映画  Thway 血の絆

2004年春。
赤坂ツインタワービル。
幻の映画 Thway の試写会に来た。 民族衣装を着たミャンマー人も来ていた。 赤坂のツインタワーは にわかにビルマのホテルのロビーのようだ。  


ものがたりの あらすじ・・・

黄金のシュエダゴンパコダが太陽に照らされ輝きを増している。
僧侶の読経の声が響く。 

第二次世界大戦中 ビルマに従軍した陸軍士官 吉田隆夫は、日本軍車両に轢かれたミャンマーの子供を病院へ搬送した。 度々、見舞いのために病院に通ううちに、看護師として働いていたマトエトエと恋に落ちる。 彼女は 優しく控えめで聡明な女性だった。 やがて二人には子供が生まれる。  

インパール作戦が始まり 吉田も部下を率いてインパールへと転進していく。 しかし 日本軍は敗れ ちりじりになって敗走していた。 ある日 マトエトエは 道に倒れている吉田を見つける。 彼女の献身的な看護で一命はとりとめたものの、日増しに日本軍の敗色は濃くなっていく。 吉田は部隊へ復帰するが、日本軍はビルマから撤退。 ビルマ全土に排日機運が高まって 日本軍に協力的だったビルマ人たちは追い詰められていく。 マトエトエの一家も焼き討ちに合い 逃げ延びるが 子供を残し亡くなってしまった。

吉田は故郷に復員するが、病に臥せってしまう。 娘の由美に ビルマ女性との間の子供がいる事 美しいビルマの事 優しい人たちの話を聞かせ、いつかビルマに行ってほしい・・・と言い残し亡くなってしまった。
その後 由美は大学でビルマ語を学び、ビルマへやって来る。

由美は ビルマで伝を頼りに 異母弟を探す。 親をなくした弟は、大学教授に育てられ、マンダレーで大学生になっていた。 ようやく見つかった弟は、日本人の子供 孤児 として苛められて育った事もあって、日本や日本人に強い憎しみの感情を持っていた。  そのため 名乗り合わない、という条件で対面する。

逢ったものの 弟は 由美が日本人である事に過敏に反応し、憎しみの視線を向ける。 感情を自制できず、激しい言葉を浴びせる彼を 由美は優しく受け止めようとする。 微笑み 穏やかに接するほど 弟の態度は強硬にエスカレートするのだった。 見かねて 二人の間をとり持とうとした養父の忠告も 彼の感情を逆撫でするだけだった。 由美は時間をかけ、根気良く接点をつくろうとするが、憎しみに満ちた態度は変わる事が無く、故意に辛い食事を出されたり、希望の光が見えず、苦悩する。 

今もビルマに眠る無数の旧日本軍兵士の白骨に無念の魂を感じる。 また 瀕死の重傷を負い 僧侶やビルマの人々に助けられ、生き残ったものの 生き方を失ってしまった多くの日本人。 インパール作戦に代表される ビルマ戦線の悲惨は 多くの人の命・精神・生き方に 千尋のChasmを作ってしまった。 バガンの林立するパゴダの中で 由美は亡くなった父に訴え続けた。 「何故ビルマに残らなかったの? 弟は 今も苦しんでいるのよ。」  

ある日由美は、高熱で苦しむ弟の額に冷たいタオルを乗せようとしたが、拒否されてしまう。 それどころか 今までに無いほど口汚く罵られ、部屋を後にした。 事情を知った養父は 彼に本当の事を告げる。 彼女はお前の姉さんなのだ・・・と。 それを聞くと 弟は雨の中に飛び出して行き 帰ってこなかった。 彼女も弟も 深い心の傷を負っていたのだ。

彼は 昔 孤児のときにお世話になった僧院にいた。 彼の少年時代を知る若者たちの挑発にのって喧嘩になってしまう。 養父と由美が割って入るが、由美は川に転落してしまう。 慌てて 川に飛び込み 由美を助ける 養父と弟。

由美が日本に帰る日になった。
弟は 亡き母や父の遺品を見て 何か吹っ切れた様に空港へ急ぐ。 もうすぐ飛行機の出発時間だ。  
空港で由美の姿を探し 走り回る。 
飛行機へと歩く由美の姿を見つけた。
タラップを登り機内に入ろうとした由美の後ろから 弟の叫び声が聞こえる。

「姉さ〜ん。」

振り返る 由美の頬に 涙が・・・。

長いエンディングのテロップ。
 以上・・・私が感じた 映画のあらすじのご紹介。

上映時間は四時間近い。 途中休憩のある映画は久しぶりだった。 会場は劇場ではなく パイプ椅子だったが映画に引き込まれた。 1990年の企画後 バブルがはじけ スポンサーが変わり 時に中断し 紆余曲折14年。 挨拶に立たれた千野皓司監督は、2005年には劇場公開できる見込み・・・とお話されていた。 しかし その挨拶から6年・・・未だに公開は果たされていない。 幻の映画である。 

映画の全面を彩る人間ドラマ その向うに展開する戦争という極限の世界。 時間を越えた日本人とビルマ人。 戦争がもたらす巨大な悲劇の渦の中で 多くの人の糸が 絡み合い 意図を持って動き 苦悶する。 一方 この物語の人たちが生きた時空とは離れた所に インパールに代表される戦争を指導し 作戦を指揮した まったく異なる人たちがいた。 その彼らが 何を考え 何を語り どんな行動をしたのか・・・。 土門周平氏の著作 インパール作戦は、そのように対比して 読ませていただいた。 

人は思いのほか 変化に気づかないし、三つ以上の事柄が関わってくると 状況をつかむ事すら困難になってくる。 更に 異なる時間や場所が関連して・・・となると きちんと理解できる人は稀になる。 しかし それらはすべて 何らかの因果律で結ばれ 結果となって行くのである。 目の前で起こっている事だけを見て 感情的に捉えすぎたり 一喜一憂してはいけない。 見えない水面の中に何があるのか 過去 現在 未来の連鎖の中で 冷静に きちんと考える 整理する 確かめる・・・そういう事が改めて大切なのだ。

夕暮れの赤坂 溜池山王を 赤坂見附に向って歩きながら そんな事を考えていた。 


    参考文献・・・失敗の本質 日本軍の組織論的研究 戸部良一 野中郁次郎 他 共著 ダイヤモンド社
            インパール作戦 日本陸軍 最後の大決戦  土門周平 著 PHP研究所
            Thway 血の絆  映画パンフレット


 インパール レイテ ミッドウェー 太平洋戦争で 日本が犯した過ちを調べてみると 日本人のDNAや 限界・・・というものがあるのかもしれない・・・と感じる事がある。 今を生きる我々も同じDNAを持っている。 先人の命を懸けた経験は 活かさねばなるまい。  

この映画をすでにご覧になられた方も多いでしょう。 一方 まだの皆様 機会があれば ご覧になってみてください。
Thway 血の絆が 一日も早く劇場公開されますように。 この映画をきっかけに 日本について ビルマの事 戦争の事 人間関係の事 多くの人が 何かを考えるきっかけになれば・・・と思います。   千野監督 に 感謝 と エールを送ります。  




遠くへ行きたい・旅物語
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Mr. Yang. All right resreved .