デフォルメ・モデルニスモ・バル


■デフォルメ

ピカソ美術館を探していた。
地図を見ながら 9月のバルセロナの街を彷徨い歩く。
一つひとつ、小道を覗き込みながら 知らない街を歩くのは楽しい。

強い午後の日差しに照らされた大通りから 日影のわき道を左に曲がると 石造りの小道の奥に 白と藤色に塗り分けられた ムセオ ピカソの垂幕が見える。 灰色の石作りの建物。 中庭に向って大きなアーチが口を開け、左手にチケット売り場がある。 ならんでいるのは、20人ほど。  

この美術館は、ピカソの若い頃と晩年の作品を中心に展示されている。 
子供の頃の作品は初めて見るが、ピカソの香りも 個性も まだ萌芽していない。 その一方で、絵は小さいけれども、成熟の域に入りつつあるようなデッサンが並ぶ。 

ベラスケスのラス・メニーナスを ピカソが模写した一連の絵画は、彼の絵が どのように深化して行くのか・・・一端を垣間見た。 一枚 一枚を 映画のコマの様に続けて見ていくと・・・次第に ラス・メニーナスの右手奥・・・暗い壁に開かれたドア 階段に片足をかけ こちらを見ている黒装束の男性像に 関心と表現が集まり まとまって行く。 同時にその部分の空気を汲み上げ 消化している様に感じられる。 デフォルメ・・・言うのは容易いが 行うのは困難な作業。 この数日前、プラド美術館で ラス・メニーナスを鑑賞。 引き込まれるように眺めていた。 印象に残ったのは、暗い壁の奥で 明るく開かれたドアと その向うに立つ男性の姿。  この一連の模写を鑑賞して以来、デフォルメ・・・という言葉を慎重に使う様になった。


■モデルニスモ

三題話として・・・バルセロナ 建築美術 ガウディーがポピュラーだろう。
代表作で遺作でもある サクラダ ファミリア 生誕のファサードは 大胆さと緻密さのバランス 全体が放つ存在感 期待以上のものと感じた。 同時にガウディーの事は、多くの人が語り伝える処・・・多くは語るまい。 一点だけ・・・もし ガウディーだったら 受難のファサードはあんな風に作るのだろうか? 
  
この日はバルセロナの建築美術を見て歩く。 
旧市街地あたりからスタートした 散策は カタルーニャ音楽堂を目指す。
ガウディは 予備知識を持って見た事もあって 新鮮な感動が薄い。 一方 ガウディーと同じ世代を生きたもう一人の建築家 モンタネールの代表作 カタルーニャ音楽堂は、コントラストの効いた色使いだけでなく、距離を置いて見た時に より立体感を強める効果も感じられる。 遠くに眺めるだけでなく、全体の色彩とオーナメントと一体となった造形美は、近づいて見ても楽しむ事ができる。 西に傾きかけた陽の光を受けて 遠く視線を投げ けだるい表情をした女性像は印象的。 色の組み合わせが巧みであっても 用いる場所 形 面積 対比 これらによって 印象はまったく異なるものになるから 不思議だ。 音楽堂は 奇抜な色使いと緻密な柄の織物を使って作った大胆なデザインの服を纏い、多様な装飾品を身に付けた貴婦人のようだ。 これだけやると 普通は失笑を買うし、嫌味で 鼻持ちなら無くなるはずだが・・・昇華させる才能のなせる技なのだろう。 強い個性を融合させ 強い存在感でまとめ上げてしまう。 

モデルニスモ時代を画す代表的建築家であったガウディーとモンタネール。 ガウディーから受ける印象は 苦労・寡黙・愚直・孤高・信念・挫折・才能・結果的に陰を活かすための光。  モンタネールから受ける印象は 才能・開花・器用・社交・文化・名誉・社会・順風・要するに 陽を際立たせるための陰影。 

もし 二人に逢う事が出来るのなら この印象が如何なものか 確かめてみたい。


■バル

バルセロナは 道端に広がるカフェが多い。 
小腹が空いた時には、大人の楽しみ・・・バルがある。
町並みも イタリア や フランスなどラテン系の雰囲気がある。

4時過ぎ グランビア通り沿いのバルに入る。
アンチョビ オリーブ ジャガイモのサラダ ソーセージとトマトのパニーニ それにビールとオレンジジュースを頼んだ。 と言っても ショーウインドウに並んでいる料理を指差すだけ・・・子供でも出来る手軽さが良い。 窓際のテーブルに席を取ると すぐにお皿が運ばれて来る。 通りを行き交う人達を眺めながら たっぷり時間をかけて飲むビールは楽しい。 

  注釈 バルをご存知の無い方に・・・軽食と飲み物を主体に 手ごろな価格 気軽な飲食店。 
      大人の雰囲気があり、味も美味しい。
      東京 銀座の三笠会館一階 イタリアンバル La VIOLA の雰囲気で 豊富な料理を揃え、
      昼間から安心してビールが飲めて お手軽な価格で 大人が楽しめる場所なのです。



■番外編・・・ゴヤ

プラド美術館にやって来た。
ベラスケス と ゴヤ を鑑賞するならプラドは最高の美術館。
階段を登り 一番奥まった部屋へ急ぐ。 突き当たりの部屋を右に進む。 いくつも続く部屋の一番奥の壁に 大きな二枚一対の絵が こちらを見て微笑んでいる。 着衣のマハ と 裸のマハ。  良い絵にはパワーがある。 引き寄せる力 と 同時にオーラの様に何かを放つ力。 周辺からブラックアウトして行く視野。 
一対の絵画に吸い寄せられ、魅惑の瞳から放たれるオーラの矢は胸を射抜いていく。    


■番外編・・・生ハム

マドリッド 18:00.。
グランビア通り SIERENA VERDE。
1階はバル 2階はリストランテ。 シーフードが売りの店だ。 黒服のオーダーテイカーのお奨めにより 前菜で 生ハムとレバーのパテを試す。 パテはパンに塗り食す。 香りもよく、ビールによく合う。 メロンと生ハムは 目の前で カットし 取り分けてくれる。 生ハムはナイフで削ぎ切りにして カットしたメロンに乗せてくれるが、思いのほか硬く 削ぎ切りにするのに手間が掛かる。 スライスしたハムは 褐色がかった赤身で じわじわと表面に油が滲み出してくる。 スライスは厚めで しっかりとした歯ごたえがある。 噛み締めると 肉の香りと旨味が広がる。 欧米の食肉文化に触れる度、日本では経験する事が困難な味に出会う。 この生ハムの食感・味覚をどう語れば良いのだろう。 多分日本で食すハムの感覚をはるかに超える旨味がある。 

見ることは信じること。 
試してみると 自分の脆弱な知識の壁を いとも簡単に 実に気持ちよく 壊してくれる。
試す事は楽しい。 
試す事に失敗はない。 


2000年9月 スペイン バルセロナ マドリッド 



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