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ウソ発見器

 「ウソ発見器」という機械をご存知でしょうか? なんとなく本やテレビドラマや映画などで知っているような気がするのですが、でもよく考えてみると実は本物を見たことはないし、ましてや使った事も使われた事もありません。そういう方は多いのではないかと思います。

 ウソ発見器には原理的にいくつかの方式があります。古典的なのが発汗現象を利用したもので、心理状態の変化に応じて汗が出ることを検出することによって、ウソを見破ろうというものです。汗だけでなく、心拍や呼吸、血圧なども同時に測定するのだそうです。普通、ウソ発見器というと皆さんだいたいこのタイプのものを思い浮かべるのではないかと思います。

 発汗だとか心拍・血圧といった現象は、本来、意識して直接コントロールすることができないものです。(こういう現象をコントロールしているのが自律神経系と呼ばれるものです。) ウソをつく、というのは普通はある程度心理的なストレスになりますので、その結果汗が出たり血圧が上がったりするのだそうです。

 ただ、この方法には原理的にいくつかの問題があります。1つは測定結果の解釈が難しいということ、もう1つは上記のような古典的なウソ発見器をだます方法がいろいろあることです。

 1つ目の測定結果の解釈に関しては、たとえばこんな実験があるそうです。何人かの“ウソ発見器オペレータ”に窃盗犯探しをしてもらいました。ただしそれぞれのオペレータに、別々の捜査情報を渡しておいたのだそうです。オペレータAさんには1番の被験者が怪しい、オペレータBさんには2番の被験者が怪しい、というように。 その結果、それぞれのオペレータは、見事に自分が事前に「最も怪しい」と教わった被験者こそがウソをついている、という答えを出したのだそうです。

 ところが、この実験は実はウソ発見器の信頼性をテストするための実験だったのです。真犯人は別におり、ウソ発見器の被験者の中には誰も犯人はいなかったのです。測定結果の解釈というのは非常に微妙で、だからこそウソ発見器の結果は法廷では参考程度で、証拠能力がないと言われます。

 2つ目のウソ発見器をだます話ですが、発汗とか心拍・血圧といったものは、ちょっと訓練すると、間接的にですがある程度コントロールできるようになってしまうのです。 

 最近、こういった古典的なウソ発見器ではなく、脳の活動を測定する新しいタイプのウソ発見器が出てきたのだそうです。 脳の中に、海馬(かいば)という部位があります。脳が何かを覚える、「記憶」に関る重要な役割を果たしている器官なのだそうです。ここ十数年くらい脳の研究というのが盛んに行われるようになりましたが、その中でも特に熱心に研究されているようです。 新しいウソ発見器は、この海馬の活動を調べることによって、被験者が「知っている」か「知らない」かを判断するのだそうです。

 人間の記憶には「短期記憶」と「長期記憶」というのがあります。例えば電話番号のような規則性のない数字の羅列、あれは普通の人だと1回聞いただけですぐ復唱できます。例えば 30415782119 なんて言われれば、とりあえずオウム返しはできると思います。これが短期記憶です。 とある実験によると、数字の羅列ならば普通の人は平均で17個くらいまでは復唱できるんだそうです。

 ところがこのデタラメな数字の並び、1回聴いただけでメモもとらずに翌日に復唱しろと言われても、普通は無理です。繰り返し復唱したり、何度も見たり書いたりして初めて覚えられます。 (それでもなかなか覚えられない私。) 実はこれが短期記憶から長期記憶への移行作業で、ここで重要な役割を果たしているのが海馬だと言われています。

 また、海馬は長期記憶から何かを思い出すときや、長期記憶に照合するときにも活発に活動するそうです。海馬の活動を調べることによるウソ発見器というのは、この「長期記憶への照合」の時の海馬の活動を見ているのだそうです。

 この新しいウソ発見器では、被験者と会話をするという必要がありません。例えば犯罪の例ならば、犯人ならば記憶にあるであろう現場の写真や被害者の写真を見せます。もしも被験者がその写真に写っているものに記憶があれば、海馬が活動します。 見たことのないものであれば記憶にないので、海馬は活動しません。 これは、発汗や血圧などに比べて、被験者にははるかにコントロールしにくい現象です。さらに、従来のウソ発見器のように、オペレータの会話のスキルも必要ないですし、解釈も簡単です。

 ・・・と、なんだかとっても説得力のある説明なのですが、でもいろいろ疑問が湧きました。例えば、意識の力で長期記憶へのアクセスをコントロールできないものなんでしょうか? 何か他のことをずっと考えていたり、ひたすら何かを思い出していたり、あるいは目の焦点を意図的にずらしていたりとかしたらどうでしょう?

 あるいは、無意識下に沈んでいる記憶も、この方法で調べることができるんでしょうか? また、記憶はしばしば美化されたり無意識に修正されたりして、記憶しているものと実際のものとでは違っている、ということがよくあります。そんな時はどうなるんでしょう?

どなたかご存知でしたら教えてください。


 付 記

 しばらく前に、音声を利用したウソ発見器が発売されました。タカラという玩具メーカーが輸入して発売している製品で、ハンディトラスターというのがあります。これは、音声を分析することによって、話している内容の真偽の判定と、ストレス度を表示してくれるんだそうです。 これは正直言って、パーティグッズといったレベルの使い道を想定しているのではないかと思います。

 Webの検索エンジンで「ウソ発見器」を検索してみると、実に多くのページが挙がってきます。読んでみるとなかなか楽しいです。

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2001.09.19 hhase