ちあきの星空情報    (2012年4月発行)

金環日食を見よう!  田中千秋

8千3百万人が金環食を望める!5月21日は金環日食が見られます。日本での金環日食は、前回が1987年に沖縄で見られましたので、25年ぶりといえます。しかも、今回は日本列島を横断する形で太平洋側の広域で見られますので、金環日食現象として見られる人口は、約8,300万人といわれています。次に見られるのは、18年後の2030年6月1日に北海道地域で見られる金環日食まで待たなければなりませんので、今回の金環日食は、見逃せません。

ちあきの天体写真教室 金環日食を写そう! (2012.05.07 UP)  (2012年5月21日金環日食を撮る)   田中 千秋
  

 

 


輪ゴムのような細い太陽の姿

金環日食では、太陽よりも月の方が小さく見え、太陽の前面を通過しますので、太陽の縁が見え続けます。つまり金環日食中であっても太陽の姿は月にすべて隠されるのではなく、まるで輪ゴムのように細く見えます。見られる地域は、九州南部から四国、本州にかけての太平洋側の地域で、その他の地域では部分日食を見ることになります。

下図を参照してください。着色された地域が金環日食帯です。全国で部分日食は見られるとはいうものの、どうしても金環日食が見たいという方はこの金環日食帯の地域に移動して観察する必要があります。

観察する場所は、東側の空が地平線近くまで開けた場所が良く、また、電線やその他の障害物がなく、しかもそこにとどまって観察が可能な場所を選びましょう。

河川の土手の上などに適地が見つかりそうですが、当日は多くの日食見物の方々がそうした場所に集まる可能性もあり、事前に下見をして観察に適した場所を見つけましょう。また、日食当日は早めに観測地に行き、観測場所を確保しましょう。

日食が始まる時刻は、おおむね6時過ぎで、高度角が20度くらい。最大に太陽が欠ける金環日食の高度角はおよそ35度。日食終了時刻の9時頃は高度角が50度くらいとなります。

私の初めての日食体験

今から54年前の1958年4月19日に奄美大島、トカラ列島、八丈島等で金環日食が見られました。この日食では、日本各地で大きく欠けた太陽の姿が見られ、幼かった私も日食観察デビューを果たし、記念すべき日となりました。日食の日に私はまだ年齢が4歳10か月だったのですが、この時のことをはっきり覚えています。

当日は、春の日差しの強い良いお天気で、私は自宅のある大分県庄内町(しょうないちょう:現由布市)で近所のS君とチャンバラごっこなどをして遊んでいました。

やがて、正午が近づく頃に父母が農作業から家に戻ってきて、着色された空瓶を手にして太陽を見ているではありませんか。どうしたのかと尋ねたところ、日食が見られるという返事が返ってきました。しかし、その時はまだ時間が早かったか、欠けた様子はわかりませんでした。

やがて、正午過ぎに小学校六年生の兄が帰ってきて、学校でもらってきたというガラス片にろうそくの炎をあて、煤(スス)を付着させて黒くしました。その黒いガラを使って太陽を交代で眺めたところ、欠けた太陽の姿を見ることができたのでした。

ひとしきり日食観望を行った後に昼食をとり、午後もS君と外遊びをしましたが、太陽が西に傾き始めてもまだ欠けている様子を確認でき、長い時間欠けて見えるものだなあと感心したものでした。

その夜、父親から地元の庄内神楽の「戸開(とびらき)」という演目で、天照大神が天岩戸にお隠れになった時に世界が暗くなったので、外で大騒ぎをして、その様子を見ようと天照大神が岩戸を少し開けた瞬間に天手力男命(タジカラオノミコト)が岩戸を力いっぱい開ける様子が演じられるが、あれは日食を表したものだと教えてくれました。とても印象的なできごとや話であったために繰り返し思い出し、50年以上たった今でも日食のことをしっかり記憶しています。

日食を安全に見る

金環日食の観察は強烈な光を持つ太陽を観察するわけですから、安全に見るということを心がけなければなりません。

太陽を直視すると眼に障害が出ますので、必ず専用の日食観察専用のメガネを用いましょう。

このメガネには商品名はいろいろありますが、ここでは「日食メガネ」と呼ぶことにします。

発売されている日食メガネは、単体で販売されているもののほか、書籍の付録として付いてくるものも多く、4ページ目に一部を紹介していますので参考にしてください。日食観察の際は決して眼で直接、太陽を見ないでください。また、代用品として考えられる黒い下敷きやススを付けたガラス片、写真用フィルムの切れ端、さらに写真撮影用のNDフィルターなどを使って見ると眼を痛める危険性がありますから、決してこれらのものを用いて太陽を観察してはいけません。

日食を見るときには太陽を直接見ないで日食メガネを使って安全に見ましょうと再三、申し上げているところですが、実際の金環日食の日は、はたして快晴かどうか心配になってきます。

雲が次々と太陽の前を通過していくといった気象条件の場合は特に注意が必要です。

太陽が雲間からかすかに見えるときは、たしかに太陽の姿がまぶしくありませんからそのまま裸眼で見てしまいます。

しかし、次の瞬間に雲が動きパッと太陽が輝いてまぶしくなることがあります。そのときは瞬時に太陽から眼をそらしましょう!

わすか1秒間でも太陽を直視すると、その後に視界の中に太陽の残像が見え、しばらくは他のものが見られなくなります。太陽の直視は決して行わないようにして眼を痛めないようにしましょう。

2分間以上連続して見ない

じっさいの観察では、専用の日食メガネを使って観察することをお薦めしているところですが、日食メガネを使用した場合も連続して2分間以上見ないようにしましょう。1?2分見たら、いったん休み、また日食メガネを眼の直前に付け、それから太陽の方角を向いて再び日食を観察しましょう。

家族や友人などと一緒に日食を観察する際、日食メガネが1枚しかないときは譲り合ってお互いが安全に見られるように心がけましょう。

日食メガネを使わない安全な見方

日食の最中に直接太陽を見ると危険ですから、間接的な見方で安全に見ましょう。

その方法として、手鏡法とピンホール投影法があります。ほかに、樹木の間から木漏れ日によって地面に投影された太陽の姿を見る方法がありますが、今回の日食は早朝の現象なのであまり条件が良くありません。

手鏡法では手鏡の鏡の面の上に、直径1センチくらいの丸い穴をあけた厚紙を貼りましょう。太陽像を鏡で反射させて建物の白い壁などに投影すると欠けた太陽の姿が映り、大勢の人数で見ることができます。

ピンホール投影法では、牛乳パックの空容器ふたつを貼り合わせ、上部に直径1ミリ前後の小さな穴をあけて下部に5センチ四方くらいの観察窓をあけて完成です。筒を太陽の方向に向けると底面の白い部分に太陽像が見られます。

大きなダンボール箱や賞状入れの紙筒でも作ることができます。

こうした投影法では直接太陽を見るのではなく、投影された太陽像を見ることによって安全に日食を観察することができます。

天体望遠鏡で見る場合の注意点など

天体望遠鏡では対物レンズ前面に専用の特殊フィルターを付けることによって太陽を覗いて見ることができます。

しかし、専用の特殊フィルターを付けないで太陽を覗くと失明の恐れがあります。

決して直接太陽を見てはいけません。

大勢の人が一度に見るためには投影法が安全で効率的ですから投影法での観望をお奨めします。