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2001年ノーベル化学賞

 名古屋大の野依良治教授が、今年のノーベル化学賞を受賞される事が決まったそうです。不斉合成の研究だそうです。

 よく中学や高校の化学で、炭素原子というのは4つの「継ぎ手」を持っている、というような説明がなされます。もちろんこれはモデルとして間違ってはいないのですが、より正確には下の図のように、4つの「継ぎ手」(共有結合による電子軌道)は、空間的にお互いに4つが最も離れるように配置されます。つまり、炭素原子を中心に、四面体の構造になります。

炭素原子を中心とした立体構造

 炭素原子につながっている4つのがみんな同じものならば、完全な正四面体になります。例えば、一番簡単な例ならばメタン(CH4)がそうです。 ところが、4つの基がみんな違っていたらどうなるかというと、上の図のように、自分とは重ならない鏡像体が出来てしまうのです。これは右手と左手のように、空間的に対称なのだけれども決して重ならないのです。このように、4つの基が全部異なるものがつながっている炭素原子を、不斉炭素などと呼びます。

 人間をはじめとする生き物の身体を作っている材料であるタンパク質、これはすべて高々20個程度のアミノ酸を1列につないで作られています。(この、アミノ酸をどういう順番でつなげばいいか、ということが遺伝子に書かれているのです。)アミノ酸というのはどんなものかというと、炭素原子に -COOH, -NH2, -Hの3つと、あともう1つなにかの基がついているものです。というわけでほとんどのアミノ酸は4つの基が全部異なるため、不斉炭素を持っています。ということは、おなじ分子であっても「左型」「右型」が存在するということなのです。

 たとえば、誰かと握手をするとき、右手同士(または左手同士)でないとうまく握手できません。私は左利きなので、小さい頃よく左手を出してしまって困ったものでした。不斉炭素原子をもっている化合物同士の反応というのは、この握手の例のように、同じ分子であっても右手型か左手型かによって反応性が全く異なります。

 いま、この地球上の生物の身体を作っているアミノ酸は、すべて「左手型」です。ですからお互いに食べて栄養になる、つまり自分の身体を作る材料として使えるのです。ここに「右手型」のアミノ酸がやってきても、ちょうど右手と左手では握手できないのと同じで、うまく反応できないのです。

 さて、今回のノーベル賞を受賞された研究というのは、この「右手型」「左手型」を持っているような分子のうち、片方だけを合成する方法についての研究だそうです。単純に従来通り原料を混ぜるだけだと、「右手型」と「左手型」はほぼ半々に合成されてしまいます。これを分けるのは大変です。 そうではなく、最初から片方だけを狙って作れるようになった、というのがたいへんすばらしいのです。

 なぜ地球上の生物のアミノ酸が、左右半々ではなくて片方しか使われていないのか、これはとても不思議です。最初は両方のタイプの生き物がいたのだけれども、材料(餌)の多いタイプだけが生き残ったのか、それとも地球の生命の源は他の天体からもたらされたのか・・・

 ホーキング博士だったかが、以下のようなことをどこかで書かれていました。「この宇宙には少なくとも200万の地球のような惑星が存在しているが、誰も宇宙人や宇宙船を見たことがないのは、宇宙船を作れるようなレベルに達した文明は、その後加速度的に消滅する。」 消滅させたくないですね。

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2001.10.10 hhase