<「奇跡のキノコ」アガリクスの正体>


月刊誌「新潮45」2004年6月号に載っていた記事の要約です。
「奇蹟のキノコ」アガリクスの正体  鳥集徹
「癌に効いた!」「医師から見放されたのに治った!」
……美辞麗句に彩られ、350億円市場にまで成長したアガリクスビジネスの呆れた実態。
アガリクスに殺される!
 アガリクス以外の要因がほぼ否定された劇症肝炎の報告が、結構出ている。本文には1例のアレルギーによると思われる神戸の劇症肝炎と、3例の国立がんセンター中央病院による劇症肝炎死亡症例が掲載されているが、実際の患者数は(原疾患による肝機能増悪もあるため)把握されていない。
 厚生労働省の調査によると、2002年度の発表で年間約72万人がアガリクスを服用しているだろうと推計されている。がんと診断されている人の4人に1人が服用している計算になる。そのうちの数人であれば、そばアレルギー以下の確率かもしれないが、きちんと調べたデータはどこにもない。  リスクよりベネフィットがはるかに上回るのであれば、そのリスクは容認される。ベネフィットがどれだけあるのかは、きちんと検証されるべきだ。

捏造されたデータ
 アガリクス(Agaricus)というのは、ハラタケ属のキノコの総称。通常がんに効くとされているのは、Agaricus Blazei Murillという種。和名はヒメマツタケ、カワリハラタケ。ブラジルに自生している。
 三重大学農学部教授だった故・岩出亥之助教授が栽培に成功。食用として世に出したが日持ちせず、すぐに市場から消えた。ところが、三重大学医学部助教授だった伊藤均氏が、サルコーマ180という実験用固形腫瘍を移植したマウスにヒメマツタケ(アガリクス)を投与し高い腫瘍抑制率が得られたと報告し、岩出・伊藤共著で「奇跡の姫マツタケ・癌を征服する、キノコ療法」(82年、地球社)を出版。
 「アガリクス」と名前を変えたヒメマツタケが注目されるようになったのは、96年に静岡大学名誉教授の故・水野卓氏が「食べて治す『がん』の特効食 発ガン・再発をおさえる“β−グルカン”の秘密」(青春出版社)を出版し、「おもいっきりテレビ」などに出演してから。その本では、これもマウスの実験で、全治率90.0%、腫瘍阻止率99.4%と書かれ、国立がんセンター研究所や東京大学医学部がその研究を実施したことになっている。しかし実際に実験を行ったのは三重大学で、腫瘍阻止率は実際には93.6%であった。ちなみにその実験ではシイタケでも全治率54.5%、腫瘍阻止率80.7%という好成績が出ている。データが捏造であるため、裁判によりこのデータを使わないようにという命令が出たが、例えば協和アガリクス茸を宣伝するパンフレットでも引用され続けた。実際には、77年以降アガリクスの抗がん効果に関する研究で、めざましい成果を出しているものはほとんどない。仕掛人の水野卓氏は、00年に胃がんで死亡した。
 日本で発行されているアガリクス宣伝本には「レーガン大統領が皮膚がんをアガリクスで完治させた」という記述があるが、全くの作り話であるらしい。権威ある論文では、世界中を探してもアガリクスががんに効くという報告は発見できない。

人間のがんには効果なし
 大阪府立成人病センター消化器外科と兵庫医科大学家族性腫瘍部門に属する医師のグループが、03年9月の日本癌学会で発表した比較対照試験では、アガリクスを服用した群としなかった群では有意差は見られなかった(経過観察期間は2年)。
 「抗がん剤の副作用が軽くなった」というのもアガリクスの宣伝文句だが、これに関しても根拠を示した論文はなく、制吐剤の進歩や「抗がん剤は吐くもの」という意識から、副作用を経験しなかったことが「アガリスクの効果」と思い込まされているだけかもしれない。

タイアップ出版はお金製造機
 アガリクスが「がんに効く」と思われているのは、新聞や雑誌の広告によるところが大きい。これらはすべて、書籍の広告である。このような本を「バイブル本」と呼ぶ。健康食品会社などの「販促ツール」である。
 健康食品の効果・効能を謳うと、薬事法に抵触する。そこで抜け道として本の宣伝の形を取っている。最近ではアガリクスだけでなく、メシマコブ、キチン・キトサン、フコイダンなどのバイブル本も多数出版されている。その本に挟まれている紙片に書いてある電話番号に電話をすると、その健康食品が注文できる。(平方註:正当な治療の機会を逃すような誘導をする本や、特定のものを買わせようという本は、健康増進法に引っかかるようになった。そのため、以前は本の中に書かれていた連絡先が、本に挟んだ紙片に書かれるようになった)試しに電話をしてみると、一ヶ月8〜15万円の健康食品を薦められた。
 バイブル本の出版は「タイアップ出版」とも呼ばれ、健康食品会社とバイブル本出版社の両方に大きな利益がもたらされる仕組み。バイブル本を多く出している史輝出版とその関連会社(瀬川博美代表取締役)は、年商20億円だそうである。瀬川氏は02年9月、2億9000万円の脱税で告発・起訴され、執行猶予付きの有罪判決を受けている。(ページ作者註:史輝出版の他に、青山書籍とライブ出版という会社も実質的に瀬川氏の会社であり、タイアップ出版以外の本は出していない。この他にも怪しい出版社はいくつもある。2004年8月には厚生労働省から出版業界の主な団体に対して、「このような本は機能性食品の販売促進のための誇大広告の疑いがあるので慎重に取り扱うように」という異例の通告が出されている。また、その後健康食品会社と出版社の逮捕が相次いでいる。)

バイブル本の怪しい面々
 著者や監修者にも怪しい人物が少なくない。
河木成一氏:お金を出せば学位が取れる「学位ビジネス」で有名な大学名が経歴に。
      アガリクス、乳酸菌、塩、キチン・キトサンなどの本を出版している。
景世兵氏:1億4000万の脱税容疑で起訴。

カモにされるがん患者
 アガリクスの市場規模は、02年度で350億円。健康食品全体の市場規模は、03年度で6,521億円と推定されている。代替療法を利用しているがん患者が、健康食品などに使っている費用は月平均5万7000円。ねずみ講(最近はネットワークビジネスと呼ばれる)の題材にもなっているらしい。

「大学教授」のデタラメ治療
 近畿大学腫瘍免疫等研究所の八木田旭邦教授(現在は退職)が提唱した「新免疫療法」は健康食品を組み合わせたものだが、患者を集めるために示されていたデータは全くのデタラメだった。奏効率54%と謳われていたが、実際には「せいぜい1〜2%あるかないか」(八木田氏が開業している「オリエント三鷹クリニック」に勤務していた医師の談話)。しかも、その健康食品は八木田氏の妻が経営する(株)東西医薬研究所から購入する仕組みになっている。

 患者や家族の「ワラにもすがりたい」気持ちにつけ込んで、儲けようという連中がウヨウヨいるのが現状である。代替療法のエビデンスをはっきりさせようという動きもあり、結構なことではあるが、まずは代替療法家や健康食品業者の倫理を厳しく問い、悪質な儲け主義者を公表して駆逐してもらいたい。
 肩書きで信用させて、「がんに効く」「万病を治せる」といっても、それは仮説にすぎない。がん患者、特に残り少ない大切な一瞬一瞬を慈しみながら生きている末期がん患者から、あの手この手で金を毟り取ろうとするやり方は許せない。


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