再会 X

2003年11月 三度目のバガンを 馬車で巡る。
一緒に連れてきた両親は ガイドのキンさんに任せ ポッパ山に向かっている。
馬車は Sein Nyet Ama へ向かう。  そこには懐かしい友達がいるはずなんだ。


2002年 二度目の訪問 自転車でバガン巡りをしている時、道端で声をかけられた。 

「日本人かい?」
「そうだよ。」
「この遺跡はテラスに登れる。 案内するけど どう? 」

彼の名前は Maung Shan 。 
ニューバガンに住んでいる絵描きだった。 毎日 兄弟と一緒に Sein Nyet Ama で 絵を売り 生計を立てていた。 彼は、賢いが 真面目・律儀・不器用を絵に描いたような人だった。 彼に案内され Sein Nyet Amaのテラスに腰掛けた。 景色を眺めながら話をしていると 人柄が伝わってくる。 

「この寺は 今 登っている寺院と 東にあるパゴダが一対になっている珍しいタイプなんだ。 寺院は 伝統的なバガンスタイルだけど 対になっているパゴダは丸く 円錐状になっている。 寺院とパゴダは 二つで一つなんだ。  男と女のようにね。」

彼は物静かに バガンの歴史や 人々の暮らし等 色々な事を話してくれた。 長い時間をテラスの上で過ごし 一緒に景色を眺めていた。 絵は とびきり上手ではないが、彼のまっすぐな人柄が現われているように見えた。 不器用でまっすぐな人を見ると 応援したくなる。  絵を数枚購入する事にした。
帰りがけに 彼が言った。
 
「ミャンマーのコインを見た事があるか? 」
「ない。 ミャンマーは紙幣だけしかないじゃない。」
「ああ 今はね。 昔はあったんだ。 興味があれば上げるよ。 記念にどうだい。」
「見てみたいね。」
「今夜ホテルに届けてあげる。 」
「ホテルはオールドバガンだから 遠いよ。」
「気にしないでくれ マイフレンド。 今晩行くよ。」

そう言うと 本当にコインを届けてくれた。
律儀な奴なんだ。


今年は その時の写真を渡したくて Sein Nyet Ama にやって来た。
寺の土産物売り場で 見覚えのある顔を見つけた。 たしか Maung Shan の弟のはずだ。 

「Maung Shanを探している。 いるかい? この写真を渡したいんだ。」
「Maung Shanは 僕の兄さんだけど。 貴方は兄さんの友達かい?」
「うん 去年ここで 絵を買った。」
「兄さんは 今ここには いないんだ。 今 馬車のドライバをやっている。」
「そうかい。 それは残念だ。 じゃあ この写真を渡して よろしく伝えてくれよ。」
「ok ok。 必ず伝える。」

逢えなかった。 
残念だが 諦めて 昼食をとりにリバービュー レストランへと急いだ。 
リバービューレストランの ゼネラルマネージャー U Min Ko にも逢いたかった。 

去年 このレストランで昼食をとった。 客は私達二人だけだった。 食後のお茶を飲みながら 川を眺めていると 人懐っこい笑顔で近寄って来る人がいた。 それが U Min Ko・・とても落ち着いた 話上手 聞き上手な人だった。 食後のひと時を おしゃべりに興じる。 とても贅沢な時間に思えた。 
彼は 元々はヤンゴンの大手レストランに勤務され、レストラン ホテル業界に詳しかった。 1998年にフーピン ホテルに滞在した時の写真を見せると すぐに撮影した場所を言い当て 写っているスタッフの半数を知っていて 誰が 今どこで 何をしているか を教えてくれた。 ヤンゴンに家族を残して単身赴任していること ミャンマーの受験について お子さん達の事 英語が如何に大事か 観光ビジネスの事  インレー湖のお祭りの事 穏やかに 語って聞かせてくれた。 結局 二時間近く 話し込んでしまった。  


しかし 今 レストランには 彼は いなかった。  
今年 新しくオープンした タラバーゲートホテルのゼネラルマネージャーとして 転職されたのだそうだ。 
あの至福のおしゃべりは あの時一度だけ・・・ 時 と 人 と 気 が重なった 一期一会なんだね。




リバーサイドレストランで 両親と合流した。
午後遅くスタートした観光は あっという間に日没の時間になり、夕焼けは ピャッタージーから眺め ホテルに戻った。
暗がりの中を ロビーから 子供を連れた人が近づいて来た。
それは 昼間あえなかった 絵描きの Maung Shan だった。

「Good evening. 」
「You Maung Shan. Nice to see you again. 」
「Ya ya  Nice to see you too. 」
「Are you waiting for me? 」
「Yes.」
「It must be long time. How long have you wait?」
「No problem. Don't mind it.」
「How have you been?」
「Fine By the way thank you photo.」

彼と娘さんを連れて 私達の部屋へ行く事にした。
娘さんには お菓子と色紙などをプレゼントした。
赤いワンピースに タナカを塗って おめかしして来てくれたのだろう。

両親が 娘さんに折り紙を教えている間 しばらく彼と二人で話す時間がとれた。  彼は 変わらず 真面目な男だった。 子供たちも大きくなって 学校に通いはじめた。 子供の成績が優秀で 勉強を続けさせてやりたい。 好きな絵描きでは養えないので、今年から観光馬車のドライバをしているという。 明日観光予定があるなら チャーターしてほしい と言っていた。  しかし 明日の朝には移動する。 残念だが。

彼と娘さんを夕食に招待したいと申し出てみたが 彼は遠慮した。 
真面目な彼には 高いプライドがあるだろう。 
彼に お金が必要なのは良く判っていた。 何とか 彼に仕事を依頼し その報酬としてなら 気持ち良く お金が払えるのに・・・。 その彼に依頼する仕事が見当たらない。   次にバガンに来た時 馬車観光を頼むよ・・・

一時間ほど居て 彼らは帰って行った。

「You are my brother.」

そう言い残して帰る 彼の後姿を 複雑な気持ちで見送っていた。



2003年11月 ミャンマー バガン

遠くへ行きたい・旅物語
Travel to Myanmar
Mr. Yang. All right resreved .