こんばんは ミャンマー



ミャンマーの首都、ヤンゴン国際空港である。
(現在はネピドーに遷都されている。)

到着したタイ航空機以外に飛行機は見当たらない。
小さく 暗く 懐かしい雰囲気を漂わせている。 

タラップに出ると 暗がりの中から懐かしいミャンマーの匂いがする。


イミグレーションホールは タイ航空機でバンコクからやって来た人々で溢れかえっていた。 
入国審査待ちの列の最後尾にいるので 通過に30分ぐらいかかるだろう。  それほど広くないけれど 天井は高く 明る過ぎない照明に照らされたホールに 入国審査カウンターが並んでいる。 カウンターの中では 数名の女性係官がせわしなく書類に書き込んでいる。 コンピュータは置いてあるが、使っている様子はない。 見るからに勤勉そうな女性達が せっせとボールペンを動かすが、作業は中々進まない。 イミグレ通過待ち時間予想は 30分から1時間に延びる。  


1998年6月 初めてミャンマーにやってきた時のこと。
大阪 関西空港からANAの直行便(NH1181便)に乗って ミンガラドン空港に到着した。
全日空(BOEING767-ER)ビジネスクラスの乗客は三人だけだった。  
雨上がり 蒸し暑い空気の中 タラップを降りた三人は 迎えのバスに乗り込んだ。 三人を乗せたバスは エコノミークラスの乗客を機内に残したまま、突然ドアを閉めて動き始めた。 後続のバスはいない。 一台のバスがピストン輸送するようだった。  なんとも言えない変な気分のまま入国審査の建物に着くと、中は薄暗く、よく見えない。 ついて行く人もいない中、呆然としていた。 次第に暗がりに目が慣れてくると 目の前に 浅黒い顔で小柄な係員と思しき人が立っていた。 指し示される方に歩いていくと 木の机が5〜6個並んでいる。 昭和30〜40年代の日本の小学校で使っていた様な 古びた木の机の前に小柄で痩せた男性係官が一人立っていた。 制服のシャツに地味な色合いのロンジー(巻きスカート) 裸足に草履という姿が印象に残っている。机の上には 数枚の書類とスタンプにボールペン。 
コンピュータは置いていなかった。 
薄暗いイミグレで、黙々と手作業を進める係官の手元を 私はぼんやり眺めていた。

そんな事を思い出しながら 二度目のミャンマー入国審査を待っていた。 ミャンマー人の入国審査の列はどんどん短くなるが、外国人の列は遅々として進まない。 30分を過ぎても 列はほとんど動かなかった。 待ち時間の予想は、1時間から2時間に 再度延長された。 

一心不乱 若い女性係官が仕事に精を出している脇で、腹の出た管理職のおじさんがニコニコして眺めている。 やおら おじさんはニコニコしながらカウンターから出てきた。 制服にロンジーそして草履姿だった。 お約束のミャンマースタイル。 おじさんは列に並ぶ外国人からパスポートを集め始めた。 赤 緑 青 色とりどりのパスポート 星や鷲 色々なマークのパスポートが束になっていく。 最後尾にいる私達の菊のマークのパスポートは 束の一番上に重ねられた。 おじさんは カウンターに戻ると それぞれの女性係官の前に ばざばさとパスポートの束を積み分けた。 女性係官は 顔色も変えずに黙々と作業を続けている。 

下から順に積み上げたパスポートの山を 反対に上から処理し始めたものだから 列に並んでいる順番と逆になってしまう。 処理が終わったパスポートは、顔写真のページを開き、振り回して持ち主を探している。 列は崩れ カウンターの周りに群がった。 列の一番後ろにいた私達は このシャッフルのおかげで 45分で入国審査を通過した。 腹の出たおじさん ありがとう。

強制両替は300ドルから200ドルに変わっていた。
ターンテーブルから荷物を取り上げ、税関を通過すると、ホテルとタクシーの案内カウンターがある。 カウンターの中から頬にタナカを塗った女性が 身を乗り出して何か絶叫している。 一瞬たじろぐ。 ホテルからピックアップが来ているはずだ。 お姉さん方が絶叫する案内カウンターの後ろに視線を送り 人垣を見渡すが見えない。 妻に頼むことにした。

「暗くてよく見えない。 サミットパークビューのボード持っている人見つけてよ。」

妻は じっと一通り眺めると

「あっ あそこにいる。」

と言ってすたすた歩き始めた。 バゲージを押しながらついて行く。 目が悪くなったなあ〜。
 
空港の建物を出ると 焚き火の煙の匂いに混じって 香木(白檀)の様な ケロシンが燃える時の様な 埃っぽい大地に雨が降った後の様な ニンニクを食べた後の様な 懐かしいミャンマーの匂いがする。


2002年10月 ミャンマー ヤンゴン




 

遠くへ行きたい・旅物語
Travel to Myanmar
Mr. Yang. All right resreved .