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生活の記録

 ロバート・ハインライン というSF作家がいます。この作家の有名な作品に「愛に時間を」というとても長い小説があるのですが、 その中に、主人公が病院のベッド寝ているだけで、特に本人に意識させずにその姿勢はもちろん心拍や呼吸、 体温等の医学的なデータ、さらには皮膚や骨格の治療歴のような情報までもがモニターできてしまう、 という場面が出て来て印象的でした。

 今日、とある大学の研究室の講演会を聞く機会があったのですが、 その研究室が まさにそういった研究をやっておりました。ベッドの上に数百個の圧力センサ を並べて、そのセンサの信号を調べると脈拍やら呼吸、姿勢、さらに眠っているか 起きているかなどがかなりの精度でわかるんだそうです。

 もちろんこういったデータを扱うにあたっては、プライバシーをどのように守るかが大変重要ですが、 とはいえこんなことが技術的に可能になってきたんだなーと感心しました。

 おもしろかったので、休憩時間に発表者の学生さんのところへいって、何が 大変でしたか、ときいてみました。私は「センサの精度」とか「計算機の計算量」 とか「センサの数」とか「人間の大きさ・重さの数値化」といった答えを予測して いたのですが、返ってきた答えは私の予想外のものでした。

 「難しいのは布団です。布団の力学モデルが作れないのです。」ということ なのだそうです。寝具には様々な材質のものがあって、それぞれが重さや堅さ、 振る舞いが異なるため、布団をかけていると正確に測定するのが難しいのだ そうです。

 そうか! じゃあ布団をかけなければいいんだ! というわけにはいかないので、 布団の力学モデル・数式モデルを作ればいいということになるわけですが、これが 非常に難しいそうです。工学の世界でも、建築材料のようなものの物性はよく調べられて いるのだそうですが(そりゃあそうでしょう)、布団を調べても研究成果をアピール しにくいんでしょうか。

 ここをご覧の皆様、布団は新しい研究対象です。古くから身の回りにあるにも かかわらず、その力学的挙動が解明されていない布団。研究の成功の暁には、 「世界初の布団博士」の称号が待っています。また研究の間は様々な品質・材質の 布団に囲まれて過ごす・・・。

 なんかタイトルと離れてしまいましたが、どなたかこの道を目指してみませんか?


付記

 布団メーカーでは、日夜研究がなされていることと思います。ただ、その観点が 材質や重さ、保温能力や吸湿性といったものになるのだと想像しています。これは 布団というものの機能を研究するもので、どのような布団がよい布団かという たいへんまっとうな研究です。

 それに対して今回の話は「力学モデル」を作成するという話です。布団を どさっと落としたときにそれがどんな形になるか、とか、ふとんにしわが寄ったら どこにどんな重さがかかるか、とかを正確に予測しよう、という研究になります。 「そんなことがわかって何になるんだ!」というご意見もあろうかとは思いますが、 「面白いから」というのが私の考えです。


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2001.03.12 hhase