<癌性リンパ管症について>

 肺は、空気中から酸素を血液に取り込む大切な仕事をしています。肺には3億個ともいわれる肺胞が隅から隅までつまっています。肺胞は左の図のようになっていて、薄い膜(まく)をへだてて、空気と血管が非常に近い位置にあります。
 血液は、心臓から動脈を通って全身に送り出され、静脈を通って戻ってきます。動脈から送り出されるときには酸素をいっぱい含んだ赤い血液です。静脈を戻ってくるときには酸素が使われて、くすんだ色になっています(図では水色)。
 次に血液は肺に送られていきます。肺の血管はどんどん細かく枝分かれして、3億個の肺胞のまわりにある血管になります。そこで肺胞の中にある酸素を取り込んで、赤い血液に戻ります。
 心臓から全身には1分間に5リットルぐらいの血液が送り出されます。静脈を戻ってくる血液も同じ量です。そして、心臓から肺に送られていく血液も、やはり1分間に5リットルです。これだけの血液が細かい肺胞のまわりに、ごく薄い肺胞膜を隔てただけで流れているのです。血管の中を流れる水分は、じわじわと肺胞の中にしみ出してきます。もともと肺は非常に水びたしになりやすい臓器なのです。
 肺が水びたしにならないように、肺には血管に沿ってリンパ管という排水管の役割をする管が、すみずみまで張りめぐらされています。リンパ管は川の流れと同じように集まってどんどん太い流れになり、最終的にはさらに太いリンパ管に合流します(左側は腹部からきたリンパ管、右側は右上半身全体のリンパ管)。このリンパ管を使って、肺の水分を強力に排水しているため、肺は水びたしにならないのです。

 ところが、何かの原因でこのリンパ管がうまく通らなくなることがあります。すると、肺は急速に水びたしになります。肺が水びたしになると、肺胞の中に空気が入れず、そのため酸素が身体に取り込めず、苦しい状況になります。
 この状態を「癌性リンパ管症」といいます。
 癌性リンパ管症になる原因は、肺の細かいリンパ管やリンパ節(リンパ管の途中にあって、関所のような役割をしているところ)にがん細胞が詰まってしまう場合、もっと下流のリンパ節にがんの転移があって、全体が流れなくなってしまう場合などがあります。
 癌性リンパ管症は、病状が急速に進むこと、かなり苦しいこと、基本的に元に戻せない変化であることなどの、良くない特徴がたくさんあります。肺が水っぽくならないようにするハイスコ(臭化水素酸スコポラミン)投与、リンパ管の流れを良くするステロイド剤の投与、身体全体の水分を減らすために点滴の減量や中止などがおこなわれますが、病状の進行に追いつけない場合が多く、対症療法(症状を抑えて身体を楽にする治療)を合わせておこなう必要があります。
 対症療法には、酸素投与(通常、癌性リンパ管症には、かなり大量の酸素が必要です)、息苦しさをやわらげるためのモルヒネなどの薬、それでもどうしようもなく苦しいときの、意識を落とすための鎮静剤などがあります。それまでに比べて、呼吸で入ってくる酸素がかなり少なくなるので、最大限楽になるようにしても、見た目がハアハアして苦しそうに見えることもあります。しかし、呼吸はハアハアしているように見えても、苦しそうでなく穏やかな表情をしていれば、最大限楽になっていると判断できます。その状態を目指して、細かく薬や酸素を調節しながら、できるだけのことをやっていきます。
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