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歌 仙

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   「且つ酌む」の巻    矢崎硯水捌

   紅葉且つ散りて且つ酌む昼下り        矢崎 硯水

婚約も成り秋は過ぎゆき          山口 安子

ほろ酔いの己が影追う月満ちて        高山 紀子

君を失う不安抱えつ            武藤こやん

愛こめて真心込めて文書かん         山本 秀夫

避暑地に育つ思春期の恋          北野真知子

ウ  寄り添える二つの影の夏の暮         矢崎 妙子

堕ちゆく先は背徳の闇           城  依子

厩から盗み出したるサドの鞭            硯水

ワイングラスに媚薬こっそり           安子

何とまあ睦み合うてる恋敵             紀子

寒月の夜は傷を癒さん             こやん

丑紅の紅差し指を絡めつつ             秀夫

八百屋お七が焔見詰めて            真知子

瓢より手酌で美酒を注ぐとき            妙子

身重ながらに美しき妻              依子

慈しむ神在わすらん花の宮             硯水

日永詠みあう相聞の歌              安子

ナオ 壷焼に進む一献四畳半               紀子

卍巴の雑魚寝狼藉                秀夫

姫君の香りかそけく几帳から           真知子

「愛」という字の夢の掛軸            妙子

切なさはおくびに出さぬ女郎蜘蛛          依子

甘酒呑めば旅心して               硯水

祇園茶屋舞妓はんなり京言葉            安子

鳥に想いを託す川の辺              紀子

ダンボールハウスに住んで恋を知り         秀夫

車座になり回し飲みする            真知子

今宵また後家を泣かせて月まどか          妙子

名残の蚊帳のなかは深海             依子

ナウ 紅葉忌お宮の松にささかけて            硯水

寄り添い歩く背ナに新内             安子

あなた百わたしゃ九十九まで睦み          紀子

落人郷は早春の宴                秀夫

花に酔い島唄に酔い恋に酔い           真知子

山嫣然と平成の春                妙子

2005年10月13日起首

2006年1月18日満尾

インターネット作品

歌仙「冬ごもり」の巻     矢崎硯水捌

冬ごもり分福茶釜ありてこそ         矢崎 硯水

ふと耳にする木の葉散る音         冨田一青子

ローマ字で湖へのしるべ記されて       矢崎 妙子

博物館はガラス張りなる             硯水

一ト時をとどめておかん月今宵          一青子

いとど跳んではこちら窺い            妙子

ウ  山賊がお縄に掛かるそぞろ寒            硯水

懺悔をしても後の祭よ             一青子

パンドラの箱開けたまま放置され          妙子

厚底靴でよろめきのギャル            硯水

しんねりと援助交際迫られし           一青子

あしらい下手がしくじりの元           妙子

人魂の飛び火恐ろし鵺と月             硯水

赤痢・疫痢の流行る兆しが           一青子

この度のインド旅行は急ぎ足            妙子

三日つづきの曇りのち晴             硯水

天皇の花見の宴に招かれて            一青子

胡蝶の舞のいとも艶やか             妙子

ナオ 陽炎にくすぐられたる仁王尊            硯水

ふるさと遠く母のほほえみ           一青子

頬張りし金平糖のなつかしさ            妙子

初茜まで枕添いする               硯水

恥じらいてつぼみ開きし福寿草          一青子

ロボット犬のちんちんの芸            妙子

2000年解読近きヒトゲノム           硯水

とにもかくにも自然葬をと           一青子

手拭は腰に足には下駄がよし            妙子

時に著けく望の潮の香              硯水

大漁の旗を掲げて月の湾             一青子

さんざめくかにコスモスの影           妙子

ナウ マイカーの新車御祓い梯子して           硯水

素頓狂の人がいるもの             一青子

まかせてと借物奉行買って出る           妙子

酔うて覚えず春の曙               硯水

音にきく高遠城址花盛り             一青子

霞を曳いて畳なわる山              執筆

・2000年4月吉日首尾

 

歌仙「福は内」の巻     矢崎硯水捌

逃げ腰の福にたのまん福は内        矢崎 硯水

囲炉裏の薪の燃え盛る赤         高山 紀子

山並に向かひヨーデル高らかに       矢崎 妙子

ローカルテレビアングルを決め         硯水

眠らざる街を照らして渡る月           紀子

亦ひとしきり柳散りつつ            妙子

ウ  北大の名物なりし鮭博士             硯水

縁なし眼鏡鼻にのっけし            紀子

プードルはお手の声にも知らん振り        妙子

ソーラーカーの停まる聖堂           硯水

押してみて開かぬ扉は引いてみよ         紀子

浴衣・甚平恋の鞘当て             妙子

ほうたるの君は水面に月の面に          硯水

人魂となり心許なし              紀子

濡れ縁のスケッチブック走り描き         妙子

をちこちに立つモアイ像など          硯水

異文化の装具もあやに花の苑           紀子

可杯で酌み交はす春              妙子

ナオ エイプリルフールに透ける真善美         硯水

諸刃の剣といふもありける           紀子

「臨界」は利潤求めた落とし穴          妙子

ぎょろり目をむく閻魔大王           硯水

釜揚げの饂飩をちょいと盗み食ひ         紀子

軒の氷柱の折れて砕けし            妙子

図らずも湯文字がのぞく媼様           硯水

略奪婚は綿密にして              紀子

むくつけの男に化けて旅発たん          妙子

言祝ぐごとく虫の演奏             硯水

翌檜の枝に三日月くっきりと           妙子

望郷の詩を想ひ出す秋             紀子

ナウ ヘーゲルも足穂も読んで病癒え          硯水

助けてくれしアンドロイドが          妙子

喧騒に身を置いてゐる世紀末           紀子

博物館の古き鳩の巣              妙子

花弁に乗るフェアリーの飛行隊          硯水

運河に映り揺れるふらここ           紀子

・1999年10月18日首尾


    
歌仙「鰤起し」の巻       矢崎硯水捌

梓弓空音にあらぬ鰤起し            矢崎 硯水

縄の香れる雪吊の松             三神あすか

廻廊を行き交ふ人と会釈して             硯水

喉の渇きに茶房くぐらん             あすか

ゆるやかに昇る居待の趣に              硯水

斜に構へたる蟷螂の斧              あすか

ウ  刑事張ってATMを見張る秋             硯水

電光ニュースよくも次次             あすか

お地蔵と隣り合はせの遊園地             硯水

鬼だけ残り独りぼっちに             あすか

心病む身でありながら小さき旅            硯水

水鶏叩ける繊月の宿               あすか

茄子紺の闇に浸せる洗ひ髪              硯水

君憎しともあぢきなしとも            あすか

誉めそやす詞をむざと遣り過ごし           硯水

あっといふまに狐雨止み             あすか

八乙女の山を望める花堤               硯水

日永ひねもす釣天狗どち             あすか

ナオ 吉報にぴょんぴょん跳んで春の夢            同

得意の技はコイン占ひ               硯水

出た所でウエディングベルを鳴らします       あすか

仮想の閨の姫始とは                硯水

土竜打ち田畠を打ちて豊穣よ            あすか

地球ぐらりと揺れる危うさ             硯水

帆柱にしがみつきつつ遠眼鏡            あすか

ご面相では海賊の末裔               硯水

△と□かたどる駅舎あり              あすか

スローな人とスローライフと            硯水

月光ゲをワイングラスに浮かべたる         あすか

芒束ねて挿せる水甕                硯水

ナウ 風伯の鎮もるときは身に沁みて           あすか

賢治詩集の帙もほころび              硯水

瓦斯灯の時代知るのは小数派            あすか

角落としたる牡鹿けろんと             硯水

寿ぎ歌をあまた連ねて花無尽            あすか

手庇をして霞眺むる                硯水

2005年1月03日起首

2005年1月27日満尾