老 僧

見渡す限り続くパゴダの景色は、想像以上だった。 
バガンはすばらしい。



夢中でパゴダに登っては景色を眺めた。 日本の事 仕事の事 みんな忘れてしまった。 暑季から雨季に移り変わる時期のバガンは とても暑かった。 あまりの暑さを避けるため 古い僧院で休憩させてもらった。 僧院の天井は高く 薄暗い。 僧院の中を涼しい風が通り過ぎていく。 仏壇の前の広間にはテーブル置かれ、老僧が一人で座っていた。  老僧からお茶やお菓子を振舞われ 静かにお話を聴く事ができた。 お釈迦様のお話や 最近の日本の話 などで時間は流れて行った。 僧院を失礼させていただこうとした時、老僧は言った。

「何か身に着けているものを出してください。」

腕時計を差し出すと 老僧は両手で包み込むように額の前で合掌し 目を閉じて プツプツと祈り始めた。 
しばらく祈った後で こう言いながら 腕時計を返してくれた。

「貴方が、この時計をしている時 私は貴方と供にいます。 日本は経済的に発展し仕事も大変でしょう。 貴方の心は傷つく事もあるでしょう。 この時計をしている時は いつでも私がそばにいます。 ミャンマーから 貴方の事を祈っていますよ。」

お礼を言って 僧院を出ると 日差しは穏やかになっていた。



1998年6月 ミャンマー バガン

遠くへ行きたい・旅物語
Travel to Myanmar
Mr. Yang. All right resreved .