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覆水盆に返らず

 「聖徳太子ゲーム」というパーティゲームをご存知でしょうか。いくつかバリエーションがあるようですが、基本的には次のようにして遊ぶゲームです。

  1. 聖徳太子の役目の人とその他大勢とに別れる。
  2. その他大勢の側が一斉に違う言葉を叫ぶ。
  3. 聖徳太子側は、それをできるだけたくさん聞き分ける。
叫ぶ言葉は「果物」とか「樹木」とかテーマを決めることが多いようです。また聖徳太子の役の人は複数いて、当てられた数を競うなどのやり方があるそうです。これはもちろん、聖徳太子が同時に10人の人の話を聞き分けて適切に返事をしたという故事に基づくあそびです。

 昔、国語の教科書だったかテストだったかでこんな文章を読んだことがあります。

 私達は電車の中のようなとても雑音の多いうるさい場所でも会話をすることができる。ところがその会話を録音しておいて音だけを聴くと、会話が非常に聞き取りにくいのに驚く。実際に会話をしているときには相手の表情やしぐさなど、音以外の情報も利用していたり、聞こえない部分を自然に想像して補っているために会話が成立するのである。
 要旨としてはだいたいこんな感じだったと思います。

 先日、音と声に関するちょっとした講演を聴く機会がありました。いったん混ざってしまった声と雑音を分けることはとても難しいこと、さらに、複数の人の声が混ざってしまったものを分けるのはもっと難しいこと、でも、ある方法を用いると混ざった音をずいぶんきれいに分けることができること、といった内容でした。

 そこで聴かせてもらったデモンストレーションでは、まず3人が同時に同じ位の音量でしゃべっている例を聴いて、そのあとでそれぞれの人の声だけが強調されて聞き取りやすくなった「分離後の音声」を聴かせてもらいました。なるほどとてもきれいに分けられていて感心しました。

 混ぜてしまったものを再び分ける、というのは通常とても大変なことが多いです。混ざったものを分けるには、混ぜられたそれぞれものものの性質の違いをなんとか利用して分けます。例えば身近な例なら、塩水を塩と水に分けるのに水を蒸発させる、なんていうのもそうです。で、一般には混ざったものより分けられたもののほうが価値が高いわけです。

 音の世界でも、必要な、注目している音だけを取り出すことができたらいろいろ面白いことができます。

 ちなみに、この「雑音や喧騒の中から自分が注目する、聞きたい音だけを聞くことができる人間の能力」のことを「カクテルパーティ効果」と呼びます。これと似ているのですが、同時に発話された複数の音声を全て理解することを「聖徳太子効果」と言います。なんで人間がこんなことができるのか、実はまだわかっていません。

 「覆水盆に返らず」と言いますが、混ざってしまって分けようがないと思われるものでも、分ける方法がある場合もある、という話でした。

p.s. 今現在行われている方法は、基本的には「最大エントロピー法」と言って、「混ざっているものが3つだというなら、それぞれの音として一番ありそうなのはこれだろう」という計算をするという数学的な手法です。(この説明じゃわけがわかりませんね、すみません。)



追記:実は「聖徳太子ゲーム問題集」と題して、複数の単語を同時に発話しているサウンドデータを作ってみようかと思ったのですが、問題としてかなり難しくなってしまうのです。聞いてみたい方、いらしたらご連絡下さい。

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2001.03.30 hhase