吉田拓郎作詞作曲の「リンゴ」について生産者が考える

この曲を聴いて以来30数年、ずっと思い続けていた「このりんごの品種は何だろう?」という疑問を解き明かすべく、つま恋2006を契機に今まで考えていたことをまとめてみました。


前提:1972年7月発売の「元気です」に収録されているので、作詞したのは1971年秋頃であろうと考えます。

今でこそりんごと言えばつがる(サンつがる)とふじ(サンふじ)ですが、1971年(昭和46年)頃の栽培品種や一般的に購入可能な品種といえば、紅玉・デリシャス系・国光であり、ふじは栽培は始まっていたと言うものの試作〜増殖段階にあり、一部市場流通はしていたとは思われますが、今では考えられない程の高値で取引されていたらしいです。拓郎さんはブレイクし始めてはいたと思いますが、「結婚しようよ」「旅の宿」がヒットし、「元気です」が爆発的な売り上げを記録する以前なので、当時の物価で1個500円(推定)もするりんごを買っていたかといえば、疑問符が付かざるを得ないと考えます。従って当時流通していた品種から推理していきます。


参考資料1:農林水産省統計情報部(りんごふじの60年・ふじ60周年記念誌刊行会より)
卸売り数量の統計です

※「青い森の片隅から」様より各品種毎のリンクの許可を頂きました。画像及び消費者の立場から書かれた説明が読めます。りんご生産者である私も知らないことが多く書かれていて、とても参考になりました。画像も現在栽培していない物が多く載せられずにいました。ご協力に感謝いたします。(2006.11.15追記)

品種名 1971年 1972年 備考
2.6% 4.3% 7〜8月に出荷される青りんご
2.6% N/A MACのトレードマーク=マッキントッシュ:意外と知らないトリビア。スペル間違いというおまけ付きですw
ゴールデンデリシャス 7.2% 7.7% 世界中で栽培されているが日本では旨くも何ともないりんご
スターキングデリシャス 20.1% N/A 芳香があり甘いりんごで着色も良かったが軟化しやすいため未熟果での出荷も多かったようである
デリシャス 1.9% 25.8% スターキングとほぼ同じで着色に難あり。なぜか'72から統計分類が一緒になっている
紅玉 19.4% 14.8% アップルパイに最適な酸味の強いりんご
国光 36.3% 34.6% よく言えば甘酸適和だが果汁は少ない
印度 5.5% 5.2% 硬くて甘くて酸っぱくない保存の効くりんご。ボソボソの食感だったような?
ふじ N/A 3.2% '72になって初めて統計に登場しています
陸奥 N/A 1.9% 大玉になり保存の効くりんご
その他 4.4% 2.5% つがるは'77年の統計に%はN/Aですが、項目のみ登場します。
卸売数量合計(t) 817,175t 823,342t 本の資料は'98年までしか統計がありませんが、'98は462,998tと半分近くに減っています。


参考資料2


歌詞からりんご農家が独断的に検証する「リンゴ」

1.ひとつのリンゴを君がふたつに切る

二つに切ると言うことは、極端な小玉では無いと思われます。個人的見解ですが、20代の若者が丸かじりできるのは、余程のりんご好きでもない限り46玉(230g程度)までが限界?と思います。40玉(270g程度)になれば、切り分けて食べる大きさになると思われます。

2.ぼくの方が少し大きく切ってある

これは恐らく中心を少し外して切った、若しくは半分の半分にするとき90度より大きく切った方を渡したものと思われます。が、、、りんごには不整果というのがあり、中でも斜傾果と呼ばれる果実は芯の中心で切ってもかなり大小の差がつくものもあります。しかしこれは(現代では)出荷段階で規格外として撥ねられる可能性が大きいし、そうは言っても特価品のりんごを購入したとも考えられないので、ここでは割愛します。

3.そして二人で仲良くかじる

この部分にはヒント的な物は無いですが、バネの壊れた椅子が置いてあるような薄汚れた喫茶店でりんごを食べるといのが、'71年当時のスタイルであったかは疑問なので引用してみました。「元気です」発売後の'72秋にはこのスタイルが大流行したのだろうか?卸売数量では微増してますが、はたして拓郎効果があったのだろうか?当時の状況を知ってる方や喫茶店業界の方の情報をお待ちします。もし拓郎効果があったのなら、つま恋2006で盛り上がっているこの秋のりんご業界のCMソングに採用すべきだと思います(笑)

4.このリンゴは昨日二人で買ったもの

昨日買って、今日食べているので、品質の劣化(軟質化・油上がり等)は無いと思われます。但し現在のように物流はトラックではなく、国鉄の貨物便だったろうと思うので、収穫後からの日数は相当経ているものと思われます。収穫→荷造り出荷→市場セリ→中卸→店頭→消費者のルートで辿ると、現在でも各工程1日で行ったとして、消費者の口に入るのは4日目くらいです。国鉄の貨物便主体の当時では1週間位かかったのではないでしょうか?りんごの一点買いをしている様子なので、商店街の八百屋で購入したのであろうか?まさか高級果実専門店銀座千疋屋とか新宿高野フルーツパーラー?この時代、スーパーマーケットってどうだったんだろう?

5.ぼくの方がお金を出して、おつりは君がもらって

後に「ふたつめのリンゴを〜」と出るので、100円でのおつりではなく、500円札を出して数百円のおつりをもらった(あげた)のではないだろうかと考えます。70代の父親に言わせれば「昔からりんごは1個100円」が口癖なので、恐らく500円出して300円のおつりをあげたのでは?と思います???消費税の無い時代は計算が楽で良かったOTZ(ちなみに総額表示では現在105円か?)

6.ふたつめのリンゴの皮を君が剥く

1とも関連しますが、二つ目を食べるということは逆に極端な大玉ではないと言えると思います。20代の若者でも26玉(400g程度)以上を食べるのは余程のりんご好きでもない限り無理ではないでしょうか?皮・芯を除いた可食部分でも370g程度はあるはずなので、例えばステーキの370gや米約2合半ものボリュームのある物をコーヒーと一緒に食べるられるだろうか?もっとも'71年当時に今のようなパック流通していたかという疑問符も付きますが。木箱にバラ詰めで流通していたような気もしますが、それにしても玉の大きさはある程度揃っていたはずです。と、ここで疑問が出ました。ここでは明確に皮を剥いていますが、1〜3での1個目のりんごは、もしかしたらふたつに切って皮ごと食べたのかも知れません。'71年当時は今ほど健康志向の時代ではなかったので、果皮直下に含まれる成分がどうのこうのと考えた訳ではないと思われますが。ましてや20代の若者が。またふたつ切りを食べるのは非常に持ちにくいという点も挙げられます。丸かじりなら、こうあ部とがくあ部に指を当てて支えられますが、ふたつ切りはどうにもバランスが悪いと思います。七万五千円もする右手なので、恐らく四つに切り分けて食べたことでしょう。

7.ぼくの方が巧く剥けるのを君は良く知ってるけど

りんごの皮を剥くのに二つの方法に分類できると思います。ひとつは丸のまま螺旋状に皮を剥いていく方法。二つ目は4等分して4ピースを順々に剥く方法です。1.2から先に皮を剥いて、切り分けていると推理できるので、前者の方法を取ったものと思われます。そのほうが絵的にもいいしね。「僕のほうが上手く剥ける」とあるので身近な果実がりんごの食文化地域出身であろうか?君(彼女?)のほうは身近な果実がみかんの食文化地域出身であろうか?単に不器用なだけなのか?ちなみに私はりんご農家の子供だったせいもあり小学校高学年ですでに包丁で皮が剥けました。果物ナイフという折り畳みのナイフでも同様でした。なのでこの部分はやけに共感できたような記憶があります。('71〜2当時小6〜中1)

8リンゴを強く齧る

いよいよ核心部分です。「強く」かじるということはある程度の硬度がある証であろうと考えます。りんごの一般的な出荷時の硬度は14ポンド程度(サンふじあたりの硬さ)で、西洋梨の可食期が3ポンド程度と言われているます。文献によると歯ざわりの良い果肉は12ポンド以上と言われておりますので、12ポンド以上の硬度のあるりんごであったと思います。ちなみにりんごは収穫後も生きていて呼吸しています。その呼吸によって果実内の水分が抜け軟質化します。更に水分が抜けると粉質果してコナコナ・パサパサとなり食えたものではなくなります。この状態を「ボケ」と呼びます。温暖化が進んだ昨今では特に「サンつがる」はこの状態に陥りやすいです。冷蔵庫などで低温保存することによって、呼吸量を減らすことはできます。更に0℃で周囲の酸素を5%以下にし、高湿度で気密保存することで、呼吸量を1/20まで抑制できるそうです。これがCA貯蔵の原理だそうです。青森県産のりんごが翌年9月頃まで販売できるのは、この技術によるものです。


9.甘い汁が唇をぬらす

核心部分のその2です。「甘い」「汁」のキーワードが登場です。「甘い」と感じるのは単に糖度だけが高いだけではなく、甘酸バランスで「甘く」感じる場合もあります。つがるは一般的に甘いりんごの代表ですが、糖度の絶対値が高くて甘く感じる訳ではなく、酸度が低いため甘く感じる代表品種です。逆に紅玉・ジョナゴールドは酸っぱいりんごの代表ですが糖度の絶対値はつがるよりも高いのですが、酸度もかなり高いため酸っぱく感じる訳です。ふじは糖度が高く酸度が適度であるため「甘酸っぱい」と感じる、いわゆる甘酸適和の品種となります。「汁」が多いのは業界では「多汁」という表現で言います。「芳香があり多汁で甘酸適和」などと表現します。多汁と言われる品種でも未熟果では果汁がありません。また過熟果でも8で述べたように水分が抜けて「多汁」とは言えません。よって、硬度・糖度・果汁等の状態から判断すると、かなり品質の良い適熟果であったであろうと考えられます。


10.左の頬を君はぷくんとふくらませて

頬をプクンと膨らませる量は、4等分したピースの半分くらいを一気に口の中に入れたくらいでしょうか。噛み合わせの癖もあるかも知れませんが、私の場合右の頬がプクンと膨らむことが多いです。(本文と関係無いですOTZ)ちなみに私の場合みかんも好きですが、面倒くさいということもあり2〜3房を一気に食べます。やはり同様に右の頬がプクンと膨らみます。(益々関係ないですOTZ)恐らくそれとは関係なく絵的な美しさを考えたのでしょうが・・・。


11.欲張ってほうばるとほらほら話せなくなっちまうだろ

話せなくなるほどにほうばる位だから、食味は極上であったに違いない。


以上を踏まえ、吉田拓郎さんがイメージしたりんごの品種はずばり!!◎◎◎である!!!
と、言ってしまうと身もふたもないので、暫く投票システムで世論調査してみます。(テストの為各品種1票ずつ投票してあります)
尚、本文中の間違いや思い違いのご指摘や、ご感想・ご意見をこちらの掲示板にお書き頂ければ幸いです。

更新履歴
2006-10-30UP

2006-11-15個々の品種にリンク先追加(杉山様に感謝いたします)
2006-11-18題名・歌詞の重大なミスに気づき訂正orz
2008-05-18参考資料2を追加

質問 吉田拓郎作詞の「リンゴ」の品種はいったい何?
ゴールデンデリシャス
デリシャス系
紅玉
国光
印度
ふじ
陸奥
その他

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