)  大荒れの根の国議会治めんと            芳香

(六)    ねずみ男の歩く出雲路            真知子

(七)  涼しさを木霊と分かち渡る月            紀子

(八)    雨乞をして青蛙鳴き              硯水

(九)  口寄せの婆はモンロー訛りにて          真知子

(十)    カルマ抜けだす水晶の玉            芳香

    参面

(一)  桃源につづく山里ゆめ色に             硯水

(二)    謎の物体着陸の跡               紀子

(三)  ドラえもんタイムトンネルまっしぐら        芳香

(四)    ヒューマノイドの踊るパラパラ        真知子

(五)  こけしとは子消しのことと花枝垂れ         紀子

(六)    朧の町が神隠しする              硯水

*2002年6月30日起首

*2000年8月19日満尾

*河童連句会(妖怪連句bQ8)

形式「スワンスワン」はアラビア数字22(句数)を二羽の白鳥に見立てる。春秋二〜三句、夏冬一〜二句。二月一花一鳥(鳥は非定座)。恋は二〜三句の一箇所。歌仙に準じ、妖怪連句に順じる

スワンスワン「髑髏」の巻           矢崎硯水捌

    壱面

(一)  水底の髑髏を抜ける小蟹かな         矢崎 硯水

(二)    妖怪ランドキャンプ彼方此方       久我 妙子

(三)  木陰より百目様子を窺いて          渡辺 梅子

(四)    そしらぬ顔で混ぜる毒薬         矢崎 妙子

(五)  月紅く今宵ルビーと紛うらん         八尾暁吉女

(六)    茸にょきにょき生える濡れ縁          硯水

    弐面

(一)  秋更けて安達ケ原を駆ける鬼女        久我 妙子

(二)    なんじゃもんじゃの毛屑飛び散り        梅子

(三)  フィアンセはシニスムにして二枚舌      矢崎 妙子

(四)    ワインに酔うてSMの龍           暁吉女

(五)  神憑り胸乳どばっと掻き出せる           硯水

(六)    催眠治療効果てきめん          久我 妙子

(七)  屏風絵の虎は夜な夜な命得て            梅子

(八)    卍の罠にはまる凍て月          矢崎 妙子

(九)  どこからか正義の味方笛を吹き          暁吉女

(十)    行った気分の幻想の旅             硯水

    参面

(一)  宇宙でも銀河鉄道民営化           久我 妙子

(二)    でかい恐竜お断りです             梅子

(三)  お菊さま余興でみせる名演技         矢崎 妙子

(四)    念力という有り難きもの           暁吉女

(五)  一丈の鳶の消えたる花の雲             硯水

(六)    置行堀に蝌蚪群れる昼          久我 妙子

*2002年6月30日起首

*2002年8月19日満尾

*河童連句会(妖怪連句bQ9)

                                         以上

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妖怪連句 『2』

幽霊の「ユー」とユーモアの「ユー」が恐る恐る

手を握る歌仙なり 名付けてユーユー歌仙なり

ユーユー歌仙「ろくろ首」の巻        矢崎硯水捌

白玉の丸飲み見ゆるろくろ首           矢崎硯水

団扇を遣ひ囃す猫又              沖津秀美

ミステリーサークルの草揺るるらん        本屋良子

ふんころがしで釣りしネッシー           硯水

柳婆月の剣をひっさげて               秀美

ぬらりひょんさん川霧に消え            良子

ウ  足駄履く足長神の在祭                硯水

香具師の売りゐる黄泉の骨董            秀美

絖絹をまとひて魔女の現はるる            良子

惚れ薬効き鼻嵐吹く                硯水

すぐにでも男やめたいだいだ坊            秀美

酒呑童子にのます乾乳               良子

月出でよでんでん太鼓虎落笛             硯水

お化け楽団はづむボーナス             秀美

幽霊の国の人口なほ増えて              良子

昼行灯の油おしまひ                硯水

花屋敷がんばり入道尻拭こか             秀美

翅をひろげて七彩の蝶               良子

ナオ 瓜子姫欺して乗せる流し雛              秀美

抜け荷に混ぜて凍結の胤              硯水

血脈はクローン一族いや栄え             良子

児啼き爺の歌ふララバイ              秀美

須弥山の滴りちょいと鼻につけ            硯水

長き髭ふり大蛇おでまし              良子

エレキテル撃って源内呵々々々々           秀美

べとべと殿の利権許さじ              硯水

筵旗たてて集へる羅生門               良子

三つくれたる金太郎飴               秀美

案山子乗せタイムマシンは煙吐いて          硯水

月の宇宙を獣さまよひ               良子

ナウ 梵論師の天の河原の芋煮会              秀美

二口女お喋りもせず                硯水

脂肪値といふ化け物を退治せん            良子

万歩計つけ龍の麦踏み               秀美

狩衣は蜀江模様花の鬼                良子

「いやみ」どろんと消ゆる春宵           硯水

・2002年8月 3日起首

・2002年8月21日満尾

・河童連句会(妖怪連句bR0号)