トリニティのコラール 

7月 某日 午後2時。
ツェルマットにやって来た。
天気が良い。 山がよく見える。
ホテルに荷物を置いて スネガの展望台へ登る。
ツェルマットの街のはずれに ケーブルカーの駅がある。 

「Oneway ticket to SUNNEGA two please. 」

全線トンネルの スネガ エキスプレス 高速ケーブルカーは、高速でトンネルを駆け上がる。 日本のケーブルカーとスピードが違う。 瞬く間に 展望台へと運んでくれた。 地下駅から外に出る。 眩しい午後に照らされたマッターホルンが目の前に見える。 さわやかな風が吹いている。  カフェテリアでは 午後のお茶を楽しむ 欧米の旅行者たち。 

さあ 麓のツェルマットまで トレッキング。
水面に写る マッターホルンが揺らめいている。 雲が流れていく。 
年配のご婦人に声をかけられた。

「日本の方ですか?」
「そうです。」
「いつから こちらに?」
「今日 昼過ぎの列車で着いたばかりです。 山が綺麗だったので急いで上がってきました。」
「貴方たちは 運がいいですよ。 一昨日から居るんですけれど 今日のお昼まで雨で 全然山が見えなかったんですよ。 午前中は寒くてね 雹が降っていたぐらいです。 お昼過ぎに ようやく晴れてきたんですよ。」
「七月に雹ですか?  私達は幸運ですね。 それでは良い旅を・・・ 失礼します。」
「貴方たちもね。」

山の天気は変わりやすい。 午後はなおさらだ。 見晴らしのいい時は 迷わず山に登るのが良い。 ツェルマットへのトレッキングコースの所要時間は ゆっくり歩いて2時間前後。 急な坂も少なく 歩きやすい。 途中 小さな村の中を通る。 木造の古びた家が並んでいる。 屋根は 瓦のように薄く大きな石が並べられ、壁にはたくさんの薪が積んである。 赤と白の星印 ヴァレー州の旗がゆっくりたなびいている。 山を降りると マッターホルンの角度が変化する。 家と家の間から見え隠れする。 若草色の草原 向うの丘は深い針葉樹の森だ。 その向うに 薄く青い岩肌のマッターホルンが見える。 

道は谷間に入ってきた。 左の深い谷から急流のせせらぎが聞こえる。 やがて針葉樹の林の中へ道は続いていく。 鉄橋が見えてきた。 左手から登山電車が降りてきた。 明日は 登山電車に乗ってゴルナーグラートの展望台へ行こう。 

  注釈 展望台が豊富なツェルマット。 
     スネガ 標高2293m  ゴルナーグラート 標高3089m  クラインマッターホルン 標高3820m の三箇所に行ってみた。
 
     クラインマッターホルンは ロープウェイで行ける展望台ではヨーロッパ一の高所にある。 展望台の駅は 岩肌に開けられた
     横穴の中にあり 到着直前の視界は迫力がある。 ゴルナーグラートの展望台ははるか眼下にあり 眺望の迫力は最高。
     マッターホルンが間近に見えるが 山の容姿は 別の山に見えるほど 麓で見る印象と異なる。 
     3800mを超えた高所なので眠くなる。
     ゴルナーグラートは モンテローザ から リスカム ブライトホルン マッターホルンと連なる山々と ゴルナーグラート氷河を
     眺望する事ができる。  4000mを越す山々とそこから流れる氷河をひと目で見渡せる パノラマが魅力。
     スネガは標高が低く 迫力は期待できないが マッターホルンは一番美しく見える。 
     マッターホルンが 美しく見える角度にあって 気軽に行ける展望台。 お奨めです。
     

ツェルマットの街に降りて来た。 若い何人かがビラを配っている。 にこやかに渡された紙には、教会で開かれるコンサートの案内が記されていた。 夕食後 妻と一緒に行ってみよう。

チラシは 大きく 「イギリスのケンブリッジ大学のトリニティー カレッジの有名な合唱団。 」
英語 ドイツ語 フランス語 日本語 四カ国語で 時間 と 場所 が書いてある。 そして一番大きな字で 無料と。 どんな合唱団なのか知らないけど ケンブリッジのトリニティーカレッジは たしか著名人も輩出した名門校だったような。 へたくそな手書きの文字で作られたチラシがいかにも学生っぽい。 無料・・・っていうのがいいじゃないか。
 

バリザー・カンネで夕食をとることにした。 フライッシュ と チーズフォンデュ と ロシュティー。 スイスの乳製品・野菜・肉料理は美味しい。 どれも日本で食べるものとは似て非なるもの。 濃厚な味わいと歯ごたえが魅力である。 店の名前から イタリア系のレストランらしい。 決して広くないメインストリートには 多くのレストランが並び 屋外のテラス席まで たくさんの人で溢れかえっている。 各国からの旅行者が ワインを片手にしゃべり ディナーを楽しんでいる。 平和とは いいものだ。 

コンサートの時間だ。 教会に向う。 開演15分前 シンプルな内装の教会は、7割がたの席が埋まっていた。
ケンブリッジのトリニティーカレッジのコラール。 20名程の混声メンバーが入ってきた。 後方から指揮者が入場。 教会で聴く 清々しいコラール。 彼らの美しい声が教会に響き渡る。 ステンドグラスに夕日がかかり 教会の中に色づいた光線が入ってくる。 教会の後方に設置されたオルガンが響く。 
 指揮者が さっと手を上げて合図する。 黒のロングスカートに白いシャツ 赤いスカーフを巻いた女性達、 黒のタキシードと蝶ネクタイ 胸に赤いハンカチの男性達。 彼らは 左右に広がり 立位置を変化させる。 
歌っている言葉も良くわからない異教徒で異文化人の私。 でも、感動は しっかりと受け取りましたぞ。

彼らの印象を書きたいのだが、ボキャブラリーが乏しく 語り方が思い浮かばないのだ。  興味本位の書き方で恐縮だが 紳士淑女然とした彼らに 彼らに好意的な興味が湧いて来たのだ。 

みんな 落ち着いて 自信に溢れ 微笑んでいるけれども、彼らはどんなご両親に育てられたのだろう。 どんな環境で育ったのだろう。 どんなプリンシプルを身に着けてきたのだろう? これからどんな職業に就き 10年後 20年後 どんな成果を挙げ活躍しているのか見てみたい。 これから 彼らが どんな人生を歩むのか・・・興味が沸いたのだ。 そんなふうに思うほど 立派で颯爽と唄う若い彼らを 眩しく見ていた。 
 

1999年 7月 スイス  ツェルマット


ツェルマットの教会にて トリニティーカレッジのコラール 美しい歌声の雰囲気をお楽しみください。 
日没時刻の教会の室内は ノーフラッシュで撮影のためブレていますがご容赦ください。




欧州を旅すると 思いがけなく 一流の演奏家のコンサートやオペラ または素敵な音楽界を楽しむ機会に溢れている。 こうしたあたり 欧州の深い文化の香りを感じる。 ツェルマットの様な小さな村でも トリニティーの合唱だけでなく 美しい中世の衣装を着た鼓笛隊の演奏や ストリートパフォーマンスが見ることができる。 欧州の夏は 日が長い。 食事の後も 街を散策が楽しめる。 ホテルのコンシェルジュに問い合わせたり 案内版を眺めたり レストランで情報を仕入れたり 当日のイベントを確認してみては如何だろう。 残念ながら 私はオペラの趣味が無いのだけれども コンサートやオペラは 当日チケット入手も可能なことがあるようだ


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