「腹水」は、お腹の中に貯まった水分のことです。 <どこに貯まるのか> 腹水はお腹の中に貯まります。 |
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<なぜ貯まるのか> できる腹水より吸収される腹水が少ないと腹水が貯まってくるわけです。その理由はいくつかありますが、吸収が少ない場合と、できる量が多い場合、流れが妨げられている場合に分けて説明します。 1)吸収が少ない場合 吸収が少なくなる原因で一番多いのは、血液の中のタンパク質が少ないことです。血液の中には「アルブミン」というタンパク質があり、血管の中に水分を保ったり、水分を血管の中に引き込む働きをしています。アルブミンが少なくなると、一度血管の外に出た水分(腹水やむくみなど)を血管に引き戻す力が足りなくなり、腹水が少しずつ増えてきます。 アルブミンを作っているのは肝臓です。そのため、肝臓の力が弱くなると、腹水が増えやすくなります。 2)できる量が多い場合 できる量が多くなるのは、腹膜の状態に異常が起きている場合が多いです。細菌などの炎症があるとか、ただれているとか、腹膜に病気が広がっているなどの場合です。 3)流れが妨げられている場合 腹水は腹膜から吸収されて、血管やリンパ管を通って血液の水分に戻ります。この排水の仕組みのどこかで流れが妨げられると、腹膜に異常がなくても吸収できなくなります。流れが妨げられる原因には、肝臓のあたりの血管に原因がある場合、心臓に原因がある場合、リンパ管に原因がある場合などがあります。 <治療> 腹水の治療は、原因や症状によりさまざまです。 原因が取り除ける場合(細菌の感染など)には、原因の治療を行います。そうでない場合は、腹水で苦しくならないように、いくつかの治療がおこなわれます。 もっとも多く治療に使われるのは、利尿剤です。利尿剤というのは、尿を多くする薬です。血液の中の水分を尿に出すことで血液のアルブミンなどを濃くして、腹水の水分がより多く血管の中に戻ってくるように働きます。 利尿剤を使っても腹水が増えてくる場合には、腹壁を刺して直接腹水を抜く(腹腔穿刺―ふくくうせんし)治療をします。以前は「腹水はできるだけ抜かない方がいい」と言われ続けていましたが、米国を中心とした多くの大規模比較試験(信頼できる結果が得られる調査方法)で、利尿剤よりも腹腔穿刺の方が、安全かつ確実に腹水による症状を楽にするという結果が出ています。それらの報告を受けて2000年頃に米国で出されたまとめでは、「腹水をできるだけ抜かずに我慢した場合と、苦しくなる前に抜いた場合を比較すると、抜いた方が命の長さもQOL(生活の質)も良くなった」とされています。 腹水を大量に抜いたあとは、腹水が抜けたことで血管から腹水側に水分が移動しやすくなります。急激に移動すると、血管の中の水分が足りなくなって、脱水状態になります。これを防ぐためには、抜く腹水の量1リットルあたり6〜10グラムのアルブミンを点滴で補充することが有効といわれています。 腹水の貯まる原因ががんの場合には、腹腔内(腹膜の袋の中)に抗がん剤を入れる治療が、腹水を減らすのに効果があることがあります。1回の治療で貯まらなくなる人は多くありませんが、数回繰り返すと貯まらなくなることが多いと報告されています。 <その他の説明> 「腹水が貯まったらおしまい」とよく聞くが? →腹水は上に書いたように、さまざまな原因で貯まります。大量の腹水を貯まったままにしておくと苦しく食事もとれないので体力がどんどん落ちますが、苦しくならないようにできれば、腹水によって命が終わることはまずありません。大量の腹水をしょっちゅう抜きながら、半年以上元気で過ごした人もいます。貯まる原因によっても違いますが、腹水が貯まったらおしまいと短絡的に考える必要はありません。 「腹水が貯まるなんて、私だけなのでは?」 →腹水が貯まる人は珍しくありません。調査によって幅はありますが、たとえばがん患者であれば全体の15〜50パーセントの人に腹水が見られると報告されています。あまり人に言いふらしたりしないので気がつかないだけで、腹水が貯まる人はたくさんいるのです。 |