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公演レビュー

ここは、私、木口による公演レビューを掲載します。
松本藝術劇場

日本の神話「かごめシリーズ」第3弾

「人間惑星」
〜とり残された少年の複雑な胸中〜

1997年2月9日(日) 13:00

あがたの森講堂

 さわやかな日曜日。ぽかぽか日よりの中、久しぶりに松本へ出かける。大胆無敵の三井君が出演するというので、それも注目。
 遅刻したが、予想通りの15分押し。客入れに従い、桟敷のかぶりつきに座る。先に到着していた史樹が「いつも、ぎりきりなんですね。」と戒める。ま、固い事言うなって。パンフに目を通すと、三井君、タンスの役。さしずめ、彼は劇中ずっとタンスなんだろう。これも予想通り。
 さて、何が悲しいって、少年。話し相手がタンス、全自動洗濯機および棺桶(自分の入っていた(いる))だけなんだよ。周りの人間はみんな出っていっちまうし。これは、辛い。ストイックなまでに動かない役者。黒子のコミカルな踊り。そのコントラストが悲しさを倍増させる。が、かっこいい。血生臭い雰囲気の中にも、私は、少年の正義感そしてダンディズムを感じた。
 作者の頭の中のイメージを見事に具現化して我々に見せてくれた。その手法に感服。ラスト。全ての舞台が空白になり、降り積もる雪(ちり、あるいは、かけら?)の中、少年は幸福感に満ちて我々に背を向ける。なんと、さわやかなシーンだったことだろう。私は晴れ晴れとした気分で小屋を出た。
 それにしても、だらしのないのは観客だ。「寒い、ケツが痛い、腰が痛い」。ぶつぶつ言わない!芝居を見る前に体力を、そしてそれなりの覚悟をして来るってのが礼儀ってもんですぜ。
 前身の劇団パンチ、旗揚げ公演以来の観劇でした。そして、松本藝術劇場は、南に旅立つそうです。ご健勝をお祈りいたします。


劇団JACK IN THE BOX VOL7

「二つ折りのラブレター」

1996年2月24日(土) 18:30

岡谷カノラホール 小ホール

 ホスピスと聞いて、誰しもまず思い出すのは小泉今日子の映画「病院へ行こう2」であるに違いない。と、いうことにしておこう。人妻キョン2もまあまあかわゆい。しかし、それ以上にキュートな女の子が、しかも自分のすぐ目の前で癌に冒されたとあっては、30過ぎのおじさんも黙ってはいられない。こうなったら何とかして助けてあげたいと思うし、思えない者はどこか屈折している自分を反省しなさい。仕事に疲れ、家事に疲れ、ついつい他人に八つ当たりしたくなるような日常を過ごす観客が、さあここまで感情移入できればつかみはオッケー。役者がピュアだ。それ故、重くなりがちなテーマをすんなり受け入れられる用意が整った。

 設定が良い。3人姉妹の絶妙な会話。姉と妹の歯切れの良いコンビ。この辺の駒の置き方が心憎い。台詞が自然で、しかも発声ができているので見ていて飽きない。人間くさい日本的な湿っぽさがなく、人物の叙情が淡泊にさらりと描かれていて、これがお手本というような見事な構成が光っている。少しばかり母親の役目が臭かったが、ま、矢崎さんなら許してあげよう。

 役者が良い。ホスピスの医者。最初「へたうまか?」と油断させておき、核心部分をグサッと差し込むような台詞。不意をつかれて心にしみるぜ。彼はこの芝居の後、修行の(なんの?)旅に出るそうだ。どうかこのキャラを見失わない程度の良い経験を積んで帰ってきて欲しい。謎のキャディーさんの登場は、なぜかコスチュームが普通のゴルフウェアーなのだが、これはお約束で大いに笑わせてもらった。彼女にはこの路線で突っ走ってもらいたい。看護婦がかわいい。バニーちゃんの看護婦はちょっと罪だぜ。

 さて、話は進み、やはり出てきたか。「延命策こそが医学」とするいわば悪役の医者。ややや、ついに重たいテーマが出現か。身構える観客。直球勝負の演出は、ちょっとばかり正論同士のぶつかりあいになっちゃって、考え方の異なる医者同士のかみ合わない議論へのイライラは、少し辛かったかな。でも、こうした題材を扱う限りこのあたりの葛藤は避けて通るわけにはいかなかったのかもしれないですよね。実は、この時の僕の期待は、出てきてしまったこの医者にどうやって引っ込みをつかせるのかという一点だったのだ。で、それはどうなったかというと、驚くべきことに、なんと、理不尽にも自分の車がひしゃげたことで泣きながら退場しちゃうんだな、これが。この辺の芝居じみた不条理への流し方もうまいなぁ。ただ僕は、この医者があっけなく改心(?)し、患者と一緒にヘリで出発するという展開も見たかったな。そのくらいの割り切り方というか飛躍はあっても違和感のない構成だっただけにちょっと、惜しい気がした。第一その方がかっこいいじゃん。すぐに割り切る悪役って魅力あるもん。で、いよいよ大団円。舞台に並んだ3姉妹のかわりばんこの独白があるんだけど、これはせっかくの3姉妹のバランスを崩してしまったように思えて残念。姉と妹は最後までいっちゃってて欲しかったな。そして、シャボン玉が乱舞し、少女の夢はフィナーレ。

 素直に拍手の出来る大変良い芝居だった。ジャックって、すごく透明感のある劇団だな、と思えた芝居でした。さんきちくん、オペミスはすぐにわかったぞ。はっはっはっ。


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