〜 蚕は環境に敏感 〜

蚕の飼育現場から知った日常の陰のお話です。




80歳を超えた千葉の養蚕農家のお爺さんはとても良い繭を作る方で、製糸業からの信頼もとても厚く「この人の繭なら間違いない」というほど。


そんなお爺さんの作る繭がある年に突然ほぼ汚繭判定となった。


蚕は糸までは順調に吐いたのだがその後の様子がなんかおかしい、、とお爺さん自身も困っておられた。

製糸所では汚繭でも引き取ることにしたが、届いたその繭の大きな袋を持つと異常に軽かった。


蛹は繭の中ですべて腐り、乾いていた。



何が起きたのか分からず蚕糸業界でも疑問に思い調査をした。

次第に考えられる原因は桑に与えた肥料ではないのか、ということになった。



その年お爺さんは桑の肥料を蚕専用のものから( これじゃないとダメというわけではない )有機肥料に変えた。

養蚕農家の労賃はとてもつましく、けれど専用のものの値段というのはとても高い。

桑の肥料は野菜に使っている有機肥料に代替えした。



その有機肥料を調べていくと家畜の糞尿等を発酵させ堆肥を作っていた。

その過程ではウジが大量に湧き後にハエとなるのだが、これが堆肥を作る側の衛生課題だった。

だからウジがハエにならないように薬品を混ぜることにした。

これでハエはいなくなり有機肥料は完成した。



その有機肥料で育った立派な桑。

そしてその青い葉を食べた蚕はハエと同じく羽化できなかった。

この蚕の死に方は福島の養蚕農家からも同様の報告があり調べたところ同じ系統の有機肥料を使用していたという。

すぐに使わないよう指示を出したけれどお爺さんの蚕は翌年も大量に死に土は戻らず、後に養蚕をやめられた。





同様の話をもう一つ。




「蚕は農薬にとても弱い。というかとても繊細な生き物ですぐ病気にかかり死んでしまうから人には分からない異変もよく分かる。」

研究所の職員の人との会話。


5年くらい前に突然飼育している蚕に異変が起きた。

繭から幼虫のまま出てきてしまう。

成虫(蛾)にならず、頭には脱皮した皮をつけたままのものも多数いる。

その皮をはがしてみたら頭は成虫という奇形だった。



調べたところ近隣にはない遠い果樹園で散布した農薬が風に運ばれてきていた。

その農薬のかかった桑とかかっていない桑を別々の箱に入れ、蚕を飼育し調べた。

結果、その部屋自体に薬効が蔓延し汚染されどちらも死んでしまった。



すぐさま薬品会社へ抗議をいれ会社側はその商品を取り下げた。

その薬品は哺乳類には影響が出ないことが証明されているという安全を謳っていた。

ヒトには無害なのでそういう農薬はおそらくいい加減でもの凄く高濃度なのだろう、という。








たしかにね。 小箱に収まるほどの葉でその部屋の飼育蚕が死ぬ威力ですから。

これがヒトだったら大惨事なんだけどね。


人間の寿命が300年くらいあったらこんな乱暴なことはしなかったかもしれない。


寿命が1000年あったら絶対にしないだろう。




狂言に虫の声や自然を愛でる感性を軸に明暗する立場のシテ、アドが織り成す憂愁、「月見座頭」があり観に行った。

人の心の暗いところをえぐる笑えない珍しい演目だけど、互いが月や虫の声を楽しみに出かける場面はしみじみと美しさに溢れとても感動的だった。





 クッサメ、クッサメ。